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なげやりクリティカル  作者: さと丸


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42/113

42.子ブタのウィッキー

「どっひゃ〜っ!!」


「もうだめもうだめ!! 降ろして〜っ!!」


「おいおいおいおい! うっ! くっ! もほっ!!」


「きゃーっ! 何で? 何でこん…うわっ! やめっ!いやーっ!!」



 4人それぞれ叫びにも悲鳴にも似た声を上げながら、めまぐるしく動き回り水の上を進んでいくコースターにしがみ付きながら、俺たちはスプラッシュボヘミアンを堪能していた。ようやく出発地点まで戻ってきた俺達は、何とも清々しい顔でスプラッシュボヘミアンのコースターから降り、ようやくこのびっちょんこアトラクションから解放される。



「あーっ! 最高!!」


「うわ〜っ! めっちゃ濡れちゃった!」


「ちょっと、これ…面白いけど、やっぱ怖いよー」



 スプラッシュボヘミアンの1番の楽しみ所、それは何といってもゴール直前に差し掛かると、急降下でコースターが滑り落ちていきその先に待ち構えているたっぷりの、もはや池といわんばかりの水溜まりにコースターごと突っ込む。そこでかなりの量の水が飛び散るのだが、何故か俺だけは明らかに他の3人よりも濡れている……。みんな各々のリアクションをする中、俺だけは何故か座る位置が悪かったのか、あえて名前を付けるなら「びっしょんこポイント」とも言うべき席に座っていたようで、自分でも予想していた以上にびっちょんこになってしまっていた。しかもこれアンタ狙ってんの? 狙ってやったんじゃないの? という位の、ある意味記念に撮っておきたいくらいの濡れ様になっていた。



「…いや〜っ最っ高だな〜っ! なっ? 悟っ! おいっ! ん……? さと…お前…それって…」



……ああ。そうなのだ。ちょうどお股の所が、ある種「お漏らし」、丁寧に言えば「失禁」をしたように俺のズボンは濡れていた。



「きゃはははっ!! ちょと……ちょっと、ヤバいよ! それ! 悟君! やだ、もうやめて! ほんっと面白いから、もうやめて…! きゃはははっ!!」



 努めて冷静に佇んでいた俺のおかしな様子に気付いた木葉はボヘミアンに乗っていた時よりも高いテンションで俺を見て笑い転げていた。



 いや……そこはそっとしといてくれ。

 頼む。木葉ちん。



「あ〜どうすっかな〜っ。マジで、何でここまで濡れるかな? こういうのってスタッフ、キャストの人に言ったらタオルとか貸してもらえんのかな?」



 金田と木葉は笑い転げていて、もはや俺の話しなんて聞いちゃいない。



「もうっ。何やってんのよ。本っ当バカ」



 夢が俺に叱りつける。

 


「いや、こんなん、不可抗力でしょ? 濡れ方なんて操作出来んわ! ちょっと気温が上がってきてるからこのまますぐ乾いてくれると助かるんだけど、さすがにタオルとか、借りれないよな…」


「まあ、聞いてみないとわかんないけど、別に溺れた訳じゃないし、あくまでただ濡れただけだからそういうのは無理なんじゃない? 大人しくそのまま、次の所まで歩きながら乾かすしかないわね」


「いや〜っ。マジで持ってんな! 悟! ボヘミアン降りた直後にまたこんな笑かせてくれて! やっぱ違うわ、悟は」


「いや、何も違わないんだが。しいて言うなら軽く失禁した位なんだが」



 2人は余計に笑ってしまった。もう声が出てない。


 こいつら…このまま笑い殺してやろうか。




「ひーっ。ひーっ。もうダメ。」



 何なら本気で「濡らして」やって、この場を修羅場に変えてやろうかと、何だかよくわからない復讐心みたいなものが湧き上がってくる最中、夢は落ち着いた様子で、



「この後ビッサンにいく途中に確かグッズ屋さんあったでしょ? そこで悟はタオルを買いなさい。その間、私と木葉は隣でワッフル並んで買っておくから。いい?」


「ああ。わかった。そうする。何かごめんな」


「別にいいよ。どうせ通り道だから。……もしくはいっその事、もう一度ボヘミアンに行って全部濡らす? その方がいいかもよ?」



 ドSな事をいう夢に俺は多少ビビりながら、いや、このまま店に向かうと真面目に答えた。


 2人のやりとりを見ながら、金田と木葉は相変わらず笑い合っている。



「怖いな。嫁」


「ね。尻に敷かれてるね」



 いつの間にか夫婦にされている俺達だが、まあ、そんな悪い気はしない。まあ、何だかんだお似合い? に見えるのかな? それならそれでヤブサカでないぞ? なあ、夢?



