おまけ 合コン? 何それ? 美味しいの?
誤字脱字いくつか修正してます。
ご指摘ありがとうございます。
でも『メンズ』の単数形は『マン』と気づけなかったことがこの上なく恥ずかしい!
※修正済みです
金曜日19時。
おしゃれ系居酒屋の個室の長テーブルに座った三十路女頼子は既に後悔していた。
(私、なんでこんなところにいるんだろーな……)
誰も来ていない。
現在時刻は18時55分。開始時間5分前。
5分前に到着は社会人として当たり前、だと思っていたのだが。これではがっついているように思われそうでキツい。実際にはここに来るまで何度体調不良でドタキャンしてやろうかと思ったぐらい気が重くて仕方なかったのだが。
周囲に客がいればいいのだ。ある程度の騒々しさがあれば気がまぎれる。
(なぜ個室!?)
完全に隔離ではない。壁一枚隔てた場所では楽しそうな笑い声が何度も上がっているのがさっきから聞こえてるからこそ虚しい。
なんで自分はこんな空間でひたすら待たなければならないのだろう。時間も守らんような奴らを!!
「頼ちゃん、ごっめーん☆」
幹事は7分遅れでやって来た。
高校時代の友人芙由だ。『先日のお詫びに』と呼び出されたのが合コンの数合わせだというのだから笑えない。
芙由の後ろから個室に入ってきたのは、長身イケメンの芙由の彼氏だ。例の不倫騒動もおみパ参戦も何も知らない高スペック彼氏。
「どうもこんばんは」
「お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」
朗らかに挨拶をしてくる彼氏につとめて冷静に丁寧に返す。陽気すぎてムカつくと言ったらさすがに横暴すぎるか。
芙由のいろいろをばらしてやりたい衝動に駆られるが、もう修羅場に巻き込まれるのは避けたい。
今日を穏便に過ごし終わらせるのが本日のミッションである。
(『明日暇~?』って聞き方はだめだと思うんだよね、うん)
うっかり、「暇だけど」と答えてしまった頼子も頼子だ。暇と言ってしまえば断る口実などない。
芙由の策士っぷりには呆れるやら慄くやらである。頼子の迂闊さがまねいた事態だということはとりあえず棚に上げておく。
「で、今日は何をすればいいの?」
「お酒好きメンズを用意したのでぇ、今日は頼ちゃんが主役でえす!」
彼氏が連絡をすると席を外したので、横に座った芙由に問いかければそんな返答で、頼子は思わず頭を抱えてしまった。
メンズってことは複数いるのか。いや芙由のことだから一人でもメンズと言っている可能性もある。そうであって欲しい。
「頼んでないけど」
「気が合えばいいなって」
勝手なことを、と言いかけたところで「遅れてごめんなさい」と女の子二人組が個室に入ってきた。
芙由の後輩だという話だが、二人とも若くて可愛い。
ふんわり癒し系の二人組を思わず笑顔になって迎え入れ、隣に座ってもらい、一息つけば、あれだ。
(もう帰りたいなー……)
遠い目をしてしまう。
数合わせだったら適当に盛り上げればいいが、幹事は頼子が主役だと言う。
(主役より可愛い子は呼ばないのが合コンの鉄則でしょ。つまり私は数合わせってことでOK?)
OKならば少しだけ息がしやすい合コンとなる。数合わせ、盛り上げ要因、そういうの。
こっそり息を整えているうちに芙由の彼氏が男性陣を引き連れて戻ってきた。
そうして地獄の時間が始まった。
料理はコース、飲み放題付きだ。
飲み物を頼むところから合コンははじまっている。
後輩ちゃんたちの一人が全員のオーダーをとりまとめてくれる。人にやってもらうのは落ち着かないが、年上である自分がここで動き回るのも何だか気が進まない。周りに恐縮されたらどうしようかな、的な無駄な気遣いだ。
これが会社の飲み会ならばてきぱき働くのにな、と思う。
秘書でもなんでもないが、上役たちの秘書みたいな役回りをしているのが頼子だ。
なぜかそういうテーブルの下座に座り、あれこれと世話を焼くのが常だった。
パワハラなどと言われそうだが、二次会ではその上役たちに高級店に連れて行ってもらえるので、見返りは貰っている。高級店で上役たちにおごってもらう酒は美味い。
だからこうやって至れり尽くせりなのは落ち着かない。
そわそわしながら、本日の合コンメンバーを見回してみる。
男性陣は芙由の彼氏ともう一人が30代、あとの二人は20代の若造。もう最初から二組に分けろよ、異年齢交流会か! というツッコミは胸の中に沈めておく。合コンってこういうもんだっけ?
