37.僕はキューピッド
夢からの逆告白を受けた次の日の夜、俺はバイトから帰ってくるなり自分のアップした動画を観るでもなく観ていた。
自分の動画の修正点や反省点を見つけようと思いチェックしているのだか、どうもボンヤリとしてしまい集中出来ない。
今日のバイトも注文を間違えたり、会計をミスしたり、そして下丸署への配達では高橋ちゃんからのニコニコスマイルをガチガチの笑顔で返してしまい、ありがたい動画の感想にも、ろくな受け答が出来ず心ここにあらずといった具合で散々な1日だった。
自分の動画が終わった後、そのまま自動的にピヨの動画が流れてきた。俺は何となく動画を観ながら昨日の夢の涙を思い出す。
1度目は漫画の感想を伝えた時 ー あの涙の真意を聞けた時、俺は救われた。夢の力になれていると実感し、そして自分自身も救われた気持ちになった。
そして2度目は、俺への逆告白で俺をフッた時 ー
あの夢の涙一発で俺の空白の7年間、想っていた期間を入れればそれ以上の、長かった俺の恋愛は敗れ去った。
あの涙は夢の優しさだ。
幼馴染を想う、傷つけたくないという思いからの優しい涙。正直、夢を泣かせたくなかったし、そしてそんな涙すら流してほしくなかった。あの涙は俺の心を洗い流すものじゃなく、俺の積年の想いを流してしまう涙だった。
どうして好きな人の涙というのは、こんなにも俺の心を突き刺し、揺さぶるのだろう。
こんな想いをする為に、俺はずっと夢の事を想い続けていた訳じゃない。
そんな考え自体俺の独りよがりな考えだとわかりつつ、しかし俺は俺なりの、答えを導き出したい。
……そっと目を閉じて、夢の事を想う。
まぶたの裏に浮かんだ無理目の美少女は、最高に可愛い笑顔で俺を見ていた。
ー そうだ。俺はもう、夢にあんな涙を流させたくない。
俺にとって大切な人に、もうあんな想いはさせたくない。
俺はこのまま身を引いて、ただの幼馴染としてあいつに、夢にとって良い理解者として隣にいてやればいい、いつか夢を支えてやれる、あいつにとって大切な新しい存在が出てくるまで。
ただ、それがいつまでかはわからない。だがまたこうして今、夢と再び一緒にいれる事、それは俺にとって何より大切な事のはず。だろ?
「ピピン」
スマホが鳴る。
ただ ー 今は夢からの連絡は来て欲しくない。
今はとにかく何を伝えようにも自信がない。
今俺は、陰ながら夢を想う事しか出来ない。
結局あの頃のまま、再会する前のように俺は夢に恋焦がれるだけの自分に戻ってしまうのか ー 。
以前では考えられなかった事だが、夢からのLaneじゃないようにと思いながらスマホを手に取る。
晃弘君だ。
「こんばんは この前はどうもありがとう 夢も取り乱したり、僕の不手際で色々と迷惑をかけてしまい、本当に申し訳なかった あれから晶の事、どうしたいか自分なりに考えたんだけど、やっぱり晶に会ってみたい、自分の気持ちを伝える以前に、とにかくもう一度晶に会いたいと思っている そこで申し訳ないんだが、もしよかったら悟君の方で都合をつけてもらえないだろうか? 極力、晶の都合に合わせるから ただ、晶が会いたくなければ、その時はその時でまた考えようと思ってる とにかく一度、晶と会う手筈を整えてくれないだろうか 悟君に頼ってばかりで申し訳ないけど、どうだろうか こんな役回りを頼んでしまって申し訳ない」
晃弘君はやはり兄貴に会いたがっていた。
俺の知らない…いや、知る由もなかった2人の関係。
まさかこんな事になっていたなんてな。
しかし…昔の事とはいえ長年会えない人を想い続ける気持ちは、俺にもわかる。
正直、夢と再会してこうなった以上、今更俺がどうこう言う事じゃない。晃弘君と兄貴の問題だ。俺に出来る事があれば何でもやるつもりだ。来るもの拒まず、美少女限定だった俺だが、晃弘君の切な頼みだったら、断る理由がない。
「こんばんは 先日はこちらこそ、再会出来て嬉しかったです 晶の件、了解しました また改めて連絡します!」
あまり余計な事は言わず、シンプルに返信する。
「ありがとう よろしくお願いします」
晃弘君も多くは語らず、メッセージを終わらせる。
今俺と晃弘君がどうこう話し合うより、まずは兄貴、晶の状況を把握しないと何も進まない。
何より、俺は夢との事を聞かれたくなかった。
晃弘君と再会してから、それから夢と2度会った事を知っているのかはわからないが、とにかく話しが逸れて何かしら夢の話題になるのは、今は避けたかった。
「さあ……どうすっか」
俺は動画を止め腕を組み、テーブルに置いたスマホとにらめっこをする。
「晃弘君のメッセージからするに、おそらく兄貴と2人で会いたいという事だろう。晶の予定に合わせるとも言っていたし。俺はあくまで段取りのみの役回りだ。
つまり俺は、兄貴には晃弘君と再会した件、そして晃弘君は兄貴に会いたがってるんだが、都合の良い日はないか? と聞くだけでいい。それだけでいい。そうだな、何なら兄貴がオッケーならそのまま晃弘君の連絡先を伝えて後は2人に任せてもいい……いや、2人にとっても恐らく7年振りの再会なら、Laneでのやりとりより、やはり2人を直接待ち合わせで会わせた方がいいのか? ……その辺細かく聞いとくべきだったかな。
いや、晃弘君はあくまで俺に都合をつけてほしいという事だったから、俺が2人を待ち合わせに呼べばいいんだ。おけ。それでいこ」
何だか恋のキューピッド役をやっているような気分だ。何ならいっその事、金田に頼めばよかったかな。あいつならきっと手際良く段取ってくれただろう。
まあそれはともかく、まずは兄貴にLaneすっか。
と、スマホを手にした途端、メッセージの着信音が鳴る ー
「おわっ! ビックリした!」
落としそうになったスマホを何とか持ち直し、画面を覗く。
待ち受け画面に表示されたLaneのヘッダーに、まさかのメッセージが表示される。
Lane ー 1件のメッセージがあります。
晶「元気か? 今電話いいか? ー 」
おいおい。マジけよ。
何だこのタイミング。恋愛シチュ的に盛り上がらないわけがないだろ。




