44.クリティカルヒット
「何で? 何であいつら ー?」
「わかんない。でもきっとどこかにいるから、大丈夫だよ」
「まいったな。始まっちまうぞ。電話してみるか」
ひとしきりアトラクションを楽しんだ俺達は、最後に夜のパレードを観ようという事になり、なるべくいい場所から観る為、席取りの準備にかかった。
場所は木葉ちゃんのオススメでツンデレラ城前。パレードも通るし、プロジェクトマッピングで城の壁にあらゆるディスティニーのキャラクターがアニメーションのように写し出され、最後には城の後ろから花火が上がるという、何とも贅沢も贅沢すぎるスポットなのだという事で、そこの席取りをする事にした。
途中トイレに行きたい者も出る為、2人ずつ交代で荷物も広げて、しかしとくに間仕切りがない為、何となくの4人分のスペースを確保していたのだが、だんだんと席取りをする人数が増えてきて、他の人達との間隔も心なしか狭まってきていてなかなかその場から動きにくい状況になってきた。
陽も落ちてきて、視界も暗くなり、中には携帯のライトを使ってランタン代わりにしだす者も出てきた。そんな中、金田と木葉ちゃんはトイレに行ったきり帰って来ない。いや、帰ってきてはいるが、段々と人が埋まり隙間がなくなってきた為、もはやここまで入ってくるのが難しくなってきてるのか?
「もしもし? 今、どこにいる?」
「おーっ。ちょっと離れた隙にこれだな。今木葉ちゃんといるんだけど、この暗さと混みようじゃ、そっちに戻るのは難しいわ。今、夢ちゃんとの2人分はしっかり確保できてんだろ?」
「ああ。でも今ならまだどうにか戻ってこれたら、2人入ってくるスペースあるぞ?」
「いや、もういいよ。俺らはちょっと上の方でスペース見つけたからこっちで観るわ。こっちはこっちで高い分、池に浮かぶ船とかも眺められるしな」
「そっか。わかった。大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ。まだまだ体力も残ってるし」
「いや、木葉ちゃんだよ」
「あ、それなら大丈夫。心配すんな。むしろこの状況は木葉ちゃんも望んでたみたいだしな」
「え? どういう意味だ?」
夢は電話のやりとりが聞こえてるのかわからないが、今はツンデレラ城の写真を撮るのに無夢だ。
「あ、そうそう。昼間お前のポケットにウィッキー入れといたから、もし度胸ねえならそれ使って夢ちゃん落とせ」
「えっ? ポケット? 何言ってんだ?」
俺は思わず上着のポケットに手を突っ込む。
自分では入れた覚えのない、小さなプラスチックの物? のような感触が伝わってくる。それを掴んでポケットから出すと ー。
「お前、何やってんだよ! 何でこんなの俺のポケットに入れたんだ?」
時間が経つほどにだんだんと大きくなる喧騒に紛れてしまわないよう、少しずつ話す声が大きくなっていく。
「お前、気分が上がるとどもっちゃうだろ? だから万一の為に、上手く伝えられなかったら、それ使って夢ちゃん落とせって言ってんの! まあお前の思った通りのもんが出るかわかんねえけど、やるだけやってみな!」
「勝手な事すんなよ! 俺はこんなの使わねえぞ! それに俺は夢にもう ー」
ふと、見ると夢は俺の顔を見ていた。
じっとこちらを睨んでいるようにも、そうでないようにも、暗くてよくわからなかったが確かに、暗がりにほんのりと園内の照明に照らされている美少女と目が合った。
「じゃーなっ! おっ! 何か聞こえてきた! もう始まるぞ! こっちはこっちで上手くやるから、心配いらねえから! じゃまた後でな!」
「いや、別に心配なんかしてね ー?」
……切りやがった。
しょうがない。とりあえず今は夢とこの夜のパレードを楽しんで、また後で合流するしかないか。
……でも、何だ? 木葉ちゃんもこの状況を望んでだって?