やっぱりメンズと言いながらもマンが正解か。何人も呼ばれていたらそれはそれで嫌だ。ただでさえ、頼子に会うために呼ばれているであろうあの30代が哀れでたまらない。何とか時間の無駄だったと思われないようにしてあげたい、と謎のサービス精神が生まれてしまうのはどうしてなんだろうな。
恋が芽生えるかどうかと聞かれれば、どうしてか絶対ない、と断言できるのは頼子の長年の経験から来る勘だろうか。頼子の勘はよく当たる。
ドリンクがきたら乾杯の合図とともに、建前上のスタートだ。事実ドリンクオーダーの時点でもうはじまっているが、やはり合図がないと締まらない。
合コンといえば、まずは自己紹介からはじまるのだろう。
男性陣から自己紹介をするのがセオリーだ。セオリー通り幹事から、芙由の彼氏が口火を切った。
最近のマイブームがゴルフとか何とか。
芙由の彼氏の趣味なんて頼子にとってはどうでもいい。お金がかかりそうだな、とかまだまだ独身貴族を楽しむタイプだなあれは、とかその程度の感想だ。
ゴルフ! スゴイ! ヤバイ! と若い子たちが持ち上げているので頼子はニコニコしているだけで問題なし。
次は若手の二人の自己紹介だが、やはりニコニコしながら聞いているだけだ。
爽やか雰囲気イケメンの二人は、それぞれがバイクが趣味とか、ソロキャンとか、フットサルとかアウトドアな趣味ばかりで頼子とは遠く離れた世界の住人だとわかった。
とにかく爽やかで眩しい。そして若さが微笑ましい。作り笑いでなくても笑っていられる。
次は30代の幹事の友人だ。
先ほど芙由が言っていたとおりマイブームは日本酒だと語った。日本酒と言えば頼子も調べつくしている。米の銘柄まで調べ尽くしている。
あまり深く語ると周囲がドン引きすることぐらい、三十路の女にとっては常識だ。だが好きすぎて浅く語ることもできない。
(よし、今日は酒好きは言わないでおこう)
酒好きは隠匿。今日は無趣味な地味女でいい。数合わせで呼ばれた人、それで行こう!
お酒のお勧めおしえてください~! と女子たちに問われてまんざらでもない表情の三十路男に、がんばれよ! 心の中でエールを送っておく。
三十代前半ならこの若い子たちのギリギリ守備範囲に入るだろう。とりあえずがんばれ!
続いて女子たちの番だ。
芙由は全員と顔見知りらしいので、「幹事の彼女です♡」で終了。
続けて可愛さあふれる後輩ちゃんたちがそれぞれ名乗る。パン作りにハマってまーす♡なんて可愛らしい趣味にやはりニコニコしていたら、もう一人の後輩ちゃんが放った言葉にさすがの頼子も一瞬真顔になった。
「趣味はおいしいお酒をさがすことでーす! 大学時代お酒好きが興じてガールズバーでバイトしてましたー!」
(あ、これ、今日の主役はこの子に決定だな)
悟った。
幹事は頼子のマッチングのつもりだったようだが、その企みはすべてこの瞬間塵と化した。
この後頼子の時間は相槌だけで終わるだろうという予感がした。こういう頼子の勘はよく当たる。
(別にいいけどね、酒好き異性とは相性がよくないし)
負け惜しみではない。決して。
「佐藤頼子です。幹事の芙由と高校時代の同級生です。最近のマイブームは美味しい店探しです」
ぱちぱちぱちと拍手は上がったが、妙に恥ずかしい。
ニコニコして後輩ちゃんたちが取り分けてくれたサラダを食べる。
「頼ちゃんもお酒好きなんだよね?」
(うげ)
何とかロメインレタスを吐き出すのは耐えた。
芙由の援護は攻撃にしかならない。このまま静かに終えたいのに!
