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109.カミーユルート⑥


「あれ……悟君と金田君よね……」



 木葉は道端でコスプレをして撮影している2人が悟と金田と気付き、夢と遠巻きにその様子を見つめている。



「ええ……そうよね……」


「ピンときたよね」


「うん。ピンときた」



 悟と金田はこちらを見ている夢と木葉に気付く様子もなく、アニメキャラとVtuberという全く脈絡も何もない組み合わせで、不器用ながらもポーズを撮り撮影をしていた。


 しかしそこは素人。ポーズにネタが尽きたのか金田は自身がコスプレをしているアニメキャラをよくわかってないのか、指をくわえて妙に男を誘うようななまめかしいポーズを、そして悟に至っては片足を曲げ躍動感を出しつつも、拳を前に突き出し、もう片方の手でも拳を作って顔に持ってくるというボクシングのような意味不明なポーズをきめ、それぞれのキャラを活かせてるのかよくわからない撮影をしていた。



「いいよいいよ〜っ! じゃあそろそろ2人向き合って手を重ねて顔を近づけてみようか。あ、目線はこっちで。はいっ」


「えっ? それ、やり過ぎじゃね?」


「何で金田とくっつかなきゃいけねぇんだよ。それはちょっと勘弁してくれ」


「大丈夫大丈夫。2人共ノってきたから今なら出来るよ! さあっ! 記念だしっ! これで最後のポーズにしようっ」


「まあ……これで最後なら、いっか」


「はぁ……。しょうがねえな……。カミーユ、もうこれで終わりだからな」


「はいはいっ。じゃあくっついてっ!」


「おう。……こっち来いよ、悟」



 何故か妙に普段より男らしい声色で悟を誘う、赤い戦闘スーツにツインテールの金田。

 もう何のキャラかわからない。


 (やれやれ……。もう、どうにでもなれ)


 悟は渋々ながら金田に近づき、そして何とも形容し難い気持ちで、差し出された金田の手のひらに自分の手を重ねたところ、突然金田が指を絡めてきた。



「おいっ!」



 思わず悟は一旦手を引っ込めようとするも、見た目とは裏腹な握力が悟の手をロックオンする。



「おいおい。今さらだぜ……。大人しくしろって……うさぎちゃん」



 金田はBLものに登場する美青年のようなセリフを吐いて、戸惑う悟を翻弄する。

 もう、マジで何のキャラかわからない。

 多分金田もわかってない。



「はーい。じゃあ目線くださ〜いっ!」


「くっ……。この……野郎。マジかよ……」



 悟は早々に金田から目を逸らしカメラに目を向けるも、金田は悟を見つめたままだ。



「おーい。金田くーん。目線こっちにっ」


「ああ、わかってる……。わかってんだけどよ……何か俺、こいつから目を逸らせらんねぇんだよ……」


「何言ってんだよお前はっ! いいから早くしろっ! くっ……! いつまでもお前とこうしてたくはねえっ!」


「おやおや、可愛いうさぎちゃん。そんなに暴れんなよ。一体誰に見られるっていうんだい……? こんなところ、誰かに見られたら困る人でもいるのかい?」


「だから何だよ誰なんだよそのキャラはっ! 痛ててっ! 手が痛いって!」


「力を抜けば楽になるぜ……さあ、俺に身を委ねな」


「絶対やだ。死んでもやだから! カミーユ! もういいだろっ!? なぁっ!? カミーユっ……!! ……って、えっ? ……あれっ? えっ? ええっ!?」


「金田くーん、最後の一枚は目線が欲しいなっ」


「……やれやれ、この照れ屋さんが……しょうがねえな……」



 金田もようやっとカメラに目線を向ける。



「ほれ。カミーユ。最高の一枚を撮ってくれよな……って、……あれっ? おいおいおいっ!?」


「どうしたの? 2人共?」



 2人が見つめたカメラの先、カミーユの後ろに見覚えのある美少女が2人。

 いつの間にか夢と木葉は2人の真正面、カミーユの後ろでこのおかしな世界をニヤニヤしながら見守っていた。



「ぎゃあああっ!?」

「おおおっ! マジかよっ!?」



「あははははっ!! 最っ高!! うさぎちゃんだって!!」


「もう……本っ当にあなたって……。もう何も言えないわ……」



 高らかに笑う木葉。

 これでもかといわんばかりに呆れる夢。

2人の対比がますます悟と金田を困惑させる。



「おいおい!? 何でいんだよ!?」


「えっ……?何? いちゃいけないの? 何で? 私たち買い物してただけだけど……そこにあなた達が女の子になって写真撮ってただけじゃない。何言ってんの? ねぇ、木葉」


