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なげやりクリティカル  作者: さと丸


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16.コーヒーを召しあがれ


  夢、晃弘の二人に向かい合う形で、俺は持ってきたコーヒーと抹茶フラペチーノ、抹茶ミルクをテーブルに置き、ソファに腰掛ける。


(ひょっしたら夢の隣に座れると思ったんだが……まあ、それはよしとしよう。しかし何か……改めて緊張するな)



 「ありがと。夢は…フラペチーノ?」


「うん、お兄ちゃんは? ミルク?」



 ……!?

 お兄ちゃん……だと?


 うん。ここはいいだろう……うん。



「そっか〜っ! お兄ちゃんだもんな? そうだよな? やっぱ人様の前では『兄貴』って呼んでても、いざ『お兄ちゃん』が目の前にいれば、『お兄ちゃん』になっちゃうよね? うんうん。女の子だもんね? そうなっちゃうよね? その方が可愛いし妹感満載だし!」



 俺の突然の話しに、2人共キョトン顔だ。


 ……突然、夢は俺に対して自分の兄の事を兄貴・アニキと言っていたのを思い出したのか、顔を赤らめて、



 「何それ!? バッカじゃないの? 何でそんなの、兄貴でもどっちでも、そんなの関係ないじゃん! しょーもなっ! 本っ当、子供っ!」



 晃弘は状況がよくわかってないのか、



「おいおい、夢。どうしたの? そんな大声出しちゃダメだよ。 何かあったの?」


 「いや、何でもないよ! やっぱりこのバカな悟はいつまでたってもバカなんだなって言いたかっただけ!」



 うん。俺はきっと、さっきの仕返しをしたかったんだろう。

 うんうん。それは認める。子供だな、俺。



 でも、気持ちいい。



 俺はその場をやり過ごすでもなく、怒りながらもフラペチーノのストローを咥える夢を見ながら「うん。可愛いな」なんて見惚れていた。


 そんな可愛い夢の挙動の一部始終を満足気に見届けた後、俺も自分のコーヒーを一口……と手を伸ばしかけたところ、晃弘君が口を開く。



「今日は、会ってくれてありがとう。なかなか予定が合わない中、どうにか調整してくれたみたいで。夢にも迷惑かけちゃって。本当は自分一人だけで悟君に会いに来ようかと思ったんだけど、やっぱり夢も付いて来るって言ってくれて……。まあ、こう見えて僕も人見知りな方だし、悟君とは幼馴染とはいえ、少々躊躇ってしまう部分もあるから、心配してこうして付いて来てくれたんだ」



 夢も多少なり、俺のバイトの都合やお互いのスケジュールの調整、ひいては自分の兄貴が心配で付いてきたところも含め、何かと夢は夢なりに今回の件で多少は頑張ってくれたという事か……。


 夢の方に目をやると、「フンッ」っとマンガよろしくばりのツンデレ感を出して俺から顔を背けた。もちろんストローを噛んだまま。おい。やめろ。その可愛さで怒るのは。犯罪だぞ。犯罪を誘発しているぞ、色んな意味で。



「夢からは、何も聞いてないよね?」


「えっ?」


「僕が、何故悟くんに会いたがっていたのかっていう理由を」


「はい…聞いてはいないですけど……」


「そっか」



ー 俺もそこが謎だった。



 久し振り、実に7年振りに幼馴染と再会し、開口一番、自分の兄に会ってほしいと言われ、俺は戸惑う以外、何のリアクションも出来なかった。



 あの時、確かに夢は俺に怒っていた。


 その理由はある程度察する事ができたとしても、夢自身、7年もの間、俺に抱いていた感情を爆発させるよりも先に、自分の兄の事を煩い、俺に頼み事をして来た…。のだろう。


 もし夢が、俺だけにその頼み事をしたかったのだとしたら、あまりにもタイミングが良過ぎる。ですよね……神様? 


 いや、今はそんな事、どうでもいい。


 ただ、目の前のこの幼馴染二人との再会を前にして、俺はきっと真摯に向き合わなければいけない。


 そんな気がする。


 何故なら……夢が、さっきからどこか変なのだ。

  

ストローを噛みながら、どこか遠くを見つめるような悲しみを湛えた表情で、誰かに何かを、藁にもすがりたい思いを噛み締めているように。


 でもきっと、俺にはそれを悟られないように食いしばっている。これから兄が俺にその事を話すのはわかりきっているのに。


 ちょっとでも無意味に驚かそうとすればすぐにでも泣いてしまいそうな小さな女の子みたいに。




 夢があの日のような、とても小さく、可愛らしい子供に見えた ー。




 幼馴染とはいえ、きっとプライベートにも似た困り事……か何かは知らんが、きっと人様にホイホイ話せる内容ではないんだろう。故に、だからこそ、あの時の夢の話し、そしてここまで、この日まで漕ぎつけた二人の思いはきっと、易々と軽く流していいものではない。



「夢からは何も聞いていないです。ただ兄貴に会ってほしいって。それだけです」



 俺はなるべく二人のペースを、流れを滞らせないように出来るだけシンプルに話しを伝えた。



 晃弘は、様子のおかしい夢に気付いたのか、ようやっと、意を決したのか、真っ直ぐに俺を見据え、伝えた。



「君のお兄さん、晶くんの事が忘れられない ー。


 もう一度、会わせてくれないか」



「……えっ?」



 俺のコーヒーは、どんどん冷めていく……。




 

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