「人並みに、です」
えへへ、と笑って付け加える。
人並みにってどの程度なんだ、という疑問が同時に芽生えたが誰もツッコんでこなかったからさほど興味はないのだろう。ばば――お年寄――年上だから、かな。
あとは自由トークだ。
当然ながら『ガールズバー』に話題は集中する。
頼子もちょっとだけ興味があった。行ったことがないからだ。
なんでバイトに選んだのが居酒屋でもバーでもなくてガールズバーだったんだろう。キャバクラとの違いはどこにある?
ここでキャバクラで働いてました! といえば半分くらいは引くけれど、ガールズバーというと興味が引けるのはなぜか。
むしろ知りたいのは、ガールズバーとスナックの違いだ。
年齢か? 年齢なのか? どうなのか。
話を聞くに、彼女が務めていたガールズバーはかなりお酒の種類が豊富で酒好きが集まる店だったらしい。女性客も多かったようだ。
(どうしよう、行ってみたくなった)
後でこっそり店の場所聞いてみようかな、と、やはり取り分けてもらった刺身をつまみつつ頼子はそんなことを思っていた。
「お酒かなり詳しくなったんです! 今でも一人でカクテル作って飲んでる!」
「そうこの子の家すごいんですよ、リキュールたくさんあって」
「一人バー状態!」
きゃははと笑う様も無邪気でかわいい。やっぱ眩しいや。
(刺身、おいしいな)
料理がおいしいのは救いだ。飲み放題の酒には今更求めるものはない。アルコールが入っている、それだけで十分。お代わりをするのも面倒に思えてちびちび飲む。
(罰ゲームかよ!)
我に返っちゃだめ、と思っていたが、ふとグラスから口を放した瞬間に浮かんだその言葉を胸中だけで叫んだ。
好きに酒も飲めず、適当に相槌打つだけでお金はちゃんと回収される! って。
しかも最悪年上だから若い子たちより多めに払えっていうんでしょ! 絶対芙由の彼氏はそういうタイプだ。逆らうやつはいない、絶対。
(帰ろうかな、マジで)
ここで帰ったら心が狭いというかガキっぽいっていうか、あんまりいい印象はないだろう。もう会わない連中にそこまで大人の対応をする必要はあるのか。
ひたすら笑顔できゃっきゃと盛り上がる話を聞きながらも宴の終焉を願った。
「あ」
しばしの休息という名のお手洗いを出れば、例の30代男性とばったり出くわした。
内心舌打ちだ。それを出さずに会釈だけで済ませる頼子は大人だと自画自賛。
「疲れるよね、若い子」
すれ違いざまそう告げられれば、頼子も足を止めるしかない。
「眩しいなと思いますけど」
升井とか言ったか。升酒の升井。珍しいから覚えやすい苗字だった。
『お酒を飲むために生まれてきたみたいな苗字』とか自分で言ってたっけ。
男の情報を大慌てで思い返す。会話もなく終わると思っていたのですっかり記憶の底に沈めてしまっていた。
「だって佐藤さん全然絡んでないじゃん」
「それは、まあ、私が何か言ったら場が白けちゃいそうなんで」
「そんなことないって、僕みたいなおっさんでも相手してくれてるし」
「升井さん若いですし」
あの子たちのノリについていけるだけ存分に若いと思う。が、どうなんだろうか。
ちなみに芙由カップルは完全に二人の世界に没頭している。お見合いパーティー無双を彼氏にバラしちゃおうかなという衝動を堪えるだけで精一杯だ。
「そんなことより、佐藤さん、結構いける口でしょ?」
「いやあ、ホントに人並みですよ」
「結構僕、酒好きな人センサー敏感なんで。絶対佐藤さん酒好きだと思う。さっきのあの子がカクテルの名前が出すたびにちょっと反応してたし」
そういうのを見るのか!?