ひょっとしてあいつら、俺と夢をくっつける目的でワザと2人きりにしたって事か。
いや、まあ確かに誰に言わずとも出来れば夢と2人きりに…とは思ったが、まさかここまで、こんな雰囲気あるシチュでいきなり2人きりにさせられたら、ある意味辛いわ。
昼間の木葉ちゃんの親指立てたポーズが今になって心に沁みる。今じゃね〜よ、木葉ちゃん。
まあ、どっかのタイミングで金田と意気投合したって事なのか……まあ金田は木葉ちゃんを気に入ってたみたいだが、実際木葉ちゃんは金田の事をどう思ってたかは知らん。知らんがしかし……はっ。
今は、夢だ。
夢の事だけを考えればいい。
「あのさ…何か2人は戻ってこようとしてたみたいだけど、人があれだ…多過ぎて戻ってこれないらしい。ただ、いや…だからとりあえずパレードその……別々で観る事になってた」
「何? どうしたの? 悟? 観ることになってたって何?」
「いや、あれだ。とにかく別行動だ!」
「なんでまた、ちょっとキレてんのよ」
「あ、ごめん。とにかく今は、2人で観ようぜ」
「まあ、この人の数じゃしょうがないよね。2人にはまた後で会えばいいし」
「ああ…」
おいおい。何で俺、今さらどもってんだよ!
もう夢の事はそのまんま、幼馴染! 何のアレもないの! いや、あったとしても今はいいの! わざわざご丁寧に緊張してんじゃねぇぞ!
俺は自分を心の中で思いっきり叱った。
バカだ。何やってんだ…。
少し前から流れていたクラシカルな音楽にかぶさるように、パレード開始のアナウンスが流れてくる。いよいよ、この最高に楽しかった1日を締めくくるに相応しいイベントの始まりだ。
俺は夢に意識を向けつつも、何やら楽しげな音楽がどこからともなく流れてくるのに身を任せ、パレードの始まりに胸躍らせた。
夢。パレード。夢。パレード。
俺の心は忙しい。
おれは夢の左側に立っていて、パレードは俺の左側からやってくる。なので俺は振り向く事でしか、夢を見る事は出来ない。ただ、夢を見る為だけに振り返るのはあまりに不自然だ。
何か一言、一言でもいい。
話したい事と一緒に夢の方を振り向けたら。
今、夢はどんな顔をしてるんだろう。
パレードに心踊らせ、パレードの荷馬車の装飾品や光輝く踊るキャラクター達をその目に映し出し、さらにキラキラと輝く瞳をしてるんだろうか。
今、夢の顔を見てみたい。
何でこんな…俺の無理目の絶世の美少女がすぐ後ろにいるというのに、ただ、振り向くのがこんなにも大変で勇気がいるなんて ー。
幼馴染なじみだろ? 子供の時からずっと一緒だったんだろ? 何を今さら、話す言葉が浮かばなくたって顔を見る位、何てことない、ただ見るだけ。それでいい。俺の心は舞い上がったとしても、夢にとっては「ただ見られただけ」それでいい。
パレードするキャラクター、何かのコンセプトであろう様々な乗り物、その上に立つダンサー達が賑やかに、人々の歓声を一身に受け園内のボルテージはますます盛り上がっていく。その雰囲気につられて、俺の鼓動も同様に高鳴っていく。
…よし、思い切って振り返ってみよう。
俺は今、この瞬間の夢を見てみたい ー。
意を決し、夢の方に振り返る。
夢と、目が合う。
元々俺を見ていたのか、振り返った俺に気付いて認識したのか、もう辺りは暗くてそういった判断は今は出来ない。
ただその瞬間、俺は夢の瞳に映る沢山の光に見惚れながら、この美しい幼馴染に心を奪われていた。そしてポケットに入れていた手が、無意識にウィッキーを握りしめていた ー。
カチッ ー。
「ブッ。ずっと大好きだったよ」




