9 『神聖バハムート帝国における死生観』
アスランが旧市街に戻り、アンハルト侯爵家のエリーゼの自室を訪れたのは、その日の午後の事だった。
エリーゼは、規則正しい時間に昼食を取り、その後はいつも通り、自分の部屋にこもっていた。相変わらずの引きこもり体質で、昼食の間も、ゲルトルートが気を遣っていくつかの世間話の話題を振ってくれたが、エリーゼは「はい」とか「いいえ」ぐらいしか返事をしなかったのだった。
そういう、複雑な間柄の養女を、異性とはいえ身分の正しい男が訪れてくれた訳である。ゲルトルートとて、暗殺騒動の事は気にしていない訳ではなかったが、彼女曰く女のカンで、これはいけると判断し、アスランをエリーゼの部屋へと自ら案内した。
ゲルトルートがノックして室内のエリーゼに声をかけると、エリーゼは蚊の鳴くような返事をして、部屋のドアを開けた。
エリーゼは、風精人にしても体が小さく、色白だったので、本当に子供の幽霊がひっそりとドアの陰からこちらを見ているような様子になった。
しかし、ゲルトルートはそんな養女ですら愛らしいと思ったし、アスランは健康上の心配を感じたが、可愛いとは思った。彼の周りにはあまりいないタイプだった。
「エリーゼ、お茶を持ってきたからね、失礼のないようにするのよ」
ゲルトルートは、貴族らしい上品な軽食とお茶のセットを、エリーゼの居間の中心にある、猫足のテーブルに置いてにっこり笑った。
アスランはゲルトルートにすすめられて、椅子に座っている。
「あ、おかあさま……」
そして、全くエリーゼに突っ込みの入れられない所作と笑顔で、彼女はさっさと娘の部屋から退室してしまった。アスランと二人きりにして。
元から、養女の良縁探しには必ず自分が口を出して一番いいところを選ぶと、夫のハインツに行って聞かなかったゲルトルート、アスランは、彼女のセンサーにしっかり引っかかっていたのである。
それで、「後は若い二人に任せて」などと言いもしないで、娘の部屋に彼を入れ、自分はちゃっかり退散してしまったのだった。
「…………」
ちなみに、ハインツは、この間、アスランへの料理へ毒を盛った下手人の厨房長が毒殺された騒ぎで、警察の方に出かけていた。料理を運んだハンナの無事を確認し、もう一回、自分から彼女に話を聞きたいとか何とか、そういう話である。ハインツはハインツで多忙なのだ。
「エリーゼは今日は何をしていたんだ?」
養母がいないと間が持たない様子のエリーゼに、アスランは極めてナチュラルにそう尋ねた。
「本を読んでいました」
そういう話なら返事ぐらいは出来る。エリーゼは従順にそう答えた。
「何の本だ?」
「”神聖バハムート帝国における死生観”です」
「シセイカン?」
アスランはもちろん、死生観という単語を知らない訳ではない。だが、日頃、彼の周りでは耳にしない言葉なので、何を言われたかわからなかったのだ。
「はい……えっと……」
エリーゼは自分でもどうしていいかわからない様子だったが、アスランが戸惑っているので、立ち上がって書き物の机の方にいき、そこに置きっぱなしにしていた分厚いハードカバーの本を持ってきた。
そこには、黒い表紙に派手なゴシック体で”バハムート帝国の死生観”とタイトルが書いてある。
教養の香りは相当高いが、15歳ぐらいの幽霊じみた娘がこれを読んでいるらしい。
「何についての本だ?」
アスランは、本を受け取り、表紙をめくりながらエリーゼにそう尋ねた。
「死について考える本です」
「……」
アスランは、知らない。エリーゼが、元は現代日本の中学生友原のゆりで、親の会社の炎上事件に巻き込まれて、ガスを使って一家心中したことを。
だが、もう片方の事情は知っている。魔大戦で、両親が殉職し、その後、アンハルト侯爵家に引き取られた一人娘であることは。
その娘さんが、昼日中から机に向かって、死について考える本を読んでいるとか、いくらなんでもあんまりだろう。
痛い。胸が痛い。
「最近、他に読んだ本はあるか?」
「あ、はい」
エリーゼは、隣の部屋にある本棚を思い浮かべながら、いくつかのタイトルをすらすらとあげた。
「”葬式とは何か”と、”永遠の命について考える”と、”真龍のレーゾンデートル”です」
「レーゾンデートル??」
