2.理由なんて何でもいい
ー 「私の兄に会って。」
いきなりの夢の一言に俺の頭は「?」ですよね。
そうなりますよね。
おいおい…いきなりの家族紹介かよ…。照れんじゃん。
ってか、俺は昔、夢の兄貴に会った事はあるし、俺の兄貴と夢の兄貴はよく一緒につるんでいた。兄貴同志、2人で漫画描いたり、野球やったり。…まあ、それぞれの兄貴は同い年で、こちとら俺と夢も同い年でなんだかんだ繋がりはけっこうあった。
大人しくて、俺の兄貴の子分的な印象があった夢の兄貴…。たしか、アキヒロ…?だっけ?思い出せん。
しかしこれは一体どういう事だろうか?久々に、実に7年振りに再会した白馬に乗った幼馴染(俺)との邂逅もそこそこに、自分の兄貴に会ってほしいだと?
いや、マジで家族紹介にしては既に面識アリのアリアリだし、それこそ家族紹介なら先にご両親…だろ。
それにまだ、俺の謝罪&告白はまだしてないし、ちょっと先走り過ぎじゃないか?夢よ。はやる気持ちはわからんでもないが。
いや、待てよ…。今はそんな事は問題じゃない。
正直、今、夢の兄貴の事は知らないし関係ない。
俺にとって夢の兄貴に会う事は優先事項じゃない。
ウンコしちゃったからって急にすっとんきょうな事を言って困惑させないでほしい。
しかも ー
絶対に絶対に…。ああ、絶対にだ。
夢は家族紹介の流れに持って行きたいんじゃない。
…あの無反応・無表情がそれを物語っていた。
ナイス、自分。よく気付いた。
はやまるな、俺。獲物に逃げられる瞬間、その最も多いタイミングは獲物を捕まえるその瞬間だ。
「いや、夢…あのさ。俺、お前にまた会えた時、絶対に伝えたかった事、っていうのがあってー」
「なに、その子供みたいな言い回し。」
「いや、だから、その…俺はずっと夢に言いたい事があってな…。」
「さっきから夢、夢って、何で下の名前で呼ぶの?一度も呼ばれた事なかったし、久々に再会したからって何で急に呼び捨てにしてんの?」
「えっ?呼んでなかった?ずっと夢って…」
「覚えてないわよ」
「(覚えてないんかい!)………。」
「いや、言ってたし、そう呼んでたし…。」
「久々に会えたのには私もビックリしてる、さっきはすごいタイミングで会えたし、それに幼馴染だから嬉しくない訳じゃない。でも私には私の、こっちの事情っていうのがあって…」
「いやいや、それはそれだとしても急に兄貴…アキヒロだっけ?」
「晃弘」
「晃弘に会ってくれって…一体何?何でそんな急を要するような事…意味わかんないんだけど?」
…少し語尾を荒げてしまった。
幼馴染で子供ながらに何でも言い合っていたからか、ちょっとした感情の緩急は素直に表現しても大丈夫だろうと脳が瞬間的に判断したような感じだった。
何か、気持ちいい。
「7年だよ?7年!さっき会ってエムド入って夢はポテト食べずに俺ウンコ。さあさあ、こっから昔の、そしてこれからの話ししましょうって時に何?兄貴に会ってって。何でかな?俺わからん。普通そうなる?」
「ウンコとか言わないで!しかも食べ物屋さんで!
悟が何の話をしたかったのかは知らないけど、私は別に昔の話しとかこれからの話し?とか何それ?そんなの話すつもりないし、ただ久々に会って今は頼み事してるだけ。」
(うん。いただきました。悟って呼んでくれてありがとう。キュンてする。)
「いや、兄貴の話しするなとは言わないよ?ただ、久々に会ってもうちょっとこう、何か…そう、何かあってから、その話し出来なかったの?」
「何よ?何なのよ!?その何かって!」
ー夢は、怒ってる。そう思った。
そう、気付いた。
きっと、怒っている本当の理由はある。しかし今はその理由すらどうでもよくで(いやよくないけど)、昔の事をいちいち掘り下げたくないんだろう。ただ、兄貴に会って欲しいのは本当のようで、とにかく夢は、きっとわかってるし、忘れてない。俺のした事を。
とにかく夢は、ずっと俺の事を忘れてなかった。俺のした事を。そして今、7年越しの再会に戸惑い、しかし俺への馴染みの気持ちからか、兄貴というプライベートな相談事(内容まだわからん)をたまたま取り出し、俺に投げてみた、という所か…。
知らんけど。