102.夢の相談事
エムドナルド秋波原駅前店。
そこは以前、悟と夢が奇跡的な再会を果たし、立ち寄った場所。
先日、夢に「相談に乗ってほしい」と言われた悟は都合をつけてこの秋波原まで出向き、そしてこの店で会う事にした。
この場所を指定された夢も特に嫌ではなかった。可もなく不可もなく、ただ何の気なしに悟の提案に合わせてこの場所へ来た。
そして今、夢はオーダーをしに行った悟の代わりに席を取って待っている。
店内を歩く男性客が夢をチラチラ見ながら通り過ぎていく。中には声を掛けそうな輩もいたが、夢の圧倒的な「何人たりとも近づくな」オーラにやられてそそくさと通り過ぎてしまう。
夢はのんびり窓の景色を見ながら、あの時はお互い久しぶりでうまく会話が噛み合わなかった(悟はそうは思ってない)が、今また改めてここに座り、トレーを持って近づいてくる悟を見つめていると、前回とはまた違う恥ずかしさのようなものを感じてしまう。
「ほい。お待たせ」
「……ありがと」
「ここ、前来た時と同じ席じゃん?」
「そうだっけ? 覚えてないわ」
「またまた〜。あの時は俺しか見えてなかったってか」
「はいはい。それでいいわ」
「今回はポテトちゃんと食べろよ」
「いただきま〜すっ」
悟の言葉を聞いてるのか聞いてないのか、夢はシェイクを手にし、ストローを咥え込む。
「夢と再会した日にここに来てからまだ数ヶ月しか経ってないんだよな……なんか懐かしいな」
「そう? 私はたまに木葉と来るからそんな事ないけど」
「俺は夢としか来た事ない。もっと来てもいいんだけど」
「そんなしょっちゅう来てどうするの?」
「いや、楽しいじゃん」
「え?」
「俺といると」
「マジで言ってんの? しかも自分で」
「いいからポテト食え。タイミング良かったのか揚げたてだぞ」
「ご心配なく。私のペースでいただきますから」
夢は肩まで伸びている髪を手で後ろに払い、オホンと咳払いをし、目を閉じてもう一度シェイクを口にする。
暖かな木漏れ日が店内に入り込み夢と2人の座るテーブルを優しく照らす。
ほんの数ヶ月前に再会した時に感じた、夢の普通の(?)美少女とは違う、桁違いの美少女オーラに悟は改めて見惚れていた。
(ああ……こんな美少女と俺はお知り合い、いや、友達……いやいや、幼馴染だなんてそれだけで俺はもう幸せ者かもな。……いや、絶対彼女にするんだけども)
「……食べないの?」
「はっ……!」
ふと、夢からの言葉で、夢に見惚れていた悟はあわてて我に返る。
「お、俺のペースでいただきますからっ!」
夢に見惚れていた事を悟られまいと、悟はおもむろにバーガーの包みを開いて食べ初める。
そんな悟を見つめながら夢は、
「……ねえ、悟」
「……なんだ」
「あなた今ずっと私の顔見てたでしょ」
「ぶふっ!」
口に入れたバーガーを吹き出すまいと悟は必死にこらえる。
慌てて咀嚼して飲み込むと、
「何言ってんの? ねえ? なんで? 今更俺が夢の顔に見惚れる訳ないじゃん? お好み焼きの時みたいに吹き出さそうったってそうはいかねえから」
「ふ〜ん。見惚れてたんだ」
「なっ! いやいやいや! 何おっしゃってんの? 意味わかんないんだけどっ!」
悟は夢のイタズラな笑顔と大きな瞳にヤラれそうになりながらも慌てて否定する。
「何慌ててんのよ」
「別にっ! 別にですけどっ!」
悟は無理に平静を装い、ハンバーガーをもう一口頬張ってシェイクを飲み込む。
(モグモグモグ……。夢は夢である程度自分が男共に見られているって自覚はあんだな……。やっぱそうだよな。いくらなんでもわからねえ事は……ないよな……)
夢は悟がハンバーガーを頬張るのを見つめて、自分もハンバーガーを食べ始める。
2人共同じ照り焼きバーガーを食べているはずなのだが、悟はたまに包み紙から溢れそうになるソースに気を付けて食べているのに対し、夢は可愛い小さな口でパクパクと食べながら、ソースどころかレタスがハンバーガーから溢れる出す様子もない。
(……しっかし綺麗に食べるよな。何でこんなにきれいに食えるんだ? 無理目の美少女はハンバーガースキルが高いのか?)
「……そういえばさ。木葉ちゃんと金田って、一体どういう関係なんだ?」
「えっ? 何? どういう事?」
「いや、夢ももう気付いてるだろ? 金田の事。……多分木葉ちゃんは金田の猛アタックに疲れてるとは思うんだが。この前俺にもうお前のお守りはしてやれねぇって訳わからん事言って息巻いてたからさ。何か知ってるかなって思ってさ」
「……まあ、何かあったら金田君から直接悟に話すんじゃないの? ……あ、信用ないのか」
「こらこら。失礼だぞ」
「私も木葉から2人の事は特に聞いてないよ。でも最近はあんまり男の話はしなくなったかな」
「そうなの? それってつまり……木葉ちゃんの周りは今、男が居ないって事か? もしそうなら……」
「こらこら。余計な詮索はしないの、私も木葉が何か言ってきた時だけ聞くようにしてるから」
「でも気になるじゃんかよ。だろ?」
「それはそうだけど……。でも私は木葉から話したい時に話してくれたらちゃんと聞いてあげようって思ってる。恋愛経験は……まあ、ないけどね……」
「そっか……。女っててっきり恋愛話しが好きだと思ってたんだが……」
「だからまだわからないよ。言わない分……ちゃんと考えて、大事にしてる事って……あるじゃない……。
……あっ! っていうか知らないっ! もうこの話はおしまいっ!」
「なんだよ急に……。ま、いっか。ちょっと金田の事が気になって、何か知ってるかなって思っただけだから。俺もアイツから何か言ってくるまでそっとしとくわ。俺も忙しいし」
「そんな忙しいの?」
「まあ、バイトと家の往復生活だけど、家にいる間はもっぱら配信活動に勤しんでいるゆえ、俺には空いた時間がそもそもない」
「でも今日は会ってくれたんだ。ヒマなの?」
「おいおいおい。ご挨拶だな。また夢ちんは別だよ」
「何その呼び方。キモいからやめて」
「そう言われるともっと言いたくなるな」
「しばくわよ。ポテトで」
「だからポテト食べろって。また食べない気かよ」
夢はテーブルのポテトには一本も手を付けていない。ポテトが嫌いならナゲットやらサラダやら他のサイドメニューにすればいいものをと、悟はやれやれといった表情を浮かべた。
2人は感じていた。
悟は未だ夢が今日の本来の目的である相談事の内容を話してこない事。そして夢は悟にどうやって話せばいいのか、タイミングをうかがいながらも、何と切り出せばいいのか思案していた。
2人の間に流れる、微妙に気まずい雰囲気に2人共知らんぷりするかのように。




