31.中ボス登場
「ぎゃははっ! 何それ? それが幼馴染君の感想?」
うん? 何だ? ……そうか、この人が夢の言っていた友達か。
俺の感想を聞いて固まる夢を尻目にそのなかなかに美少女な女の子は俺を見て笑っている。
「初めまして! 夢の友達の桃野 木葉です! いや〜っ! 会いたかったよ! 悟君だよね? お噂はかねがね…ってほど悟君の事を聞いてる訳じゃないけど、ちょくちょく夢から悟君の事を聞いてます。よろしくね!」
「あ・ああ。楳野、楳野 悟です。こちらこそよろしく」
「私がモモ野で悟君がウメ野。何か遠い昔、ご先祖様同志、繋がってたのかな? モモとウメだ。ウケる。
あ、夢とは高校からの付き合いで、まあお互い友達もそんないなかったんだけど、何か夢とは気が合ってずっとお付き合いさせてもらってます。
悟君、さっきの絵が…って話し、夢の漫画の感想だよね?」
「ああ、まあ。感想というか、思った事っていうかその、まあ……うん、感想です」
「いいよ敬語は! 何か、どもっちゃって可愛いね。でも、あれだっけ? ウチら同い年だったよね? 夢?」
「うん、そう…」
「じゃあやっぱ固い感じは抜きで! 私の事、普段は木葉って呼ばれてるんで……え〜っと、悟君、でいいかな?」
「あ、うん。それでいいよ」
「今日は本当楽しみにしてたんだ。でも、ごめんね。幼馴染の再会のところお邪魔しちゃって。」
「いや、そんな気にしないで。もう何度か会ってるし、俺もちょっと漫画返しに来ただけだから ー」
「よ〜し、じゃあ行こうか。可愛いお店があるんだ。夢も前行ったあの店、そこでいいよね?」
「えっ?……うん」
やばいぞやばいぞ。何か嫌な予感がする。
この、木葉? という美少女は何か俺にとって色々と脅威な気がする。脅威な美少女に対するテンプレは今までの俺の美女ゲー経験には一切ない。
きっと捕まったら最後、選択の余地なしにむさぼり尽くされるだろう。そんな時、夢は助けてくれるのだろうか。
夢はさっきからずっと、テンションが低く、俺と目も合わせない。
木葉ちゃんのテンションに不安を抱えているのか、俺の薄っぺらい子供過ぎる感想に失望しているのか……いや多分、後者だろう。何とか挽回しなければ。
俺は夢を落ち込ませる為に、あんな陳腐とも取れる感想を言った訳じゃない。もっとゆっくりじっくり話せる状況が整ってから夢に話すべきだった。あれだけ言って区切りが着いちまったら、俺は何しにあんな思いをしてまで夢に漫画を読ませてもらったんだ。
それに俺はもっと夢の力になりたいんだ。
さっきの感想に付け加えるフレーズを何度も検討しながら俺は美少女2人の後ろを付いていく。
「ここだよ。入ろっ」
……ここか?
ー なんとまあ、可愛らしいお店だ。
店全体が淡いピンクにまとめられた、電気街の秋波原らしからぬ外観、ここは原宿か青山か? それとも不思議のアリスの国に迷い込んだか? といわんばかりのオシャレ感。何というか、シルベーニャファミリーを彷彿とさせるような、うっかり家具の後ろからひょっこりウサギさんでも出てきそうな、ファンシーなお店だ。
確か子供の頃の夢はシルベーニャファミリーが好きで、俺もよくそのシルベーニャおままごとに付き合わされファミリーしていたな。懐かしい。
きっとこの2人と一緒じゃなきゃ、多分一生入る事のないようなお店だ。
まあ、美女ゲーではここまでとは言わずとも、ある程度可愛さ満載の店には何度か足を運んだ事はあるが。
3人揃って、奥のある種VIP席のような隠れ切っていない、透けたカーテンが掛かった半円形の大きなソファー席に腰掛ける。
ピンクの壁に赤いソファー。まじか。おい。
夢を真ん中に、俺達は深い、そして無駄に背もたれが高いソファーに座る。まるで自分が小人にでもなったかのようだ。
そして壁には可愛いうさぎ達の肖像画が飾られ、そしてその中のお父さんぽい、うん、きっとお父さんうさぎらしき人物が俺の方をじっと見てる。……うん。何か、何だかな。だ。
「前来た時にすっごい可愛いなーって。で、この席を見つけて、その時は座れなかったんだけど、今日の事が決まってすぐに予約入れたんだ。超ーうれしい!」
この3人の中で一番子供っぽく、そしてテンションが高い木葉は、はしゃぐ気持ちを抑えられないように鼻歌交じりでメニューを開く。
「あ、先見ていいよ」
2つしかないメニューを、一つはすでに木葉が、そしてもう一つを夢の方にテーブルの上で滑らせ向ける。
「ありがと」
先ほどより夢は怒っている様子でもなく、何気にメニューを取って目を通し初めた。
心なしか少し、機嫌が良くなっているような気がする……。
……!? ひょっとして…この店のせいか? …そうなのか? 夢? お前の機嫌が今、直りつつあるのは、この店がお前の好きなシルベーニャファミリーのパクりばりにファンシーだからか? もし、そうなら、それならそれでかなり助かる…!