頼子は内心慄いた。
こんなに人のちょっとした反応を見ているのって、見られる方としてはちょっとキモチ悪い。
(営業職ってそうなの? 会社の営業、ポンコツばっかなんだけど)
※頼子個人の見解です
恥ずかしいというよりは、何かに負けたような気がして悔しい。
頼子も升井を気づかれない程度に観察してみることにした。
しっかり見ればわかる、本人のパーソナルカラーにぴったりなダークグレーのスーツに、ボルドー系のネクタイはよく見ればグレンチェック模様でさりげなくおしゃれ。さらにネクタイピンもさりげなくブランド品。
小洒落アラサー男子か。
(これは……)
ぴんときた、こういう勘は外さない。
「升井さん、彼女いるでしょ?」
「わかる?」
「ダメじゃん、出会いの場なんて来ちゃ」
バレてもあっさりしている辺りがなんだかなと思うが、呆れた表情をしていると自覚はしたが、頼子はこれ以上笑顔を取り繕うつもりはない。
彼女持ちに愛想を振りまくなんて後が怖い。逆恨みとかされたくない。
「お酒好きの子がいるからって誘われた話を彼女にしたら、スカウトしてきてって言われて」
「スカウト?」
「彼女社会人サークルやってて、集え酒好きOLの会って言って」
「……酒好きOLの会……」
なんだそれ、気になりすぎて仕方ない!
頼子はがっつきそうな自分を自制しながらも升井の言葉の続きを待った。
「とりあえずLINE交換しない? 詳細送るわ」
「は、はい……」
大人の嗜みで戸惑いを隠せない雰囲気を醸し出しながら頼子はスマホを取り出した。
合コンでなんだかよくわからない縁をゲットしてしまった瞬間だった。
「あの子は誘わないんですか?」
酒好きを公言している後輩ちゃんのことを聞けば、
「年齢層が高めなんだってさ。30代半ばが平均年齢」
「へぇ。あれ? ひょっとして彼女さん年上だったりします?」
「指摘されるとはっずいな」
この升井という男、年上彼女にめっちゃくちゃ甘やかされているのではないだろうか、そんな予感がした。
頼子のこういう勘はよく当たる。
(アリかもしれない)
年下男を甘やかして甘やかしまくって可愛がるという構図。
ただ甘やかすには頼子には足りないものが多すぎた。
(よし、お金稼ごう!)
「あのさ、佐藤さん、何か妙なこと考えてそうだから敢えて言うけど」
表情を変えていないつもりだったが、何かが表にでていたのかもしれない。
言いにくそうに升井が口を開いた。
「僕、ヒモじゃないからね」
「ヒモだなんて思ってませんよ」
「あと、たぶん佐藤さんの想像は、高齢女性猫を飼って後戻りできなくなるのとか、マンション買って一国一城の王になっちゃって他人と生活できなくなるのとかそういうのと同じだと思うから気を付けて」
「……え……」
普段友人から冗談半分に言われているのと同じことを言われているだけなのに。
同年代異性からの言葉の攻撃力は桁外れだった。
「は、はい、気を付けます」
ただ何を気を付けたらいいかなんて頼子にわかるわけもない。
ふらふらと覚束ない足取りであの地獄の個室へと戻るしかなかった。
「あの、佐藤さん」
先ほど以上にぼーっと話を受け流していれば、ちょんちょん、と肩を指で突かれた。
何事かと思って横を見れば例の酒好き後輩ちゃんだ。
先ほど席替えをして隣になったばかりだ。
「『カプエチ』って言ってわかります?」
こっそりと耳打ちされれば吐息がくすぐったい。
かわいい女の子の囁きも攻撃力が高い。なぜかドキッとした。
これをやられたら世の中の男の大半は彼女のことを好きになってしまう、そんな感じだった。
「フルーティーな日本酒の成分」
「あ! わかります? さすが!」
(正式にはカプロン酸エチル、リンゴとか梨とかパイナップルみたいな甘酸っぱいにおいがする。酵母の細胞内のおおきな脂肪酸が……じゃなくって!)
