108.カミーユルート⑤
(えっ……なに……
おんなの……子……?)
カミーユはうさぽよペロみのコスプレを終えて待合室に入ってきた悟に見惚れていた。
金田は不器用ながらもツインテールを肩の後ろへやりながら、
「いやいや! お前には負けるって! お前、何か才能あんじゃね!? メイクもそうだし、もう本物のうさぽよペロみだぜ! なあ? カミーユ?」
「……悟君……君、本当すごいよ……めっちゃくちゃ可愛いよ……」
カミーユはやっと口を開いたと思ったら、悟の女装した姿に驚きを通り越してもはや感動していた。
今まで自分も長年、女装やコスプレをしてきたが、そのせいか他人のコスプレを見てもある程度のクオリティを判断出来るようになってきた。衣装がよくても、メイクやウィッグの完成度が高くても、やはり違和感を感じる女装家やコスプレイヤーはいる。それでも、それが好きという気持ちが一番大事で尊ぶべきなのだが、本人の意思とは別に、周りを圧倒させてしまう人もいる。それは自分でも気づいていない、オーラというもので周りを説得させてしまうような。
それはもう才能だろう。
普段から人を惹きつけてやまないオーラ、魅力を持つ人もいれば、悟のようにコスプレや女装で何かしらのキッカケでそれが出てくる事もある。
カミーユは好きな人や、推しの人を見る目線ではなく、あくまで1人の「観客」として、悟に釘付けになっていた。
「悟君……すごいよ。すっごいよ……。別人みたいだ……。
……君も男の子、女の子とかそんなの関係なかったんだね……」
「うん? ……ちょっと、よくわかんないけど褒めてくれてんのか……ありがと」
「褒めるなんてどころじゃないよ! もう好きになっちゃうね!」
「えっ?」
「えっ?」
「あっ、いや、そのっ。………うん。
そうだよ……こんなの、好きになっちゃうよ!」
「あ、ああ……。だよな。悟の事を知らない奴が見たらそういう気持ちになるやつもいるかもな。実際、今お前女の子ですって言っても信じる奴いるぜ」
「おいおい。勘弁してくれよ」
「よし。じゃあ悟、いや、ペロみ。カミーユに撮ってもらえ。その後一緒に記念に撮ろうぜ」
「え? やだ」
「おいおいおいおい!」
「なんでなんでなんで!」
「こんなの残しとくと必ずどっかから流出して、後で忘れた頃に発覚して恥ずかしい目に遭うんだよ。そういうもんなんだよ」
「いいじゃねえかそれでも。大丈夫だ。俺も一緒だ」
「全然頼もしく感じないわ」
「だめだめ! 悟君! 絶対、残しといたほうがいいって(僕の為に)!!」
「さっき金田の撮ってたろ? それでよくねえか?」
「いやだ。悟君のも絶対に残したいっ! お願いお願いっ! どうか撮らしてっ!!」
「うっ……」
よほど切羽詰まったのかカミーユは瞳を潤わせ、両手を組んで上目遣いで悟に懇願する。
美しい顔がそのまま悟を覗き込み、悟は一瞬目のやり場に困ってしまう。
「お願い……。だめ……かな……」
「……くっ……! ああっ! もうわかったよ! わかったわかった! 好きなだけ撮りやがれっ!」
「やったっ! ありがとっ! 悟君!!」
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「ねえ、木葉。どっちがいいかな」
「う〜ん。まあ、私はこっちのが好きだけど悟君はこっちが好きそうかも」
「何で悟の好みになるのよっ。どっちが似合うか聞いてるのに」
「やっぱ服は自分が好きなのを着るのが一番だけど、人に聞くって時点でそれは第三者の意見が入ったほうがいいって事でしょ? それならやっぱ一番重要な悟君基準で考えないと」
「木葉に聞いてるの。それに悟基準て何よ」
「だって、こっちのが悟君好きそうでしょ?」
「もういいっ。自分で決める」
「あらら。照れちゃって」
「照れてないわよっ。ふんっ……」
(……とはいえ、やっぱり花柄よりもシンプルなものの方がいいかな……あんまり女の子女の子し過ぎるとちょっと私らしくないかな……。アイツにどうした? って言われるのも何か嫌だし……。って、何で私もアイツ基準になってるのよっ! もうっ!)
