15.ムリメの兄
ー 天央寺 ー
今一番住んでみたい街ランキング一位の吉祥寺、そしてその第二の吉祥寺とも呼ばれるこの天央寺は、古さと新しさが共存する、いわばハイブリッドなんちゃって都市計画よろしく感のある、新興都市めいた地区だ。
そこそこに子供が多く、そこそこに高齢者も居て、デカい道路はないが商店街に駅ビル、基本あれば困らない程度の商業施設がそろってる。今どこでも乱立しているショッピングモールが出来るほどの開けた土地はないがある意味、その手狭さが、ギュッと感が、地域密着感が(しつこい)誰にでも好かれる・住んでみたい街と言われる所以であろう。
駅前のメインのバスロータリーを、半円取り囲むように駅ビル、スーパー、商店街入り口、コンビニ等が連立し、その半円の向かい、道路を挟んでは小山があり、自然とこの天央寺の街としての豊かさが滲み出ている。
待ち合わせの場所、ドトーアの入っている駅ビルを目指して俺は予定より5分早く着いた。
「まあ、遅れるよりは」
10月にもかかわらず、何故かまだまだ暑い。
少し早歩きで来た俺はほんの少し息の乱れと滲む汗を感じていた。
そして少々の緊張感も。
今回は奇跡的偶然(意味わからん)ではなく、あらかじめ予定された夢との出会い。まあ、兄貴に会うのがメインなのだが、やはり夢に会えるのはドキドキしてしまう。
いつもは駅での待ち合わせなんぞ、緊張もせずただウハウハとスケベ顔で待ち合わせを楽しみにしているというのに(美女ゲー内の話し)。
「ども」
後ろから声を掛けられ、振り返るとそこにはやはりどう考えても無理目の美少女がいた ー。
「おっ。どうも」
この前再会した時と同じシトラス系の、しかし甘い香りが俺の鼻腔、いや、脳天をぶっ刺し、視覚的にはもう直視出来ない位、目が合えば心を見透かされそうな大きめの瞳と整った顔立ち。そしてこの可愛さ。もうほんっとに勘弁してくれ。
いや、まじある意味暴力なんだが。
そう心で思ってることがそのまま、口に出そうになった瞬間 ー
「はい、兄貴」
「あっ……どうも! お久し振りぶりです!」
……実際、兄貴とセットで来るとはわかっていたがしかし、夢をみていた数秒間、本当に夢しか見えていなかった。俺はすぐさま、夢の横に立っている青年に挨拶をした。
色白の顔に、子供の時は掛けていなかった、知性を感じるメガネ、男といえど、よく手入れされているであろうトリートメントしたてのような綺麗な黒髪。
そして夢ゆずり(いや? 逆か?)とも言えなくもない、柔和な感じを醸し出しているがしかし、どこか丹精で整った顔。
まるで少女漫画に出てきそうなメインヒロインの相手ばりのイケメン……。
こんな、こんなだったか……? 夢の兄貴って ー?
いやでも、確かに面影はある……。
しかしこの前夢が送ってきた写真と、何か少し違う気が ー。
「久しぶりだね。 元気だった? 7年振りに出会って聞くのも何か変だけど」
「はい! 元気でした! うちの兄貴も元気にしてます。 ってか……何か、大人っすね。晃弘さん」
特に言う事も考えていなかったせいか、このゆるふわイケメンを前にギリ他人行儀感を否めない挨拶を交わす。
「いや、敬語はいいよ。 せっかくの幼馴染なんだし、気にしないで。まあ、25にもなったし、多少は大人になった……かな?」
「まあ、7年も経てば多少なり、嫌でも大人になるでしょ」
夢が間に入ってくる。
「そうだよな。確かに。何か、緊張しちゃって。」
「まあ、悟みたいに相変わらずなんも変わってない奴もいるだろうけど」
はい、いただきました、幼馴染による鉄板フレーズ。
「じゃあ行きますか」
俺は夢を無視して2人より先に歩いて駅ビル内のドトーアに向かう。
(夢に何かしらツッコんでやりたかったけど兄貴がいたら、何かやりづらい……。まあ、今日は夢の兄貴メインだし、夢に多少イジられても今日は無視だ。やり過ごす!)
ドトーアに入ると、奥の広めのソファ席が空いてたので、よかれと思い夢と晃弘から飲みたい物を聞き出し、先に席に座っておいてくれる様、促した。
「いや、いいよ。僕が買ってくるよ」
「いえ、自分買ってくるんで、夢と待っててください」
一応の気遣いを見せてくれたのだろうが、ましてや年上、しかも向こうが会いたいと言ってきたからとはいえ、わざわざこちらまで出向いてくれたのだから、こちらとしてもなるべく気を煩ってほしくない。
それに、夢の兄貴がいてくれるおかげで俺はまた夢に会う算段が付き易かったのも事実。
これくらいはしまっせ。未来のお兄さま。
そして今日の俺の目的は、夢の描いたマンガを見せてもらう事。そして……あれだ。
SNS ー だ。
先日、ふと店長に言われた「ムリメのSNS」の事を思い出し、しかしその後急遽まさかの「高橋ちゃんルート」に入ってしまい、そして怒涛の動画作成&登録者数爆上げルートに入っていたため、夢とはLaneで連絡を取る日々を送っていながらも調べること自体、うっかり忘れていた。
一昨日、ふと思い出し調べてみたが、何故か検索してもヒットせず、夢のSNSを見つけられないまま、途方に暮れてお手上げ状態なのだ。
夢のSNSが一向に見つけられない。そもそも、この年代の女性で今のご時世、SNSをやってない奴なんているのか?
俺の検索力不足なのか?
ギャルゲーばっかやってるからか?
唐揚げ弁当に間違って余っていたカキフライ1個入れちやったからか?
謎は深まるばかりだ。
しかし俺は今日、夢のSNSを聞き出してみせる。
最悪、夢に拒否られたとしても問題ない。
だって今夢の隣には、未来のお兄ちゃんがいるんだもん。