「うんうん。そそそっ。私たちさっき2人を見つけてただ見てただけだよっ。ダメなのかなっ? ……ふふっ。ぎゃはははっ! 金田君、なにその顔!? 何でそんな……髪の毛、口に入って……ちょっ、まっ……ダメっ! マジで面白い……ひぃ〜っ! 苦しいっ。苦しいよ〜っ!」


「あなた達、木葉を笑し死にさせないでよね」


「ぎゃはははっ!! もうだめっ! もうだめだ!! あ〜っはっはっはは!!」



 道行く人々はコスプレしている2人より笑い転げる木葉を見て通り過ぎて行く。



「木葉ちゃん……そんな笑わないでくれよ〜っ。こう見えてもさ、俺、けっこうハマってるだろ? けっこう勇気いたんだぜ?」



 うずくまる木葉に近づいてきた金田を見上げると、そこには半泣きになっている真っ赤な出立ちのツインテール金田がすぐそばにいた。



「ぎゃ〜っはっはっ!! だめだめっ! もうほんと近づかないでっ!? 本当に、ほんとに死んじゃうっ! ひぃ〜っひっひっひひっ!!」


「そんな、死んじゃうなんて……」



 金田は一瞬、木葉の対応にショックを受けうつむいていたが、急に意を決した様子で、



「そんなすぐ死ぬ死ぬなんて、バッカじゃないのっ!? それなら笑い殺してあげるわよっ!」



 金田は見よう見真似のアニメ声を出しながらさっきまでノリノリで決めていた、いくつかのポーズを組み合わせて更に木葉に詰め寄った。


 これでもかといわんばかりに接近してくる金田に、木葉はもう笑い過ぎて声すら出ていない。そこに容赦なく詰め寄る金田。

 何かを吹っ切れたのか、何故か金田はヤケクソになっている様子だ。



 それを痛々しく見ていた悟の後ろから、



「こういう趣味があったらなら素直に言えばよかったのに……何で隠すかな。別にあなたの趣味に興味ないけど」


「いや、隠してたんじゃなくていきなりやる事になって……」


「金田君と一緒に? どうりで気が合う訳だ。ひょっとしてゲームの中の美少女だけじゃ物足りなくなって自分でもやってみようって、そんな感じなのかな? まあでも、そこそこ似合ってるわよ」


「お前の褒め言葉は間に受けられん。なあ、カミーユ、説明してやってくれよ……」



 悟はカミーユに助け舟を出してもらおうと振り向いた所、ちょうどカミーユがこちらに詰め寄ってきた。



「ねえねえ! すっごくいい写真が撮れたよ! 2人がポーズ取りながら驚いた表情してて! ははっ! これ、最っ高に面白いっ!」


「……それはいいから、ちょっとカミーユ……ほれ、ちょっとこいつに説明してくれ」



 撮った写真に夢中になっているカミーユの顔を上げさせて、夢にこの美少年を紹介しようとする。



「夢、こちらカミーユ。金田の大学の留学生。で、カミーユ、こっちが夢。俺の幼馴染」


「どうも。初めまして」



 スマホから悟の隣にいる女性に目を向けた途端、カミーユは一瞬言葉を失う。



「……!! えっ……!? ……は、初めまして、僕カミーユブラン……と、いいます。

……あ、あなた……すっごい……すっごい美少女……!」


「いえ、そんなそんな……」


「だろ。俺もそこは否めない」



 カミーユは夢の絶世美少女のオーラに驚きを隠せないでいる。



 (何だろ……この夢って人……。こんな綺麗な人、見た事ないよっ!! 本当に2次元からそのまま出てきたような……いや、それ以上の美少女さんだ!! 

……すごいや……こんな美少女さんに会えるなんて……!! やっぱり日本に来てよかった!!)