「……いい。やっぱり今度にする」
「あ、そう? じゃあ私ちょっと見たいのあるんだけどいいかな? 新しいスニーカーが欲しいなって」
「いいよ。じゃあちょっと歩いたら大きいお店あるからそこに行こっか」
「うんっ。やっぱ夢は頼りになるねぇ〜っ。さすが住んでるだけあるっ」
「めずらしいよね。木葉が秋波原で買い物したいなんて」
「何かいつも同じとこいってるからさ〜っ、たまにはちょっと違うとこもいいかなって。ほら、服装変えると出会いも変わるって言うじゃん?」
「えっ? 出会い? 木葉にはもう金田君がいるでしょ?」
「えっ? いやいや、まだそこまでじゃないし、それにまだ何かピンときてないし」
「もう何回会ってるのよ。これでまだピンときてないって……」
「いや、何ていうか……悪くないよ? それに私の中では会った時より好感度は上がってるんだけど、何かこう……まだ……フンギリがつかないというか」
「木葉の付き合ってきた男の人、全部は知らないけど、私はけっこうお似合いだと思うな……」
「じゃあ夢が付き合ってみる?」
「いや、私は……」
「あ、やっぱ悟君がいいか」
「いや、私こそアイツにピンと来てないし」
「そっかそっか。そういう事にしといてあげる。そういえば悟君、元気なの?」
「……今度会う事になってる」
「おおっ! デートかっ? やるじゃん!」
「そんなんじゃないって。……ちょっと用事に付き合ってもらうだけだよ」
「そっか。何か用事ないと、理由がなきゃ合えないって事?」
「別に会いたくて用事を作ってる訳じゃないからっ」
「会うのに理由はいらないと思うよっ。好きなら」
「だから違うって。別に意味もなく会わないわよ。あんなの、見飽きたし」
「あららっ。強がっちゃって。じゃあ今その辺に悟君がいたら嬉しい? 嬉しくない?」
「えっ……? べ、別にそんなの……大した事じゃないからっ……」
「おやおや? 少し動揺しておりますな?」
「してないから。理由なく会っても別にただの悟だし。なんともないから」
「もうっ、夢ちゃんはっ。でもそういう素直じゃないとこ好きっ」
「もうっ。からかわないでっ」
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「……なあ、もういいだろ? いい加減店に戻って着替えようぜ」
「いやっ! だめだめっ!? ほらっ! 手が下がってるよっ。はいっ、もうちょっと腰を下げてっ! ほらっ、金田君みたいにっ」
「悟、こういうのは照れると余計に恥ずかしくなるぜ。ほら、俺みたいになりきっちゃえば案外楽しいもんよ。それになんか俺……周りの視線が何か気持ちよくなってきたぜ」
「……お前はなんかどっぷりハマり過ぎだ」
「いいよいいよ〜っ! その調子! 出来たら足上げてっ! はいはいっ!」
Vtuberとアニメキャラにコスプレした悟と金田の2人はカミーユにバシャバシャと撮られていたのだが、店内だけでの撮影に満足がいかなかったのか、カミーユは店の人に許可をもらい半ば強引に2人を外に連れ出し、秋波原の街をバックに写真を撮っていた。
道行く人を意に介さずカミーユは2人をバシャバシャ撮り、そしてそれが気持ち良くなりノッてきた金田、渋々ながらも中途半端なポーズで顔が引きつりながらも撮られる悟。そこには素人感満載の街中撮影会が繰り広げられていた。
「えっ!? なにあれ? コスプレだっ! ねぇねぇ夢! あそこで撮影やってるよっ! こんな街中で撮影してるなんてさっすが秋波原だねっ!」
「えっ……? まあ、たまにやってるわよ。時々周りを見ないで人にぶつかったりして迷惑を掛ける人もいるけど……。さっ、あまり関わらないほうがいいわよ。行きましょ」
「ねえ待って!? ………あれ……なんか……。
…………ねぇ……あれ、ひょっとして金田君と悟君じゃない……?」
「何言ってんのよ……。
…………えっ……?」
夢と木葉の目線の先には、道行く人に好奇の目で見られながらも素人感丸出しでポーズを決めて撮影している悟と金田がいた。
(……あれ……なんで……? 何やってんの?)