11.取り調べルートの巻
「えっ? な・なんで? …えっ?」
戸惑う俺を気にする様子もなく高橋ちゃんは追随する。
「え? さと寸さん、でしょ? いつも美女ゲーチャンネル観てますよ」
さっきの、屈託のない笑顔で弁当を受け取った表情そのまま、彼女の取り調べは続く。
「『ガリクロ』、本当に良ゲーですよね! さと寸さんの『ガリクロ』は全部観ました! あと、私が個人的に好きなのは『ハミダシスターライトEx.』とあと、『アメイジング・シンフォニー』でしょ、あ、でも『あの日の現視研』は隠れた名作ですよね! あれはぜったい、ハズせませんね! あとそれ以外だと……」
(いや、待て・まて・まて……! なんで知ってる? 俺がギャルゲー実況やってるのを!? そしてなぜ俺だと知ってる??)
「あ・あの…すいません! どうして…俺がやってるって…ゲーム実況やってるって…知ってるんですか?」
普通なら…いや、普通というか、売れてる実況者はリアルで視聴者に声を掛けられたら「あ、そうなの? そっか〜。いや〜いつも観てくれてありがとうね。これからもヨロシクね」なんて涼しげに対応出来るんだろうが、俺にとってガチリアル視聴者から声を掛けられるなんてそりゃまぁ初めての事で、しかもその第一号がこんな可愛い女子警察官なら、ここまで慌ててしまっても、何の罪もない。はず。
俺の知らない所で俺を認識している人がいる違和感。
ー でも、何か気持ちいい ー
「え? 何でって……? 動画、観てるから」
「いやいや、そうじゃなくて、どうして俺がゲーム実況やってて、しかもそのゲーム実況者が俺って知ってるんですか?」
何か、自分でも言ってる事がよくわからん。
「えっ、それは……以前勤務終わって帰りがけにさとす……あ、楳野さんのお店にお弁当買いに寄ったんです。で、お弁当注文して待ってたら、いつもいるあの、ガタイのいい人……店長? かな? で、その店長らしきその人が厨房でバイト君らしき人と話してて、『昨日の楳野の動画観たか?あれはヤバいだろ、あんな事してくれる女の子に対してあんな選択肢ねーわー。俺でも選ばんわ』なんて会話が聞こえてきて……」
(ガタイのいい、いつも店にいる人 ー 。
それ、絶対店長だ。しかも他の奴と話してたって……店長、他の奴に俺の動画のこと話してんのか? 誰だ? 金田か? 立山か? それともー)
「それで私、元々ギャルゲー好きだからピンときて……悪いかなって思ったけど、そのまま耳を澄ませてたら、『それにあの、さと寸て名前なんだ? 俺ならもうちょっとマシな名前つけっぞ。あの選択のナンセンスさといい……明日のシフトで問い詰めてやる』とか、ランプリって子はどうとか、ルートはどうとか…って会話を聞いちゃって。それで私家に帰って検索してみたんです。……そしたらさと寸さんのチャンネルが出て来て、で、観てみたらすぐにハマってしまって……。
あの独特のセリフの言い回し! メチャメチャ自信ありげに選択しておきながら結局迷ってすぐテンション下がって後悔したり、でも結局最後はエンディングで『あ、この人ちょっと泣いてるな』って、本人は気付いてないかもしれないけど、鼻すすって声詰まらせながら感想言ってる所が可愛かったりして。」
おいおい、何だかすっごく……こそばゆいんだが。
ー だが、しかし。
「それでまた次の日、お店に行ったんです。
そしたら楳野さんがいて、レジで対応してくれた時、エプロンの名札に『楳野』って書いてあるし、そして声を聞いて『あ、絶対この人だ』って思ったんです」
「え? お店に来てくれてたんですか?
わからなかったです、いつも配達行ってるのに……何か、すいません」
(やっぱり、配達に行っててよかったな。うん。
俺考え方、変える。うん、配達行っててよかった。)
「いえいえそんな。あたしも潜入捜査ばりにお店に入ったから、オーラ消してたし気付かなかったと思いますよ?」
(おうおう……。この人オーラをコントロール出来るのか)
「で、いつか直接こうやってお話ししたいなって思ってて、でもキッカケがわからなくて悶々としてたんです。だけど、今日皆さんほっとホットで注文するっていうから私、これだっ! って思って私が受け取りますって外まで出て来ちゃったんです」
……何とまぁ……こういう事もあるもんだ。
偶然というか、人の繋がり方次第で、こうもあっけなく新しい出会いがあるもんなんだな……。しかし、他の奴にも話してたなんてな。まあ今はどうでもいいか……巡り巡って店長、グッジョブってところか……。
「……あっ!!」
「? どうされました!?」
「いや、俺今すぐ店に戻らなくちゃいけなくて、とりあえず、また……えっと、その…これからも美女ゲーチャンネルをお願いします!」
……自分で言ってて、何か恥ずかしくなってきた。
「あ、ごめんなさい! お仕事中に……でもちょっとでもお話しできてよかったです! ありがとうございました!」
「いえ、こちらこそ。リアルで視聴者さんにお会いするのがある意味初めてだったので……。じゃ、また。……動画、あげますので!」
素人感丸出しの挨拶もそこそこに、俺は高橋ちゃんに軽く手を振り、取り調べから解放された。
「あ〜やっべぇな。急いで戻らないと」
何か……動画活動やってて、よかったな。
ただ単純に女の子と話せたからじゃない……何て言うか、実際に俺の動画を見てくれている人が存在していたという実感。
店長とも話してはいるがそれとはまた違う、何ともこそばゆくて、そしてありがたい、嬉しいなっていう感覚。
「よっしゃ! これからまたどんどん動画上げっぞ〜!」
俺は軽く、走り出していた ー。
「戻りました! 遅くなってすいません!」
「遅ぇぞ! どんなルート通ったらこんな時間掛かるんだ!」
「新たに登場したキャラのルートで取り調べ受けてました!」
「あん!? やかましいわ! 早く弁当袋に詰めて会計しろ!」
「はい!」
(よ〜し、きっと……きっと成功して俺のやりたい世界でのし上がってやるぜ……!)
「こいつぁ……忙しくなってきそうだぜ!」
「やかましい! とっくに忙しいわ! バカ!」