33.脅威の子
美少女2人がやんややんや食べながら話しているのを尻目に、俺はほんの少しの間、壁にいるお父さんうさぎとにらめっこをしていた。
そうなのだ。俺は女性経験が一度もない。
付き合った事もなければ、手を繋いだことも、ましてやキッスだってした事がない。
学生だった頃や店で勘定をする時など、計らずとも手に触れてしまう事はノーカンとして、意図した上で、俺は女性に触れた事がない。
美女ゲーでは俺は百戦錬磨とは言わずとも、かなりの美少女達とこれでもかという位、いろんな恋愛模様を繰り広げてきたが、ゲーム以外の現実の女の子とは、俺は一度も恋愛ルートに入った事はない。
いや、入っていないと言えば嘘になる。しいていうなら、ずっと入っている。あまりに長い時間入り過ぎている為、自分でもそれがルートなのか何なのか、わからなくなっているんだ。
夢だ。
俺は子供の頃からずっと、夢ルートの住人だ。
誰よりも長く、このルートにいる。
夢の恋愛経験はどうだったのか、俺は今知る由もないが、夢が今まで恋愛してこようがしてまいが、俺の中ではあくまで、それらも含め全て俺にとっての夢ルートなのだ。ルート中のイベント、ちょっとした、ルートをドラマチックに演出する為の一つのエピソードなのだ。
そして俺は、自分がプリップリのもぎたてチェリーボーイであったとしても何ら恥じてはいない。俺の好きな人はそんじょそこらの美少女ではない、ずっと無理目の夢なのであり、むしろ夢に対してある種純血(?)な俺は、そこにプライドすら持っている。
なので俺は今、改めてこの壁にかかっているお父さんうさぎにでも宣言しておこうか!!ー
俺は!プリップリの純潔チェリーボー……!?
「聞いてんの?」
「へっ ー ?」
「たから、悟くんは今好きな人、いんの?」
「!?」
「…… 」
木葉は相変わらずのキラキラ明るい瞳で、ニコニコ笑いながら俺に爆弾を投下してくる。
ー 俺にとっての脅威 ー 俺は木葉に出会った時、そう思っていた。
しかし、先程の店の選択ファインプレー、どんな夢をもグイグイ引っ張る先見の明を持つリーダー、ひょっとして俺はこの子に賭けてもいいのかも知れない。
今、俺が自分の想いを何かしらここで伝える事で何かが変わるかもしれない。あえて2人の時ではなく、友達がいるこのシチュでの告解で、被害も最小限に済むかも知れない。しかもこの爆弾投下グッジョブ娘はひょっとしたら俺に明るい未来を約束してくれる、恋の女神なのかもしれない。
俺はお父さんうさぎを見つめたまま意を決し、そのままお父さんうさぎに話しかけるよう、想いを口にした ー 。
「はい。いつかお嫁さんにさせていただきたいと思っています」
「ー!?」
「ぎゃははは! 何それ!? なんでそーなんの!? 訳わかんないっ! ほんっと悟くんって面白い! 最高ーっ!! ぎゃははははっ!!」
しまった…先走り過ぎた。緊張のあまり先走り過ぎて、俺の妄想が猛突進してルートを突き破りゴールテープを切ってしまっていた。
ま、まあいい…。まあいいだろう。木葉は爆笑し、笑いになってるうちはまだ、最悪の事態にはならないだろう。ある意味、木葉サンキュー。
「……バッカじゃないの」
ああ、夢にあきれられてる…。今はこれ以上夢から低評価を受けたくない。笑いになったとはいえ、やはり何とかしなければ…。
「まあいいよ? まあいい! 精一杯の回答ありがとう! でもね? 私的にはもうちょっとこう、戻ってきて欲しいな?」
やはり…ここで終わらなかったか。
「そのお嫁にもらいたい、未来のお嫁さんはもういるの?」
「……」
……あれ? どうした? まずいぞ? 何かかえって状況が厳しくなったぞ。さっきは意を決したものの、あんな雰囲気になってしまったおかげで改めて、さっき以上に食いついてきている…気がする。
なんか、改めて言うのが憚られる。
それに、緊張感が更にマシマシだ。
「うん? 何か、言いにくい? ってかさっきのかなりぶっ飛んた答えからすると、もういるんだよね? 好きな人」
やんわり、そしていやらしく木葉はエスコートしてくる。
「え? その…」
「いや、悟くん、さっきの話でそれはないよ? ん? お姉さんに言ってごらん? 悪いようにはしないから」
いや、やっぱいやだ。そういうフラグを立てられたら、言う気がしない。
2人共(木葉だけかも知れんが)もうさっきので察してくれよ。もう俺に好きな人がいるのはわかっただろ? 木葉はそれが誰か知りたいだけで…しかも木葉とはさっき知り合ったばかりで俺の人間関係なんぞ知る由もない。例え今俺がここで好きな人を教えたとしても、一体木葉に何のメリットがあるんだ? 何がしたいんだ?
ーはっ!?
木葉は、知っている。
俺が、夢を好きな事を。