もちろん、アスランだって貴族学校を出ている訳なのだから、存在理由の意味ぐらい知っている。だが、真龍バハムートのレーゾンデートルというタイトルの意味するところまではわからない。
「はい。帝国の象徴であるバハムートが存在するか否か、存在するとしてそれは形而上学的な存在か、もしも形而下であるのならば、真龍とは何故存在するのかまで思考範囲を広げた上で、神聖バハムート帝国における国体とは何か、また国学におけるレーゾンデートル……」
「わかった、もういい」
本に関することならば、かなり話せるらしいが、正直なところ、今それを聞きたい気分ではない。話してみれば面白いのだろうが、その前にあげられた本のタイトルが気になる。”葬式””永遠の命”。で、親が殉職して間もない娘さん……。
うがちがちだが、両親は神聖バハムート帝国の存続が危ういので殉職したようなもんだが、その神聖バハムート帝国が何故存在するのか考えて、思わずそんな本をむさぼり読んでいるようにも聞こえるのがコワイ。イタイ。
「そういえば、ピアノの勉強は進んでいるか?」
「ピアノ……お稽古はしていないんですけど……」
思い切って話題を切り替えると、エリーゼはやはり素直に返事をした。
ほんのりと頬を赤らめて、アスランの方を見上げている。
「稽古はしていない? それなのにあんなに弾けるのか?」
「はい。好きですから」
ピアノを弾くのも好きらしい。
「毎日弾いているのか、”幸せになろう”を」
「ええ、そうですね……」
そこでアスランは軽いめまいすら感じた。葬式、永遠の命、幸せになろう……。
「ゲルトルートに聞いたが、部屋にいることが多いらしいが、読書やピアノが好きなのか?」
「あ、はい。後は瞑想……ぐらい」
「瞑想?」
そこで、エリーゼも、さすがに何かおかしいと思ったらしい。
アスランの方からいかにも心配するような空気を感じたらしい。
自分がイタイ子と思われているんじゃないかと気がついたらしい。今更だけど。
「い、いえ、瞑想っていうか、ぼーっとしているだけです」
本読んで(葬式、永遠の命、帝国のレーゾンデートル、死生観)。
ピアノ弾いて(幸せになろう)
瞑想と言いつつ、日がな一日ぼーっとしているだけ。
ぼーっと……何か不意に、とんでもないこと思いつきそうな空気ガンガン幽霊じみた15歳。
アスランはだんだん、頭が痛くなってくるような気がした。
何しろ、命を救ってくれた少女なのだ。しかも、彼女の実の両親は、アスランが参加した最終決戦の魔王戦で、作戦実行中に殉職している。それこそ、露払いの段階で吹っ飛ばされたのだが、彼らの活躍がなければ、今のアスランはいないのだ。思わずそんな因果関係を考えた。
「あ、あとは最近は、……帝国学院に入学準備の勉強したり……この間、おかあさまと、教科書を買いに、外に出たんですよ」
「そうか。外に出かけたのか」
「それで、教科書を読んだりも、してます」
一生懸命引きつり笑いを浮かべるエリーゼ。本人としては、にこにこと愛想笑いを浮かべているつもりなのだろうが、今までの会話も相まって、青白い顔の女の子が無理して笑っていると、かなり痛々しい空気が漏れ出てしまう。
学校の勉強をしていることは救いだが、部屋から出ない女子が、本を読む事とピアノを弾く事とぼーっとすることだけを、ルーチンワークにして数ヶ月と考えると、これは確かに危険な状態であった。
これで、室内にパソコンが一台あったらどうなるかというと、パソコンでネットをし、パソコンで音楽を奏で、パソコンで瞑想ならず妄想を繰り広げるという人生になってしまうのである。
神聖バハムート帝国にコンピュータとインターネットがなかっただけが救いという話であった。
少なくとも本人、帝国学院に元気に通う気力はあるらしい。
「帝国学院に進路を固めたんだったな。そこで楽しみにしている勉強はあるか?」
「楽しみ」
エリーゼはきょとんとしている。
デレリンの田舎から、出てきた彼女。親のすすめで帝国学院に行く事にしたのだが、アスランはその事情を詳しく知らない。デレリンにも貴族学校はあるので、そこに通えばいいのに、シュルナウに出てきたのは、何かよほどの理由があるのかと思ったらしい。
とにかく鬱になりそうな会話を避けて、彼女の事を話題にしたのだ。
「楽しみ……というか……おかあさまのたってのすすめですから……」
「養母上の?」
