夜空を焦がす輝きと羽ばたき
緩いファンタジー系なお伽噺
誤字脱字と共存してきた為、恐らく大変読み辛いです。
ご都合主義ご都合展開なので突っ込みは野暮というもの…頭を空っぽにしてお読み下さい。
あるところに容姿は平凡だが、織物の腕前は国一番と唄われる女がおりました。
女は夫を亡くしており一人息子と共に暮らしておりましたが、その息子が国のために騎士として仕官して、いずれ戦場へ赴く事になっておりました。そのため母である女は息子のために立派なサーコートを作ってやりたいと思っておりましたが、中々これと言った素材を得る事ができないでおりました。
その女が住む家は小高い丘の上で、裾野には鬱蒼とした森が広がっており森には樹齢千年は超えていそうな大きく古めかしい桑の樹がありました、その桑の樹には世にも珍しい紫色の糸を吐き繭を作る蚕が生息してましたが、その古い桑の樹の洞には猛毒を持つ巨大な蜘蛛の家族が住んでおり、桑の樹の周りに糸を張り廻らせて他のものは近づく事ができませんでした。
その蚕から紡ぐ紫紺の絹糸ならば上質のマントを作る事ができるだろうと、女は常々思っておりましたが、それを採りに行った者達は皆巨大な蜘蛛が作った蜘蛛の巣と猛毒にやられてしまい、今だその紫紺の絹糸を持ち帰えれた者は誰一人居りませんが、女は諦め切れずにおりました。
「一人息子のために、何とかして手に入れてマントを作ってやりたい」と日々思い悩んでおりました。
ある晩遅く息子が城勤めで家に居らず、女も何時もより遅くまで機織の仕事をしていたために眠るのが遅くなってしまった頃、窓の外から赤々をした輝きが過ぎって行くのに気がつき、外を見て見ると森の夜空にまるで篝火を爛々と焚いたかの様な輝きが夜空を飛んで行くのを見たのです。
驚いた女は思わず輝きを追って夜中に外へと飛び出しました。
「あれはもしや、噂に聞くフェニックスではないかしら?」
遠くに輝く光の塊はやがて森のある場所へと降りていきました、奇しくもその場所はあの大きな桑の樹の場所であったのです。女は恐怖心よりも好奇心が勝り、小さなランプを持って夜の森の中へ輝きを追い入って行きました。
鬱蒼とした夜の森は月の明かりがまるで木漏れ日の様に射し込み、小さな夜の虫達が音楽を奏で合い一層神秘的な雰囲気を醸し出しておりましたが、女にはそれすら楽しみ感じる余裕もなくただ只管に道無き道を僅かな輝きの軌道を追うのでやっとでした。
暫らくするとあの蜘蛛の巣が張り巡らされている筈の桑の樹の辺りにやってきましが、普段ならばこの辺りまで来るとあたり一面蜘蛛が吐いた毒糸が張られているはずの場所が、毒糸が一部無くなっていたのです。それどころか縄張りに侵入すれば直ぐに現れるはずの蜘蛛達が一匹も姿を現さないのでした。その蜘蛛の毒糸は刃物で切ることも火で焼く事も出来ず、頑丈で一度でも絡みつくと二度と取れないどころか逆に粘々とドンドン絡まってゆき、糸に付く毒で段々と弱っていき獲物が糸に掛かった時点で蜘蛛に包囲されてしまうのです。ですがどうやらフェニックスの羽ばたきが蜘蛛の糸を焼き切るどころか、蒸発させてしまったのですが、女はそれを知りえません。
その糸が無く、蜘蛛も姿を現さない…こんなチャンスはない!と思った女は、覚悟を決めて桑の樹の方へ慎重に移動しました。
桑の樹にはあのフェニックスが止まっており、何やらごそごそと枝から枝へ動き回っておりました。女はどうしてフェニックスがこの桑の樹にやって来たのかようやく知りました。フェニックスはどうやら樹に生っている桑の実であるベリーを夜のうちにわざわざやってきて啄ばんでいたのです、桑の樹には甘酸っぱい実が生るのでそれを使って果実酒やジャムにするのが一般的でした。
それとどうやら蜘蛛達はこのフェニックスを警戒しているらしく、樹の洞の中に入ったまま出てこようとはせず、まるで息を潜めてフェニックスが去るのを待っている様でした。
女は「しめた!」と思い樹のあたり一面に落ちている、紫色の蚕の抜け殻の繭をたんまり拾い集めました。落ちた抜け殻の繭は雨風等に晒されておりながらも、ほとんど汚れておらずフェニックスの放つ輝きを受けて明るい藤色に輝くのでした。
やがて朝日が昇り始めた頃、フェニックスも大きく一伸びをして翼を羽ばたかせて帰ろうとする素振りを見せたので、女も沢山拾った繭をしっかり持ち桑の樹を後にしようとしましたが、先程フェニックスが羽ばたいた時にヒラリと一枚の光り輝く羽毛が舞い落ちてきたので、女は思わずそれを空中で受け取ってしまいました。その羽毛は親指ほどの大きさで手の平で柔らかく光を放っており、羽毛に触れている部分から体が優しい暖かさに包まれていくのを感じられました。女はそれを御守として持ち帰ることにしました。
