27.無理目な笑顔
「ごめんな。お好み焼きでよかったか? ちゃんと聞けばよかったな」
「全然いいよ、お好み焼きで。熱いってだけで嫌いじゃないし。それに悟をからかいながら食べてると更に美味しくなるし」
「うーん。まあ美味しさをアップさせるスパイスになってんのは俺の才能なのかな。飯食う時はいつでも呼んでくれたまえ」
「いや、そんないい。ゆっくり食べたいから」
「俺もなっ!」
……せっかく漫画のお礼にと、いやそもそも晃弘と会う交換条件として漫画を読ませてもらう予定だったが、何故か気を利かせ過ぎて飯まで奢ることになったとはいえ、あまりにも御挨拶すぎませんか? 夢よ。
「ところで、前から…というか、ちょっと聞きたい事があったんだけど」
「え? 何?」
既にお好み焼きを平らげ、続いて焼かれて出て来た海鮮焼きを2人で食べながら、俺は遂に聞きたかった事を聞く。
何かちょっと緊張する ー。
「SNSって、やってる?」
「え?」
「SNS。 イントタとか、XOとか、ピリピリとか、そういうの」
「それは知ってるよ。何で?」
「いや、ちょっと……なんか、やってんのかな〜って気になっただけ」
「そんな事を、前から聞きたかったの?」
「ま・まあ…何となく聞きたかっただけだ。でも何となくだからその……聞くのを忘れてただけで……でも何かやってんのかな〜って気になって……でも特に意味はない」
(いつでも夢を見れるように……なんて絶対言えん!!)
「何? 特に意味はないって、何かめっちゃ慌ててて面白い。動画のやつみたいだ。ウケる」
「人の緊張感を弄ぶな。何か……何か聞きたかったんだよ。これでいいか?」
「……やってないよ。SNS」
「そうなの? 何か……以外だな。
って言うか… …あ、ごめん」
「前はやってたんだけど、漫画描くことにずっと時間を使ってたから、たまに上げたり見たりフォローするのがだんだん億劫になってきちゃって。それでもたまに見るだけはしてたんだけど、そうしてるとまた余計なメッセージや付き合いも出てくるから、もういいやって。思い切ってやめたの」
「そうなんだ」
「また、時間にも余裕が出てきたり、自分の漫画が色んな人に知られるようになったらやっていいかなって思うんだけど、今はあまりそっちに力を入れるより、何より漫画がちゃんと出来上がっていかないと、今やる意味もないかなって」
まあ、そういう考えもあるよな。今は誰もが自分で自分をプロデュース出来る時代だ。自分の見せたい自分を自分で作り上げ、ネットに拡げていく。
ただ、夢のようにやりたい事自体が直接ネットやSNSと関係していないのであれば、そっちに無理に力を入れないのもわかる。ゆくゆく出版社なり事務所なりが付いてから、広報的な、ビジネス的な戦略としてSNSをやって行くのであれば、漫画自体が世に出る直前、もしくは知名度が上がってからでも遅くはない。
ある意味、時代錯誤風でありながらも、逆にしっかり自分を持ってるってことか。多分。
俺の頭で夢の考えを理解しようとするなら、これが精一杯だ。よし。
「悟はSNSやってるの?」
「ああ、一応…な。新しい動画をアップした時に知らせたり、新しいゲームを買った時とか写真付けてアップしてる。まあ、チャンネルを大きくする為に割り切って使ってるようなもんかな? 特に私生活うんぬんも、大した事してねえし」
「……私も、やっぱりやったほうがいいのかな。」
……ん? てっきり、「そうよね、あんたの私生活なんて誰も興味ないしね」位のイビりがあるかと思ったのだか、夢は珍しく俺の話しにチャチャを入れてこない。
「…まあでも、やってもいいとは思うけど、今自分にとってやる必要がないなら無理にやらなくてもいいんじゃないか? 逆にそっちに力が入り過ぎて本末転倒になったら元も子もないし。」
「うん…だけど、描いてる漫画とか例えば短編物? とかを細切れで少しずつアップしてもいいのかなって。ちょっと前から、そういう活動をしてる人がいるのは知ってたんだけど、私には合わない、ちゃんと最後まで作り込んでから発表したいって思ってたんだけど、今、自分の描くペースがちょっと遅くなっちゃってるのもあって、ひょっとしたらそういうやり方もありなのかなって思い初めてて……。でも何もやってないんだけどね」
俺は何か ー 言いようのない、不安とも焦りとも取れる感情を、夢にではなく、自分自身に感じていた。
「ま・まあ、焦らなくていいんじゃない? SNSなんて、やろうと思えばすぐ出来るんだし、今は夢の言うようにじっくり漫画を作る方に力を入れてさ、ホラ、俺もこれから夢の漫画を読ませてもらうし、たかが俺のアドバイスかも知れないけど、いち素人の意見とかも聞いた上でこれからゆっくり考えればいいんじゃない? どうかな」
夢はいつの間にか箸を置き、冷水を飲み干していた ー 。
「うん。ありがと。考えてみる」
何か今の夢は、心ここにあらずといった感じで、無駄に可愛い笑顔で俺を見ていた。
「じゃ、いこっか」
「お・おう…」
「今日はありがとね。あと…待ち合わせの件、ごめんね。今日は色々と悟に助けられた。と思おう」
「なんだよ、思おうって」
夢を送りに駅の改札まで2人で歩く。
ー 何だ?
何だ、このやるせなさは?
なんであんな中途半端な所で夢は話しを終わらせたんだ? ずっと店にいるのが疲れたのなら場所を変えて話してもよかったが、夢はもう帰ると言っている。 俺、何かマズい事言ってしまったか? とにかく、この不完全燃焼な感じは何だ? 夢が好きで気になるというより、ただ夢との間に距離を感じてしまいそうな不安 ー。
「じゃ、ここで」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「うん。今日はありがと。ご馳走様でした。
悟も気をつけてね」
「漫画読んだら連絡するから。またな」
ー 遠ざかる夢が心配で、ギリギリまで見送りながらも俺は、自分のこの不安が一体何なのか、むしろその事の方が気になっていた。




