26.猫舌スローモーション
ー 何で、そう見えるんだ?
夢は自信ありげに、俺に好きな人はいないと、断言するように言った。
いつも夢には、昔から俺という人間を見透かされていたがこの件に限っては、相手が夢自身だとわからずとも、多少なりとも狙っている女性はいると言われると覚悟していたのだが……。
「……そう見えまっか」
「何、その変なイントネーションの関西弁」
「お嬢ちゃん、お好み焼き食うてる時くらい、静かにできまへんか? 冷めるで? 早よ食いなはれ」
「……もしかして、からかってんの?」
「いやいや、ヤカマシイよ? あなたさっきから」
「今度は誰よ」
「まあ、食べろって。お好み焼きは焼きたてが一番だぜ(俺はムリ)? 俺の話しはいいから、ホラ、食べろって」
「冷ましてんの」
「……は?」
「熱いから、冷ましてんの」
「あら、お子ちゃまだね〜? 熱いの無理なんだ? じゃあしょうがないね ゆっくりお食べ」
「熱いの苦手に、大人とか子供とかないから! 私には私の食べられる温度があるんだから、好きに食べさせてよ」
「ってか、さすがにもう冷めてきてるだろ。 ゆっくりでいいから、ホラ、美味いぞ。なかなかに」
「私が作ったんだから当然よね」
「まあ、美少女補正がかかってるからな」
「何よそれ。訳わかんない」
実は俺はこの時 ー 本当に恥ずかしい話、拗ねていた。
ー いつも夢に自分の事を見透かされ、そしてからかわれ、それらは確かに嬉しくはなかったがいざ、自分の心の大事な部分、何より夢への気持ち、好きな気持ちをそれが夢への気持ちなんだと夢自身が気付いていなくとも、俺が「恋している事」は、もう見透かされいると思っていたからだ。
俺のそんなパーソナルな部分に気付かず、そして見透かすことのできない夢に、俺は一体何を期待していたのだろう。そんな子供過ぎる自分の依存心が死ぬほど恥ずかしかった。 ー
すっかりコテを手離しテーブルの縁に肘を付いていた夢はこれ以上俺の「誰?」トークに付き合ってられないのか、ようやく箸を持ち、お好み焼きを俺と同じように小さく切って口に運ぼうとする。
夢も猫舌なら、初めから俺も言っておけばよかった。であればこんな気を遣って無駄な努力をしなくて済んだのに。
……しかし、何だ?この可愛さは。
髪を指で耳に掛けたまま、サイコロステーキばりの大きさに切ったお好み焼きを、そっと小さな口に運ぶ。少し流し目で顔が赤らんで見えるような気がするのは、俺と飯を食うのに照れているのか? それともテーブルの鉄板が熱いからか?
その時の夢をスローモーションで見ているように、俺はその瞬間をじっくりと味わい、堪能した ー 。
ー 俺は今、ドキドキしてしまっている……。
いやいやっ! いくら無理目の美少女だからって、ただお好み焼き食ってるだけだろーがっ!……マズいな、何か俺も顔が赤くなってきた気が……する。
夢から目を逸らし、俺は自分のお好み焼きに集中する。
一瞬、二人に無言の時間が流れるかと思いきや、
「うん。美味しい。この熱さなら全然イケる」
「な? 美味いよな? これ位冷ましたら、俺もどんどんいける」
「え? 悟、猫舌なの?」
「まあ…な。さっきは無理して食ってたけど、実は俺も猫舌 ー 」
「だっさ」
うーん。コテでシバきたい。