やっぱり女の子の扱いは女の子に任せるに限る。
知ってか知らずか、いや多分知る由もなかったであろう、ただ自分が行きたい店を予約してくれた木葉に、ただただ感謝だ。
ありがとう。俺はきっと持ち返す!!
「……ねえねえ、このスペシャルプリットキラメキセンセーションイチゴパフェ」って結構量あるかな? もし食べ切れなかったら一緒に食べてくれる?」
うん?……何だそのメニューは。
「えっ?無理だよ。私も自分の分だけで精一杯で食べ切れるかわからないし」
「何すんの?夢は」
「私はこの前食べたアンダーザダークポッシブルガーデンハウスチョコデカダンスパフェが美味しかったから、もう一回食べたかったんだけど、やっぱりせっかくだから違うのがいいかなって。このマイナーアンドメジャーアンドマイナンバーセキュリティーハミングシューティングスターにする。」
「おっ。いいね」
…………。
待て待て待てぃ!一体お主らは何を言っている!?
「はい。どうぞ」
メニューをこちらに差し出しながら、なかなかの美少女はなかなかの上目遣いで俺にウインクする。
何だこの可愛さは……食べちゃうぞ。
「あ・ありがと」
俺は 木葉からメニューを受け取り目を通す。
何だ、これは……。
メニューにある食べ物・飲み物の名前全てが、ファンシーを突き抜けたキュートでポップでメロディックで(俺なりの乏しい感性によるつたない表現)ピンクでスィートな世界から生まれたようなセンスからなる品揃えとなっている。
言葉だけではなく、実際に写真が載ってくれているのが唯一の救いだ。どうしよ。これ。
「ねーねー。悟君、どうする?」
「あ・ああ…え〜っと」
「まあ、ちょっと長いよね。迷っちゃうよね。こんなに沢山あったら」
そうなのだ。
長いのだ。
沢山あるのだ。
木葉のいう「長い」は、おそらくメニューの事を指している。そりゃそうだろう。しかし一体俺はどうやってこの不思議な国のメニューから自分に合うものを選び出し、無事脱出ルートへ突入出来るのか。考えあぐねていると、
「このライジングサンセットイグニッションブルーハワイソーダ
か、もしくは
孤高のイチゴミルクver.7.5.1(パッチ変更済み)
がオススメかな?どうする?」
「初めて来たからって、あんまり時間掛け過ぎないでよ」
夢が、シビれを切らしたのか、少々キツい眼差しで俺を見つめる。今、俺はこれ以上夢に悪印象を持たせる訳にはいかない……!! ……はっ!? そうだ!!
せめて、せめてなるべく恥ずかしくない、さらっと短か目のメニューを……!!
「呼んじゃうよ? こういう時はもう呼んじゃった方が案外決まるもんだし。えいっ ー」
木葉が店員の呼び出しボタンを押す ー
「お待たせしましたーっ。ご注文をどうぞっ」
「えーっと、私はスペシャルプリットキラメキセンセー……」
「私はこのマイナーアンドメジャーアンドマイナンバー……」
「はい。かしこまりましたっ! お客様は?」
「デトロイトクラッシュラテで」
「はいっ! ご注文ありがとうございます! すぐお待ちいたしますっ!!」
何か、どっと疲れた。




