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なげやりクリティカル  作者: さと丸


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10.晴れて前科者

ー昼は勝負所だ。


 まあ食べ物屋としては当然ヒマな日、忙しい日もあるわけだが、平日の昼時はいつも混んで厨房とレジカウンターは怒涛の忙しさになる。それも面白いことに昼の忙しい時間帯は大体決まって11時55分あたりから12時50分まで。この55分間の間がいつも勝負時だ。


 サラリーマンのおっちゃんから、OL、ニート風あんちゃん、たまに謎のロリ風な女の子から定年後、ファイアーしたおじいちゃんまで、色んな人が分け隔てなくこの弁当屋に突っ込んでくる。


 今日みたいな厨房、レジカウンターそれぞれ一人ずつの日には、さっきまでのダメンズによる女トークから一変、昼は想像を絶する修羅場と化す。


「はい唐揚げご飯大盛り!」


「はいっ」


「おろしハンバーグご飯少なめと、ネット注文の幕の内4つ!」


「はいっ」


「ミックスフライ弁当とカキフライおかずのみ、カツ丼大盛りはあと2分!」


「はいっ」


「レジ落ち着いたらこっち来て唐揚げ油から出して!」


「ういっ」


 もう無駄な事は喋れない。軽く火傷しつつ、焦げる寸前の唐揚げを油から救出していると電話が鳴る。


「……この番号は…来たか」


 なるべく店の忙しさが伝わらないよう、一呼吸おいて受話器をとる。


 ガチャ……


「毎度ありがとうございます! ほっとホット天央寺店です!」


 「ああ、下丸警察署だけど、唐揚げ弁当ご飯大盛り4つと、デミハンバーグ弁当2つとコロッケカレー弁当3つ、コールスローサラダ1つと、あと中華丼ご飯大盛りで。20分後位でよろしく」


「はい!唐揚げ弁当ご飯大盛り4つと、デミハンバーグ2つに、あと……」



 たまにこの弁当屋の角の道を挟んで2件隣りの下丸警察署から、まとまった注文が入ってくる。


 俺はそれが嫌で嫌でしょうがない。


 初めは警察署に出前なんて、そうそう行けるもんじゃないなと思ってワクワクしていたが、いざ配達に向かうと、いかにもガラの悪い? というかコワモテの刑事に職員室の居心地の悪さより100倍悪い部屋に通され、


 「ああ。これ、お金。お釣りある?」


 なんて、ただの会話でもビビってしまってこっちは何も悪い事していないのに無駄に萎縮してしまい、何度か計算を間違えて、再び警察署にお釣りの訂正に来る事も何度かあった。


 しかもウチの店、そもそも出前注文なんてやってないし、警察署もそれを知ってか知らずか、いつの間にか前の店長からの暗黙の了解で続いているシステムらしい。



 「ほんと、こういうの、職権乱用だよな。お国の為、市民の為ってか。それなら出前注文も喜んでってか」


「いいから早く行ってこい」


「はい、行ってきやす」



 いくつかの弁当を袋に詰め、本来やる必要もない配達をしに、警察署へ向かう。

 このクソ忙しい中、店を離れるのは少々の罪悪感を感じる。今日みたいに2人体制で店を回すなら尚更、少しでも早く戻って店長のサポートしなきゃななんて、いくらバカな俺でもそう思う。



ーしかし、しかしだ。



 今日は違った。

 交通課の高橋ちゃんが署の前で何か突っ立ってる。


 

 どういう事だ?



 高橋ちゃん(名札にあった名前、ちゃんは俺が勝手に付けた)はいつも署の中にいて事務らしき職務をしてて、たまにコワモテ刑事の代わりに俺から注文していた弁当を受け取っている。ちなみに高橋ちゃんのいるデスクの真上の天井から、「交通課」というプラカードがぶら下がっているのを見つけて以来、俺の中で勝手に「交通課の高橋ちゃん」になった。


 そして高橋ちゃんは、ズバリ一言、男目線でいうと「可愛い」のだ。いかにも「交通課の高橋ちゃん」といった、何とも言えない警察官ならぬ愛嬌を持ち、こんな子になら一度捕まってしまってもいいかも知れない、と思う位恐ろしくバカな事を平気で想像してしまう程に可愛い子なのだ。



 まあ、簡単に言うと、



「陸上部に所属しているいつもとびきり明るいショートカットの似合うめちゃくちゃ可愛いインターハイ選手」



 みたいな感じなんだ。


 伝われ。この感じ。


 うん。伝わった。信じてる。


 

 当然、俺は実際名前でなんて呼んだことはないし、コワモテ刑事達のいる中、うかつに声を掛けようもんなら、即攻で取り調べ室行きだろう。そして3日ほど訳のわからない尋問をされ、自分で店に電話してカツ丼を取りに行ってその後また取り調べ室に戻り自腹で食べるんだろう。うん。想像にかたくない。



 「どうも、ご苦労様です!」



 こっちがそんなしょうもない事を考えながら警察署に近づいて行ったら交通課の方からストップがかかった。



「あ、毎度ありがとうございます!お弁当、届けに来ました!」


 「はーい、ご苦労様です。これお金、丁度準備しました」


 「ありがとうございます。ではこちら、ご注文のお品になります」



ー ……いってみっか? いってみっか? 俺 ー



「あの……いつも署に入らせていただいた後でお弁当お渡しさせていただいてるんですが、今日は何で……」


「んん? ああ、今日はね、私がお弁当受け取って来ますって言って来たの」


「あ、そうなんですか?でもそんな、こちらからいつものように直接お渡しに伺いますよ(本当は配達ねーけど)、すいません、なんか」


「いいの。私が勝手に署から出てきて楳野さん待ってたんだから」


ーうん? 今、何つった?


(何で俺の名前を…そっか。エプロンに名札付けてるもんな。)


「えっ?いや、どういう意味ですか?何か俺、しましたっけ?」


「うん。したといえば、した」


「えっ!?マジっすか!?いや、特に悪い事は何も……自分の記憶の範囲内では……」


「わかんないかなー。わっかんないよね。当然だよね。でもこう言ったらちょっとはわかるかな?」


ー 彼女ー 高橋ちゃんは真っ直ぐそして明る過ぎる、警察官とは思えないほどの純粋なまぶしい位の愛くるしい笑顔で、



 「いつも観てますよ。さと寸さん」



俺は今日、高橋ちゃんに捕まった ー



 

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