38.俺に任せて
「おいおい…。怖すぎるって」
俺はスマホをじっと見つめ、何故か必要以上に緊張……いや、ドキドキしながらメッセージを開く。
「何だよ。兄貴のメッセージでドキドキするって。バカか? なんで俺まで恋愛モードなんだよ」
とっさにとってしまった自分の反応に悔しさを覚え、言い訳まじりにメッセージに目を通す。
「元気か? 今電話いいか?」
兄弟のやりとりらしいシンプルなメッセージを確認し、俺は何故か急に返信するのも面倒になり、こちらから電話を掛ける。
……何か、久し振りだな、あいつの声聞くのも。
呼び出し音が2回目に差しかかる時 ー
「もしもし?」
「おう。どした?」
「すまんな、急にLaneして」
「いいよ、どしたの?」
久し振りの兄貴の声に、俺は何の期待もなく、耳を傾ける。
「いや、この前親父と電話したんだが、お前から全っ然電話来なくて寂しいっつってたぞ。お前ここんとこどうしてんだ? 忙しいのかも知れんが、もうちょっと親父の事かまってやれよ? まあ、3人ともそれぞれ大変だったろうが、今はみんな別々に暮らしてんだから ー」
「おいおい!? 急な電話の内容ってこれ? 親父の事? それならそのままLaneでくれてもよかったじゃん!? ヒマなの?」
たまに出る長男による親じみた説教。
俺はこれが嫌で仕方ない。まあ、一部確かにまっとうな事も言ってくるのだが、半分…いや、大半はただのイビリなのかマウントなのか、誰でも言いそうな内容を「長男」らしく言ってくる。まあ、俺も生意気な所はあるのだが、両親に言われていたプラス、兄貴にまで言われていたらたまったもんじゃない。
まあ…今はいいとして、それより。だ。
「いや、もう一個あんだけど、お前……ディスティニーランド好きか?」
「え?」
「ディスティニーランド。実は今度遊びに行く予定でチケット取ったんだけど、4人のうち2人が大事な予定が入ったらしく、残り2人で行ってもしょうがないから、じゃあ他に譲るかってなってな……」
「いや、じゃあ予約の日程変更すればいいじゃん? 今はすぐ出来っぞ?」
「そうしようとしたんだが、それがなかなか4人予定会う日がねえんだわ。で、俺がネットで取ったのもあるから、みんな譲り先は俺に任せるって言ってくれてな」
「いや、4人分って……けっこうな金額だろ?」
「いやいや、悟君よ、喜べ。大いに喜べ。これはお兄様からのプレゼントだ」
「え……マジで?」
「おう。最近ずっと会ってねえし、みんな離れ離れとは言え、ここんとこお前に何もしてやってなかったしな。っていうか今までも特に何もしてなかったけど、まあ、こう見えてお兄ちゃんもある程度大人になったからな」
「自分でお兄ちゃんて言うのやめてくれ。キモすぎるから」
「いや、お前そう呼んでたじゃん? 子供の時。俺は一度も自分の事、お兄ちゃんなんて呼んだ事ないのに、お前がそういうのは変だろ」
「いや、もう訳わからんからいい。…ってか、マジで? マジでもらっていいの? チケット」
「おう。いいぞ。っていうか、お前、友達いるか?」
「おいおい。失礼な。俺にだってディスティニーに行く友達の2.3人位は……まて。…いると思う。何とかする」
「ははっ。そっか、わかった。じゃあお前にQRコード送るから、日にち変えるなりなんなりして行ってこい。あ、そのお友達には『カッコいいお兄ちゃんから』って言うんだぞ。強めに」
「はいはい。わかったわかった。とにかく、ありがとう。何か、素直に嬉しいわ。感動だわ」
「おう、喜んでくれて何よりだ。あと、お返しは気にしないでいいぞ? いいからな? お返しは特に気にする必要ないぞ? 何なら」
「わかったよ! クドいわ」
「あと、クドいついでに、たまには親父に電話してやれよ? 声聞けるだけでも元気出るだろうから」
「ああ。それはわかったよ。また電話してみる」
「おう。じゃ〜な」
うっかり、珍しくも兄貴に感謝して電話を切ろうとした時、
「おいおい! 俺も用事あったんだ!」
「え、何?」
「俺も兄貴に連絡しようと思ってたんだよ」
「何だ?」
「あのさ、晃弘っていたじゃん? この前久々に会ったんだよ!」
「あきひろ……? ……ああ、あきひろって、あの晃弘か、小中の時の」
「覚えてる? まあ覚えてるよな?」
「ああ。覚えてっぞ」
「初めは妹のほう、夢に偶然会ってさ、そっからまた会う事になって、次会った時に晃弘君を連れてきてさ…」
(何か……緊張する。上手くやれるか? 俺)
「それで色々話してるうちに、晃弘君がアニキ、晶にまた会いたいなって言ってたんだよ。だからもしよかったらこっちがさ、都合付けるから晶の予定を ー」
「え〜っ? まあ、会いたくない訳じゃねえけど、急だな、しかも俺も忙しいし、ディスティニーの予定空いたとこはもう別件入れちゃったしなー。……どうすっかな…急ぎ? そんな急ぎじゃないだろ? ただ会うだけなら。また今度、次の機会ってのでいいぞ? まあ久し振りとはいえ、こっちも都合があるからな」
え。
え?
え……!?
俺は兄貴の話す内容に、相槌すら打てず黙って聞く事しか出来なかった。
待て待て…どういう事だ? 兄貴は晃弘に会いたくない? 会うつもりがないのか? 会わなくてもいいって事なのか?
「とにかく、久々に会えたのはよかったな。何ならまた2人に会ったら、その時は色々聞かせてくれよ。2人共大分変わっただろうな」
興味がない訳じゃない、「何か」があって会いたくない、という訳でもない。ただ兄貴は今、自分にとっての2人の幼馴染を思い出し、懐かしんでるだけだ。
ー どういう事だ?
ー 2人の関係って、何だったんだ?
いや、そもそも俺は、晃弘君からとても重要な事、この2人の件に対して一番大事な事を聞いていた訳じゃない。それはあくまで2人の問題だったからだ。俺や夢から、兄弟だからといえど、わざわざ聞くべき、そして聞いていい事でもなかったはずだ。
しかし、俺はわかってなかった。
2人の「本当の」関係を ー 。
これって、つまり……
ー 晃弘君の一方的な「片想い」だったのか ー?
どうする? 俺?