女は持ち帰った繭をまずは汚れを落とすために一度綺麗に洗い、お湯で茹で上げてから再度洗って乾燥させてという作業を何度か行った後、ようやく絹糸を紡ぎ始めました。絹糸を手作業で行う事はとても大変な作業でしたが、息子のために一人懸命に作業を続けました。
それから数週間後にマントほどの大きさにはなりませんでしたが、長めの美しい紫紺の光沢を放つスカーフ程の物が織りあがりました。持ち帰った繭の量では大きな布を織るにはたりませんでしたが、女はそのスカーフに金糸と銀糸と緋色の糸を使ってあの「フェニックス」に似せた刺繍を入れました。
そして銀で出来た首飾りのロケットになっている部分にフェニックスの小さな羽を入れて「御守」として作ったスカーフと、それと柔らかな羊の毛で作ったマントを息子へ贈り「この首飾りは大事な【御守】だから、これだけは絶対に無くしてはだめよ」そう言って手渡すのでした。
お城へ向かう息子の背を見送りながら、女は渡した御守に思い願いました。
「どうか、どうか、息子を御守ください。武勲など上げずとも生きて無事帰ってくれさえすればそれ以上何も望みはいたしません」
そう願い、何日も何週間もたった頃戦争が終わったと言う知らせが、国中に知れ渡りました。
そして女の息子は無事帰還を果たしたのでした、息子はその晩母親に戦場で体験した不思議な出来事を話して聞かせました。
「馬から落とされ、剣も折れてしまい敵に切りかかられて【もう駄目だ!】と思った時に、なんとその敵が持っていた剣がまるでバターの様に溶けてしまったんだ。あれには自分も相手も唖然としたが、その隙になんとか逃げる事ができたよ、騎士としては失格かもしれないけど」
「まあ!そんな事が…きっとあの御守の御蔭だわ!」
それを知った女はあのフェニックスにお礼をしたいと思ったのですが、フェニックスが好んで食べるあの桑の実を自分では取る事ができませんでしたので、代わりに「とても甘くて美味しく、王侯貴族も所望する」と言われる滅多に手に入らない桃をなんとか一つ手に入れました。そして家に一つだけある大きな銀の器を教会へ持って行き清めてもらい、日が沈みきる前に屋根の上にその銀の器に桃を入れて置きました、あのフェニックスはどうやら桑の実を食べに行く時には自分の家の上を行き来しているため、苦肉のとして屋根の上に置く事にしたのです。
「あのフェニックスが気が付いてくれると良いんだけど…」
桃はあまり日持ちのしない果物なので、桃が腐る前に気が付いてくれることを願うしかありませんでした。
そしてその晩、女はふと、目が覚めてしまいました。たしかまだ日が昇るには早いはずであると言うのに、窓の隙間から灯りが差し込んできていたのです。訝しげに思った女はそっと窓辺に寄り、雨戸を静かにほんの少しだけ開けました。
あの晩に見た様な輝きに女には予感はありました、あのフェニックスが屋根に来ているのだと。
遠くの空はまだ闇に覆われているのに、家の上から大きな篝火を焚いたかの様な明かりが外を照らしておりました。
ですが女はそれ以上窓も開けず、外にも出ず、窓辺に立ちただフェニックスに感謝の祈りを捧げまたベッドに戻ったのでした。
「気が付いて食べてくれたのなら、良かった」と安心した女はまた眠りについたのです。
翌朝女は銀の器を回収しに屋根の上へ上がると、銀の器の中の桃は無くなっており代わりになんと小さなフェニックスの羽が一枚入っておりました。わざわざ置いていったのかそれとも抜け落ちたのでしょうか、その羽は前に手に取った羽毛と同じく輝きを失わないで、銀の器の中で存在を主張するかの様でした。また、桃を入れていた銀の器も以前よりも光り輝き綺麗になっておりました。
女はもう一枚の羽もまた「御守」として首飾りのロケット部分に入れて大事に所持し、やがて息子が妻を迎えると女は「御守」と「銀の器」をその娘に譲り渡し、こうして「御守」は代々その家に伝わる事になっていきました。
その後親子は幸せに暮らしその一族は大変繁栄して、「御守」にあやかり家紋を桑の実と葉が付いた枝をフェニックスが銜えている姿と銀色の器と描かれた図にしました。
それからも時折あのフェニックスは桑の樹に木の実を啄ばみに姿を見せたそうです。