24.夢の鉄板ルート Part①
俺は悩みに悩んでドトーアを出て同じ駅ビルの上にある、7階のお好み焼きの店に来た。
寒いからあまり移動しない方がいいと思い、夢の漫画(代わりに持っているだけ、今はあくまで一旦返した状況)を片手に夢と店に入る。
席に着き、俺と夢はそれぞれメニューとにらめっこして……いたのだが、ふと視線を感じメニューから目線を上げると夢が俺をジト目で見ていた。
「ここ、よく来るの?」
「いや、初めてだよ。ちょっと離れるけど、しゃぶしゃぶ食べ放題の店もいいかなって思ったんだけど、寒いしあまり出歩かない方がいいかなって」
「ふ〜ん。そ。」
夢は再びメニューに目を戻し、しかし俺は夢に視線を向けたまま、質問する。
「いつも自炊してるの? それとも外食?」
夢は顔を上げ、
「え? 親と一緒だからほぼ家で食べてるよ。 まあ、たまに親が居ない時は自分で作ってるけど」
「え? そうなの? 秋波原に住んでるっていうから、俺はてっきり一人で実家から出てきたと思ってたんだけど……引っ越したのか? 時ノ台から」
「うん。4年前にね。あ、兄貴はえと、2年くらい前から中北沢で一人暮らししてる」
……そうなのか。俺はてっきり夢は秋波原で一人暮らしをしていると思っていた。まさか家族ごと、こっちの方に引っ越してきているとはな。あの、少しクールな雰囲気の綺麗な夢のお母さん、いつも俺を可愛がってくれた大黒様のような風貌の明るいお父さんは元気にしているだろうか。
「悟のご両親は? 元気にしてる?」
「ああ……実は母親、去年亡くなってさ、今は親父一人で鹿野の方に住んでる」
「えっ!? おばさん亡くなったの? 何で? そんな年じゃないよね? なんで ー」
夢はいきなりまくし立てるように俺に質問をぶつけてきたが、そりゃそうだ。俺だって夢の親が亡くなったら、そりゃ驚くよな……。
しかし夢は一瞬、我に返り、俺に投げてきた質問を取り返すように、
「そっか……何か、何ていうか…ショックだよ。 確かにずっと会ってなかったけどでも、悟にまた会って
どこか昔に戻ったような感覚になってたから、正直今は、何ていうか……あの、ごめんなさい」
「何で謝んの? いいよ、大丈夫だよ。 気にしないで…って言うと変だけど、俺の事は気にしないで大丈夫だから。 しばらくは引きづっていたけど、最近はもう落ち着いてきたから。大丈夫。」
「うん……」
今日はやけにしおらしい夢ばかりを見る。
しかしこんなルートも、俺はしっかりこなしたい。
「私、悟のお母さんに色々してもらったな……ウチの母親、覚えてると思うけど、何かこう、ちょっと距離のあるような、小さい時はわからなかったんだけどね? その……何ていうか、自分は自分っていうか、貴方達の面倒は見るけど、基本何でも自分で決めて自分で出来るようになりなさいって、よく言うと自立心? みたいなのを育てたかったのかも知れないけど、あんまり甘えられた経験がなくってさ。悟も子供のときは、夢のかあちゃん、何か怖えなって言ってたもんね」
「いや、あれはその……」
今更なのだが、しょうもないフォローをしようとするも、本当、今更なので黙って夢の話しに耳を傾ける。
「悟の家に遊びに行った時、よく悟のお母さんに髪を結んでもらってたな。全然痛くなくて、すごく暖かい手で私の髪を結ってくれてたのを思い出すな……。悟には内緒よってたまにお小遣いもくれてたし。本当に何ていうか……あったかいお母さんだったな……」
あったかいおばさん、女の人……でもなく、夢はさらっとあったかいお母さん、と、そう言った。
本当の親ではない事はわかっているが、思わずそう呟いてしまったのだろう。
「まあ男兄弟だったし、母親も夢が来てくれるのが嬉しかったんだろうな。女一人だったし。それに亡くなった事は、悲しいは悲しいけど俺もいつまでもくすぶってる訳にもいかないし、こうして今やりたい事もやってるし目標もある。だからせめて前を向いて頑張らないと、母親も心配でいつまで経ってもあの世で子離れ出来ないだろうしな。まあ今は自分なりにも整理がついてるよ」
「そっか」
まあ、しおらしい話しはあまり好きじゃない。なるべくならどんな悲しい話だったとしても、俺はやっぱり前向きでいて、そして明るく努めていたい。
それはきっと悲しみを、そして今までの出来事を否定したり忘れたりする訳ではないと俺は信じている。
ー 二人で何気ない昔話しをしながら、俺はさっきから焼いているお好み焼きをそろそろひっくり返そうかと、わざわざ夢の話をさえぎり、コテを両手に意識をお好み焼きに集中する。
「いい子だから、そっくりそのまま、ひっくり返ってくれ」
「なにそれ、ウケる」
「うるさい。今はこいつと話してる」
「ホント、バカ」
「よし、行くぞ……3…」
「……あのさ、悟」
来た来た……その手のチャチャ入れには乗らないぞ。
「2……」
「今」
「1……それっ!」
ー ほぼ同時に ー
「お『好きな人いる?』りゃっ! ー」
ー !!?
あまりに予想もしていなかった夢の台詞に動揺して、ひっくり返したであろうお好み焼きは鉄板に着地する前に半分に割れ、無残にもその姿を夢に晒した。
ー 何でかな……
美味しいお好み焼き、食べたくない?




