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106.カミーユルート③


 悟と金田はカミーユに背中を押されるようにビルのエレベーターに乗り、3階で降りるとすぐ目の前の「メルティア」と書かれた自動ドアが目に付いた。


 ドアの両脇にはセーラー服とメイド服を着せられたマネキンが客を迎え入れるように立っている。



「楽しみだねっ。ワクワクするな〜っ」



 2人をビルに促したカミーユも、来るのは初めてのせいかテンションが上がっていた。



「カミーユ。ここは何の店なんだ? 喫茶店か? こういうセーラー服やメイドの格好をした子が接客してくれるのか?」



 疑問をぶつける金田の声を聞きながら、悟は先ほどビルの入り口ですれ違った3人組を思い出す。



「カミーユ、ここって……」


「さっ、入ろ入ろっ!」



 金田と悟の言葉を無視してカミーユは我先にと自動ドアの前に立ちドアを開けて入っていく。



「おい、ちょっと待て……」



 金田の言葉をかき消すように店内から女の子数人の声が響く。



「いらっしゃいませ〜」


「いらっしゃいませっ。3名様ですか? ご予約はされてますか?」


「あっ、予約は……してなかったです」


「今からですと……あっ、大丈夫です、お一人様だけその後からになり、お待ちいただくかも知れませんが、よろしいですか?」


「よかった〜っ。でも……どうしようかな……う〜ん。……わかりました。じゃあ、2人で大丈夫です!」



 どうやら予約が必要だったかも知れないが運よく空いていて、すぐに対応できるとの事でカミーユはほっと胸を撫で下ろしていた。


 悟はその間、店内を見渡していたが、壁に貼られている2枚の写真に気付く。



 左側の写真はBefore

 右側の写真はAfter

と書かれており、Beforeはスーツを着た男性、右側はどこぞやのお姫様がお召しになっているような豪華なドレスを着た女性が写っている。



 ……ん?

 これってつまり……




 ー 女装??




 なのか?



 悟はお店の人よりもカミーユに聞きたくなったが、受付を済ませたカミーユはどんどん先に進み、奥の待ち合い室へ入っていく。

 悟と金田も続くように部屋に入り、先に座ったカミーユに向き合って座る。



 金田が少し興奮ぎみに、



「あ、あれか……その……ひょっとしてここ、そういう……女の子とプレイする店なのか? そ、それならそうと先に言ってくれなきゃ俺も心の準備が……」



 少しばかり店の趣旨を勘違いした金田をさえぎり、悟もカミーユに質問する。



「おい、カミーユ。ここって……女装する店なのか? そこに俺たちを連れて来たって事か?」



 一連の流れでどう考えてもそうだとしか言えない質問を悟はする。



「え? え?」



 丸い目で悟を見つめる金田を見て、フフッと小さく笑いながらカミーユが、



「うん。そうだよ。女装をしてもらうお店だよ」


「えっ!? そうなのか!? ……なんでよ?」



 何を期待していたのか金田は少ししょんぼりする。



「やっぱりか……」



(それでさっきビルの入り口にいた人は……なるほどな)



 カミーユはキラキラした瞳で、



「前から一度来てみたかったんだ。フランスにもコスプレが出来るお店はあるんだけど、アニメや2次元ものはあんまりなくて、むしろ本格的な〈変装〉的なコスプレのお店で……。それで日本の本格的な〈コスプレ〉のお店に来てみたいなって」


「いや、でもさ、急過ぎるだろ? しかも女装なんて……俺、全然そっちの世界、知らないぜ」



 金田は少しびびっている。



「やってみたらハマるかも知れないよっ」


「いや、やっぱ急過ぎるだろ……俺も心の準備が……っていうか、そもそも女装なんぞ俺の人生で1ミリも考えた事なかったし……」


「えっ? 悟君は美少女ゲーム好きなんだよね? 一度は思った事ない? 美少女になってみたいって」

 

「ない。全然ない。マジでない」


「そっか〜っ。そうなのか……残念だな」


「何が残念なんだ……」



 金田は相変わらず落ち着きのない様子で、



「そういえばさっきカミーユ、2人でお願いしますって言ってたよな?」


「うん。3人だと時間がかかるって言うしね」


「じゃあ誰なんだ? 3人のうち誰が女装すんだ?」


「えっ? 金田君と悟君だよ?」


「……う〜んと、う〜んと……うん、そうだ。まずここ、カミーユが来たかったお店だよな?」



 そう言って金田はバカ丸出しな感じで腕組みをして店の天井を見上げる。


 悟は何とかこの状況から脱出できないかと、カミーユを説得したい気持ちにかられる。



「あのさ……今日俺とは初対面じゃん? いきなりその、何というか……女装させる店に連れて行こうと思ったのか?」


「どんな人が来るかはわからなかったけど、うん。来るつもりだったよ」


「そ、そっか……」



(悟君なら尚更だよ! こんなタイミングでまた会えるなんて本当に奇跡だっ!! 絶対ぜったい悟君の女装した姿、見てみたいっ!)