突然振られた話題に笑顔も消して目を瞬かせていると、後輩ちゃんはキラキラした目を頼子に向けて続けた。
「あんまり興味がなかったんですけど、最近フルーティーな日本酒があるって聞いてちょっと興味が出て、佐藤さんそういう日本酒知ってます?」
そういうのは升井さんに聞けば、と言いかけて、あれは彼女持ちだったかと思い直す。自らの言動で修羅場を作るのは頼子の望むところではない。
「有名どころでは――」
記憶を辿って誰でも聞いたことがあるような銘柄をいくつかあげておく。
後輩ちゃんは何度もうなずいてすぐにスマホで調べてくれているので嬉しい。
(こういうところがモテ女子の秘訣かもしれない)
「なるほど、勉強になります!」
「私も勉強になります……」
「?」
モテモテになりたいわけじゃない。でも可愛らしくなりたい。三十路でも使える技なのかどうかなんてわからなかったが絶対どこかで生かしたいと頼子は誓う。
「有名な銘柄だとお店で飲めるからお試しにはいいよね。いきなり瓶買いは勇気がいるし」
「あ、わかります、リキュールと違って日本酒って高いやつは高いですからね」
「最近、気になってるのが赤いお酒なんだけど」
「え、日本酒で赤なんですか!?」
「ワインみたいな色をしたお酒があるんだって。それがイチゴっぽい味がするって聞いて気になって気になって」
「それ気になります!」
「しかも、熱燗にするとめっちゃ美味しいらしくって!」
「なにそれ! 飲んでみたいです! 銘柄教えてください!!」
「それが思い出せないんだよぉおお!」
「思い出したら絶対教えてください!! LINE交換しましょう! ついでに今度飲みに行きましょう!!」
流暢に酒について語ってすっきりした頼子が我に返った時には周りの若人がドン引きしていることに気付いたが、後の祭りだった。
とりあえず解散だ。
若人連中で二次会をやろうが何をしようが頼子には関係ない。解散だ。
やはりちょっと多めに支払ったが、年上男性二人はさらに多めに払ったみたいなんで芙由のあれこれはバラさないで墓までもっていくことに決めた。
「頼ちゃぁん、うまくいかなくてごめんねぇ~」
彼氏の腕にしがみつきながら全然悪くなさそうに謝罪してくる芙由に「いいよぉ」と笑えるほど頼子は寛容ではない。ただ、怒り狂えるほどの元気もない。
「もう二度と合コンに呼ばないでね」
それぐらい釘を刺しておいても罰は当たらないだろう。
全然気にした風もなく、芙由はばいばい、と手を振って彼氏と夜の街に消えていく。
「まったく、芙由は、もう」
スマホが震えて新着情報の通知を告げる。
升井からだった。
『彼女に聞いたんだけど』から始まる文章は例のお酒の銘柄と購入先についての詳しく記載されていた。おそらく彼女から送られてきた文章をそのまま転送してきたものだろう。最後はよく合うおつまみについて述べられていた。
「絶対この彼女さんとは気が合うと思うんだよねぇ」
正直な感想を呟けば、もう一件新着通知が入った。今度は後輩ちゃんだ。
こちらも赤い日本酒の銘柄情報と、取り寄せたら家飲みしましょうというお誘いだった。
「イソとカプの飲み比べも、か」
こっちも中々に気が合いそうで怖い。
送られてきたメッセージを読み上げて苦笑を一つ。
「カプロン酸エチル」「酢酸イソアミル」の略称。日本酒のフルーティーな香り成分の二つである。それぞれフルーティーと同じ括りに入っているが味が全然違うらしい。
(まあ、私は基本楽しく飲めれば何でもいいんだけど)
まあ、なんにせよ楽しみは楽しみだ。
帰宅しようと頼子は駅に向かって足を向ける。
考えてしまったら負けだと思った。
合コン参戦して、女子と出会ってどうするんだ、と。
気づかない振りをして胸中で昔流行った歌なんかを流してみたりして。
家に帰ったら勉強だ。お酒の。今度酒盛りするための予習。
きっと酒好きOLの会でも有益情報をたくさん得ることができるのだろう。
これからもっと楽しいぞー!
無理やり気分を盛り上げるしかない。三十路女は今日も明日も楽しく酒を飲むに限る!
反省会
帰り道。
頼子はまだ開いていたコーヒーショップに何となく入店し、混雑するレジ前の行列の後ろに並びながらも手渡されたメニュー表を眺めた。
そういえば今日のコースにはデザートがなかった。
甘いコーヒーを飲んでもいいし、氷を砕いてシロップを混ぜてクリームをのっけたアレを飲んでもいい。カロリー? そんなの知らね!