「早く行くわよっ! …まさかアンタ…本当に漏らしちゃったんじゃないでしょうね」



 もうダメだと言わんばかりに後ろ2人の笑い声がとうとう爆発してしまった。



 ……君達、いい加減にしたまえ。夢も。

 もうやめれ。



 店に入るも、思ったより早くズボンが乾いてきてたので、多少の冷たさは感じるが、「おいたした」ようには見えないので、やはりタオルは買わずに俺と金田は、立山への土産を今のうちに買っておこうという事になった。



「何か、こういう所の土産って、女の子にならある程度目星が付きそうだけど、男相手ってのは何か迷うな」



 キーホルダーを物色しながら金田が呟く。



「そうだな。…じゃあ食べ物にすっか?」


「ん〜まあ。それもいいがしかし、やっぱそれだと面白くねえし何かこう、渡す俺らも楽しい、何かこう…ヒネリのきいた物ねえかな〜」


「いや、土産に面白いとかねえだろ」


「なんかよ〜っ。やっぱ男は難しいな。女の子なら、可愛い、綺麗、とかである程度判断出来るかも知れんけど、男はカッコいい物、っていうか、こういう土産でそもそもカッコいいってあるか? 小さい男の子になら、カッコいいオモチャなり何なとあるが」


「そうだな。やっぱじゃあ食べ物にするか。お前の言う面白いとか関係なく」


「あっ! これなんかどうだ? このブタさんの押すと声が出るやつ。」



金田が壁に掛けてある小さい子ブタのオモチャを手に取る。俺はよくわからないがディスティニーの何かのキャラだろう。


 子ブタのオモチャの隣に貼ってある注意書きを読んでみる。



「ウィッキーの鼻を押してみて? ランダムで色んな言葉を話すよ! 全部で20通り! ブヒブヒ だとよ」



 金田が子ブタの鼻のスイッチを押す。



 カチッ ー。「ブッ。いやーん」


 カチッ ー。「ブッ。好き」


 カチッ ー。「ブッ。ヒヒーン」


 カチッ ー。「ブッ。もう一回言って?」


 カチッ ー。「ブッ。ごめんね」



 等々…。



「そうか…ふむふむ……」



 なんか金田の琴線に触れたのか、子ブタを飾ってあった壁に戻すでもなく、それを手にしたまま、注意書きの続きを読む。



「このスイッチをルーレットがわりに好きな人に向かって押してみよう! 君の代わりにウィッキーが愛の告白をしてくれるかもっ!? ブヒブヒ」



「……俺、これ買うわ」


「おい金田、マジか」


「まあ、どうせ記念だし。……アイツもそんな気にしねぇだろ? ブタだし。可愛いし」



 そう言って金田はそのままレジの方に向かい子ブタを買いに行った。


 俺は2人が戻って来た時に探さないで済む様、先に店を出て目印になる。



「いたいた、お待たせーっ! 2人はチュロスだったよね? はい、どうぞ!」


「おっ? ありがとう」


「タオルは? もういいの?」



 夢が少々不機嫌ながらも心配そうに尋ねてくる。



「ああ、まだちゃんとは乾いてはいないけど、ある程度は乾いてきてるし、もうそんな気になる模様じゃなくなってきたからな。そのまま当てとくのもやっぱ大変だし」


「そっか。まあ、いいかな」


「お待たせーっ」


「はいっ。どうぞ」


「あんがと」



 木葉からチュロスを受け取り、金田は何故か俺の後ろに回り込む。



「どした? 何だよ?」


「…いや、このキーホルダーも、やっぱよかったかなってさ…」



 金田は店の壁に飾られているキーホルダーをマジマジと見ている。


 そんな気になるならブタじゃなくそっちを買えばよかっただろ。それに立山への土産にそこまで真剣に悩むか?


 俺はそんな金田を放っておいて、チュロスを食べながら木葉に今どれくらいのアトラクションを消化したのか聞いていた。


 夢は通り過ぎる男共の目線を何ら気にする様子もなく、ワッフルに夢中になっている。




「……よし。今だな」



 話に夢中になる俺の隙をみて、金田は俺の上着の横ポケットに子ブタのウィッキーを忍ばせた……。

 








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