「カミーユはやらないのか? 金田も言ってたように、そもそもカミーユが来たかったお店なんだし……」


「いや、3人だと時間掛かるって言うし、僕はホラ、あの……そう、自分がやるより人の女装した所が見てみたいな〜って……。うん、そうなんだ! そうなんだよ!」


「ふ、ふ〜ん……」



 悟はカミーユの半ば強引な言い訳に押されて何となく妙に納得してしまいそうになった。


 思わず助け舟をと、金田のほうに目をやると、いつの間にか金田はこの店で女装した人達のビフォーアフター写真の記念のブックレットをペラペラと眺めていた。



「おい、金田?」


「……ん? あ、ああ……なんつーか、その……」


「……。」


「まあ……アリ……かもな」


「ええっ!? なんでよ!?」


「いや……なんつーかこう……アリなんじゃねえかと」


「いや! だからなんでよ!?」


「いや、俺って自分で言うのも何だがいつも周りに女の子がいねえ……って訳じゃあないのよ。……でもよ、何かあと一歩足りねえ気がするのよ。だからこの際、せっかくの機会だから一旦俺が女の子になる事によって女の子の気持ちが少しでもわかるかも知れねぇかなと。

 ……いいか、悟? これは俺達に女装の気があるとかないとか、そういう事じゃねえ。俺もお前もお互い好きな子にもっと近づく為の、今の俺達に必要な事かも知れねえ」



(ダメだ。こいつやる気だ)



「何だよそれ。そんなんで女の子の気持ちわかんのか? そういうもんなのか? しかも一旦ってなによ? 俺には必要なのかどうかもわからん」


「わからなくてもいいんじゃない? 何かをやるのに必ずしもちゃんとした考えが必要って訳でもないんだしさ。ただ楽しむ為にやってもいいんじゃない? それに、これをキッカケに案外ハマるかも知れないしさっ。それに、女装した2人も見てみたいし(特に悟君)……」



 悟は半ば、こんな状況なら「いや、結構です」と断って店を出るのは難しい、しかもこのままやらずに2人とギクシャクしても面倒かも知れないと思い始めた。


 そして……



「……わかったよ。……じゃあ、やるか」



 そう言って金田のほうを見ると、金田は既にやる気満々なのかブックレットとにらめっこをし、どの格好をしようか悩んでいる。マジだ。



「やった! じゃあどの女装にする? 店の人が来るまで決めちゃおうよ!」


「いや……店員さんに相談しながら決めた方がよくないか?」


「大丈夫! 僕も一緒に選んであげるからさっ! ねっ?」


「悟、こういうのは自分のセンスで選ぶもんだぜ。こんな機会そうそうねえんだから店の人に決めてもらうよりも自分の感覚を信じて選んだほうがいいぞ。……おっ、いいなこれ。こういうの木葉ちゃんぽいな……」



 言いつつ金田はなんか選んでいる基準がおかしくなってる……



「まあ、そうなのかも知れんが……。

はあ……あんまりじっくり目を通す気になれないな……。全員男だろ? 何だかな……。やっぱりカミーユもやったらいいのに……。けっこうハンサムだから以外と美少女になっちゃうかもだぜ」


「(ドキッ!)えっ……? ……いやいや、僕はまた次の機会に……ははっ」



 めずらしくカミーユがうろたえているものの、悟は全く気付く様子もなく、



「う〜ん。じゃあよかったら、カミーユ何個か選んでくれない? そっから選ぶわ。これ以上このサンプルを見続けるのはキツい」


「うん。いいよ、まかせてっ。」



 しばらくの間、金田とカミーユはサンプルのブックレットを穴が空くほど見つめていた。




 妙に静かな時間が流れる。




 どうしてこうもこの2人は、ここまで真剣に女装に対してお熱を上げられるのだろうか……。



 (はぁ……まさかこの俺が女装する事になるなんてな。……しかしカミーユの言う通り、もしこれで俺が〈目覚めて〉しまったら……。

 いやいや! それはない! 断じてない! それに俺は……夢に見合う男になるんだ! 

 ……いや、でもさ……夢に見合う男になるのと女装に目覚めるのは別じゃね? 別に女装したからってその人の価値が下がる訳でもねえし、むしろ魅力が引き出される事もあるだろ……。

 いや! しかし、今の俺にはそれはない! あくまで俺は美少女ゲームを極め、そして幼馴染の無理目の美少女と結ばれる事、それだけでいい! それが精一杯だ。それしかできねえ! ……あとバイトと)



「よし。決めたぜ。俺はこれにする」


 束の間の沈黙を破るように金田がつぶやいた。



「僕も決めたっ! っていうか悟君のだけどっ! さあっ、どっちか選んで! なんなら両方っ!」



 悟はカミーユにブックレットを渡され、見ているのか見ていないのかよくわからない様子で軽く冷や汗をかいていた。



(もう……逃げられんな……)




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