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30.感想を述べよ

「ふぅ〜っ。さてと……読みまっか!」


 バイトが終わり、飯を食って明日配信予定の動画の編集作業を終え、ひとっ風呂浴びた俺は、椅子に座り夢から預かったカバンを手にして、まとまった原稿用紙を丁寧に引き出す。



「ピピン」



 と、ちょうどその時夢からLaneが入る。



「明後日、急だけど漫画返せる? 週末はバイトないって言ってたから、もしよかったらと思って SNSの件はまだ考えてる途中だけど、ちょっと前に描いた所を見直したいなって でもまだ読んでなかったらいいよ」



 そっか。まあ、ちょうど今読もうと思ってたし、なるべくなら早いうちに返したほうがいいしな。



「わかった 大丈夫だよ そっちまで行くよ」



 俺はまだ漫画を読んでない事は伏せて夢に返信する。



「ありがと じゃあ 12時に秋波原の駅でいいかな?

 今度は場所間違えないので あと、友達も一緒だけどいい?」



 うん? 友達? まあ漫画返すだけだし、俺としては特に問題ない。



「大丈夫だ 問題ない」


「何? 何かカッコつけてんの? ウケる とにかく急にごめんね ありがと じゃあさってよろしく」


「おけまる」



 友達……? それならその友達と会う前後にでも構わないのだか、まあいいか。それより今は……




「……けっこうあるな…これおそらく、ちゃんとした原本? ってやつだろ? 丁寧に扱わないとな」


 夢の沢山の想いが詰まっているであろう原稿用紙を全てまとめてパソコンデスクの上に置き、深呼吸をする。


(こんなにかしこまって漫画を読むなんて初めてだな……)


 今は「夢の漫画」という事は一旦忘れて、ただ目の前の漫画を読む。それだけだ。



 ドキドキする……何か、胸が高鳴る ー 。



「夢、失礼しゃっす!」



 夢の漫画を読もうとした瞬間 ー ずっと抱えていた俺の心のモヤモヤは、いつの間にか消えていた ー







ー 閉め切ったカーテンの隙間から漏れる光が、ちょうど自分の顔に差し当たったところで、目を覚ます。


「……ん。……? ん? あっ!? やべ…目覚まし鳴ってない!! ああ……よかった…。バイトには充分間に合うか…」



 夢の漫画を全て読み切って、俺はバイトに編集にそして夢の漫画を読破した疲れもあってか、俺はあの後ベッドにつっ伏してそのまま寝てしまっていた。



 ぼんやりした頭で昨日読んだ夢の漫画を思い返す。



 高校生になって初めての授業の日、遅刻しそうな主人公のノゾミが急いで学校へ向かい、桜並木を通る途中、桜の木の下で佇む同い年位の男子に遭遇し、その男子は同じ学校の制服を着ていて、舞い散る桜の花弁をそっと手のひらですくっていた、しかもイケメンときた。その姿にドキッとしたノゾミは言うまでもなく一目惚れをし、思わず見惚れてしまう。

(きっとこの男子生徒は遅刻したであろう)


 そして何だかんだあって、その男子生徒(タクヤという一個上の先輩)と近からず遠からずの関係になって、タクヤの過去や以前付き合っていた忘れられない彼女の存在よろしく、そして2人を取り巻く何人かの登場人物、ノゾミの恋路を邪魔するライバル、そしてバイト先でのハチャメチャ、からのタクヤの夢、など……。色んな要素が夢の言う通り恋愛メイン、プラスコメディー、そして少しホロっとするような、さりげない泣き所も入っている、まぁいわば、恋愛ラブコメディーものの漫画になっていた。




 ……そこによ。 そこによ? ここにきて俺の感想というのは……




「う〜ん。まあ、有り得んわな」




 いや、漫画なのはわかってる。漫画だから実際に起きる訳がないだろ的な展開も、漫画ゆえに起こせるチートプレイもよ〜くよくわかる。


 しかしだ、しかしよ? 男の俺には、どうもこの手の少女漫画(なのか?)風のストーリーはあまり響いてこない。


 まあ、プロの編集者であれば、そんな俺レベルのしょうもない視点ではなく、漫画としての良し悪し、ここをこうすれば良い、あそこはこうした方がもっとこの登場人物が生きてきて…なんてウンチクが出てくるのだろうが、俺は一体、何様のつもりで



「まあ、見せてみなよ。たかが俺の意見でも何かわかるかも知れないじゃん」



 と言ったのか。言ってしまったのか。

 


 あんな事を言ったあの日の自分をシバいてやりたい。

 時すでに遅しだ。



 俺はここ数日、ずっと胸のつかえを感じながらやっとの事、夢の漫画を読む決心がついたというのに、このザマだ。


 何一つ、夢に寄り添うような、建設的な感想や意見を伝える事が出来ない。たとえ夢の聞きたくないような感想や意見であったとしても、明らかに俺の、少女漫画風(?)的なストーリーに対しての見解のなさ、免疫のなさ、そしてその世界に対しておそらく赤子レベルの無知である為、何も言う事が出来ない。



 ただ、こんな俺でも、夢の漫画に対して一つ感じた事がある。




「絵は……すっごく綺麗だったな」




 そう、夢の描いていた漫画の絵は、誰が見てもプロレベルというか……最近は若くてもかなり高いクオリティの絵を描く子がよくイントタとかXOに上がっているが、夢の絵はなんていうかこう…素人の俺から見ても、漫画なのだが…芸術性? とでも言おうか、明らかに他の「誰それの絵師さんを真似ましたっ」「尊敬する誰々さんのスタイルでやってます」的な物ではなく、影響を受けた漫画家はいるだろうが、明らかに確立されたスタイルで、そのまま絵だけをとってもある意味展示会でも開けそうなレベルだ。


 漫画ではなく、イラストレーター、画家としてやってます、と言われても何の疑いもない程のレベル。それにもし、こんな画風の絵が美少女ゲームであったら、爆売れ間違いなしだろう。


 いや、決して、決してエロい意味ではなくて……!!

 

 まあ絵のスタイルに好き嫌いはあるだろうが、夢の絵は間違いなく、絵に明るくない俺から見てもかなりのレベルだ。



 しかしよ…だからと言って夢に



「うん、よかったよ。絵が」



 なんて、こっちの知能指数バレバレの感想は避けたい。うん。避けたい。


 でも、俺は夢に、せっかく漫画を見せてくれた夢に対して、もっと何か、何か出来るはずだ!ー


 俺は明日会って漫画を返す予定になっている夢の為にバイトが終わった後、もう一度初めから漫画を読んで、夢の漫画の感想、そしてその漫画から得られる物を一生懸命探す作業に没頭した ー 。





「うん。よかったよ。絵が」



「え?」



 俺は夢に会うなり、俺の全力の素直な感想を伝えた。





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