「俺もカミーユに会うのは今日初めてで、秋波原を探索したいってんで色々教えてたんだ。そしたら、その……コスプレの店に行きたいってなって。俺と金田は店に入るまでどんな店か知らなくてよ……それで……」


「それでそのうさぎさんになったってわけね」


「まあ……あの、何ていうか……その、流れで……」


「その割にはバッチリポーズ決めて撮られてたよ。私から見てもまんざらでもない感じだったけど」


「そ、それは金田が恥ずかしがると逆に変だって言うからさ……。

 ……俺もある程度開き直って気合い入れてやってたんだよ!」


「まあ、いいんじゃない? なんだかんだ可愛いかったし」


「えっ!? マジでっ!?」


「本当よ。悟、あなたその筋があるんじゃない? もういっその事、ゲームから飛び出してきた美少女として有名になったら?」


「やっぱからかってるだろ……」


「そんな事ないわよ。案外その格好でゲームやってたら人気が出るかも知れないし」


「いや! だから本当にやりたい訳じゃねえって! 今回はたまたま、カミーユの頼みでやる事になって……」


「そんなムキにならないでよ、うさぎさん」


「ぐぐっ……」


「こらこらっ。道端で夫婦ゲンカしないのっ」



 金田の事をさんざん笑い、満足したのか木葉がこっちへやって来た。



「悟君も随分可愛くなったじゃない? これ、アレよね? 何だっけ……うさぽよペロみ、だっけ」


「ああ……そうだよ」


「すっごく似合ってるよ! 案外その道もイケるんじゃないっ?」


「いや、だから俺はそんなんじゃないって!」


「あれ? こっちの男の子は……?」



 終始夢に見惚れていたカミーユは、木葉に気付き、



「あっ! 初めまして! 僕カミーユ・ブランといいます! 金田君と同じ大学に通ってます!」


「うわっ! かわいいっ! えっ!? 金田君の大学に?」


「はいっ。日本に留学に来てて、金田君と仲良くなりました!」


「そうなんだ。あっ、私は桃野 木葉。よろしくねっ」



(えっ……? 木葉……? さっき金田君が話してた女の人って……この人の事……?)


 カミーユは一瞬、動きが止まるも我に返り、



「はいっ。よろしくお願いしますっ! ……それにしても2人共、すごい綺麗ですっ! 悟君も金田君もこんな綺麗な2人と知り合いだったなんて、教えてくれなかったです」


「いやいや、隠すもなにも、まだそんな知り合ったばかりだし、まあそのうちいつか会うかもとは思ってたけど……」


「悟君も金田君もズルいです」


「なんでそうなんだよ。カミーユ、もういいだろ? そろそろ終わろうぜ。それにちょっと寒いし、もうこれ以上金田の変なとこ見たくねえ」


「おいおい。そう言いつつも何だかんだ俺のこのアスナっぷりに見惚れてたじゃねえかよ。ほれ、お前も木葉ちゃんにしたように言葉責め&脳殺ポーズでいじってやろうか?」


「本当に勘弁してくれ。これ以上近づくとこの頭に付いてる大根でひっぱたくぞ」


「はいはい。これ以上2人の世界にお邪魔しちゃ悪いからもう行こっか? 夢?」


「そうね。もっと2人の世界を楽しみたいだろうし」


「おいおい。何だ? 夢、妬いてんのか? 何ならお前も一緒にやるか?」


「本っ当に勘弁してほしいわ。行きましょ、木葉。もうバカは見飽きたから」


「きひひっ。じゃあね! 金田君、悟君っ! あ、あとカミーユ君も、またね!」


「はいっ! またお会いしましょうっ!」



 ニコニコと手を振る金田とカミーユ。

しかし悟は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。



「ああ〜っ。やっぱ木葉ちゃん可愛いな〜っ。俺の新境地に魅力を感じてくれたかな……」


「ひょっとしてさっきの木葉さんって人、金田君がさっき話してた好きな人?」


「ああ。俺の将来のお嫁さんだ。まだ彼女はその事に気づいてないけどな」


「ふ〜ん……そうか……」



 カミーユはしばらく何か考え事をしているような仕草を見せて、



「……うん! うんうん! 確かに! お似合いだね!」


「だろだろっ! やっぱそうだよな〜っ! カミーユ、お前はわかってる!」


「悟君も思わないっ? そうだよねっ?」


「金田、お前は本当おめてたい奴だな。……ちくしょう。何なんだよ、あの夢の態度は……別に俺が何やったっていいじゃねぇか。なんであんなに……」


「そうか? いつも通りの夢ちゃんだったと思うぜ……?」


「……? 悟……君?」



 うつむいてうさぎの耳を垂らし、少し悲しげな表情をしている悟。

 カミーユはそんな悟を見つめながら、夢と悟の2人は一体どういう関係なのか気になっていた。



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