そろそろ夜更けだというのに週末だからか混んでいる。
こういう時一人は身軽でいい。一人席なら空いている可能性が高い。言い換えれば独りで来るのはマイノリティーだと突きつけられているといって過言ではないのかも。
そう思いついてしまえば何となく甘いだけの気分じゃなくなった。ビターだ。ビターを楽しもう。
カスタマイズ、というものがある。
甘みを加えるのも無くすのもすべて頼子次第。思い通りに飲み物を作ることができる。しかも千円以内で。思うがまま、最高だ!
ろくに飲んでもいないが、恐らく頼子は酔っていた。
酔っていたがバカみたいにカロリーが高そうなスイーツを注文することは自制できた。
(偉い! 偉いぞ! 私!! よくやった!!)
自分を褒めるのは得意だ。
カフェモカのシロップ少なめ、エスプレッソショット追加とたどたどしく呪文を唱えれば店員さんは笑顔で対応してくれた。
(追加料金100円以下なら痛くもかゆくも……ある!)
合計料金に目を見張ったが、まあいいや、ちょっとだけ飲み代は安くしてもらえたし、と自分を慰めてお会計。
何とか一人席を確保して、ようやく落ち着くことができた。
まずは一口コーヒーを口に入れる。なるほど、ビターだ。
今の気分にはぴったりなのかも。
友人や恋人たちと談笑をしている周囲をそっと見回せば、自分の独りが身に染みる。
独りを楽しめるのが頼子の長所だと思っていたがちょっとだけ切なくなる日もないわけではない。
「隣いいですか?」
声をかけられて、背後を見やればごく普通の大学生といったいでたちの若い男だった。
今日はもう若い男性はおなか一杯という気分だ。口を開く気力もなく、手で空いている席をどうぞ、と勧めてやる。
会釈して席に腰を下ろす大学生を視界の端で確認しつつも、頼子は再び一人の世界に浸った。
「世界を」
大学生がそんなことを言ったのはあまりにも唐突で、でかい独り言だな、と率直に思いながらも頼子は再度コーヒーに口をつけた。
「世界を救いませんか、頼子さん」
「は?」
なんだこいつ! 何を言って、というか何故名前を知っているんだ! と狼狽しながらも頼子は立ち上がって身構えた。
「魔法喪女として!」
「もうそれはいいっちゅーねん!!」
心の底からツッコんだことで、なんだかモヤモヤしていた些末なアレコレは一気にどこかへ飛んで行った。
「二番煎じなんだよ! 私、たぶん女子にはモテる方だから非モテじゃないし! さらに言えば『喪』も『非モテ』も全部死語だってば! 年齢考えて! 私まだ31歳だよ!!もっと付け加えれば前回私がついポロっと口にしちゃった『魔女っ子』も死語だよ! 『魔法少女』が正しいんだよね!? わかっていてBBA発言したの! したけど宇宙人ツッコんでくれないんだもん!」
メタ発言だとわかっていながらも頼子は止まれない。
「ちなみに、男の子が変身すると魔女っ子になる個人製作ゲームがめちゃくちゃ面白くて大好きなんだけど、知ってる!?知ってたら魔法喪女でもなんでもやってあげるよ? どうする? 探してみる?」
「え、あ、頑張って、み、ます?」
「正解がわかったら、いいよ、引き受けてやる。世界平和のために、いつまでもこの独身街道ひたすら突き進んでやろうじゃないの!」
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飲み会の後のカフェは私が好きなだけ。
なんども同じネタを使って申し訳ございませんでした。とだけ。
赤いお酒は私が飲みたい酒です。
取り寄せたら一本飲みきれるのかが不安で取り寄せできず。
いつかは挑戦したい。
飲んだことある方がもしも奇跡的にいらっしゃったら感想お聞かせくださると嬉しいです。
(頼子クエスチョンの正解がわかっても変身はしません。あしからず)
頼子の年齢で魔法少女っていうとカードキャプターさくらかおジャ魔女どれみあたりだろうか。
変身ものよりは夢のクレヨン王国の方が好きなんじゃないかと思う。個人的見解。
反省会は活動報告ネタです。気になったら8/10の活動報告をご覧いただければ。
(8/10が正しかったですが8/15と記載していました。でも8/15の活動報告も読んでいただいて全然大歓迎です。作品について語っているだけです)