「はい、おかあさまは、デレリンではなく、シュルナウの帝国学院の卒業生なんです。……私の先輩になるんだそうで」
夢とか希望とか好きなこととか。
そういうことを聞きたかったアスランは、自分が思いきりからぶったことを知った。
どうやら、養母が、自分の母校に養女を突っ込んだだけで、養女であるエリーゼは自分の進路への展望などより養母の希望をかなえようとしたらしい。
一応、シュルナウ帝国学院は、中等部から大学部、院まで、帝国随一の名門校であることは間違いない。将来の帝国を担う貴族の子女だけではなく、皇族の子弟も入学している名門中の名門だ。そこで青春時代を過ごしたというのだから、ゲルトルートは確かに教養とたしなみの深い淑女なのだろう。本来は。
だが、なんとも言えないことに、そこにはゲルトルートの気遣いもあるが、エリーゼが養母に遠慮しているようにしか見えないという事実がある。
帝国随一の名門校で青春を過ごした人が、同じ幸せをエリーゼに味わわせたいと思って奮闘しているんだろうが、果たしてエリーゼ自身はどうしたいのかという、問題があるようなないような。
「エリーゼは、帝国学院の高等部でしたいことはあるのか。楽しみにしていることとか」
アスランは再びそれを尋ねた。
「楽しみ……というか、それよりも」
それよりも、と、エリーゼは言ってしまった。
アスランが本当に、なんとも言えない顔になる。
「おかあさまはとてもいい人なので、恥をかかせないように、優秀な成績を残したいです。おとうさまもおかあさまも、本当にいい人なので、せっかく、帝国学院に行くなら……」
「……」
それは養女としては正しい心がけなのだろう。
だが、とアスランは考えた。アスランじゃなくても、大人だったら考え物だと感じただろう。
15歳で両親を失った娘が、これでいいのか?
本当にこれでいいのか?
読書して、ピアノ弾いて、勉強して、瞑想して。規則正しい生活をして。本当に、エリーゼはそれだけの繰り返しを日々、行っているらしい。それだけで、悪いことは何も亡いはずだ。
だが。--それでもな?
「帝国学院もいいが、エリーゼ」
「はい」
「今度、皇女宮にいかないか?」
「へっ」
エリーゼはいきなりの話題転換についていけず、妙な声を出してしまった。
皇女宮といったら、皇女宮。帝城にある、皇族の未婚の女性だけの宮である。そこへの話題が何でいきなり出てくるのだ。
「読書家のイヴ姫が、今度、宮で茶話会を開くんだ。俺も、リュウも誘われているんだが、最近俺は、本を読む時間がなくてな。エリーゼは本をたくさん読むようだから、イヴ姫も楽しむと思う。どうだ、一緒に行かないか?」
イヴ姫。アティーファ・イヴラヒームは、20歳。エリーゼよりも5歳も年上だが、非常な読書家だという共通項がある。
同性で、同じ趣味を持っている女性に会わせた方がいい。
24歳のアスランはそう考えた。
15歳ぐらいの年頃の娘も知り合いにいないわけではないが、何しろ、どの娘も、救国の英雄に黄色い声をあげて、ファッションやメイクに懲りまくっている娘ばかりで、エリーゼとは真逆のタイプである。それはそれで刺激になるのだろうが、エリーゼが明朗活発ギャル軍団の中で浮きまくるところは見たくなかった。
ギャルにも色々あるだろうが、イケメンとっ捕まえたところで、ツカミに”神聖バハムート帝国の死生観”とか”真龍のレーゾンデートル”とか持ってくる事はないだろう。
いきなりそういう話が出てきても、世間離れした空気を持つイヴ姫ならば、ゆったりと、”面白そうな本ですね、私は最近、似たような本で……”と切り回す事が出来そうなのである。
同い年のイヴの従姉のヴィーも、ジャンルは違うが、相当、政治学の本など読んでいるだろうから、帝国の国体なんて言葉が出てきても、うろたえることはなさそうだ。
「え、えっと、私……」
無理です、と早速言おうとする前に、アスランは畳みかけた。
もうこんな、親の死んだ少女から放たれる、いたたまれない空気を味わいたくはなかった。
なんなんだ、15歳の少女よ。お前は葬式だの永遠の命だのの本読みまくって、どうしたいというのか。寺か。寺院か。修道院にでも駆け込んで、そこで処女のまま一生を終えたいのか???
アスランはそんなふうに、エリーゼに問い詰めたくて仕方なかったが、彼とて貴族、淑女に対してそんな無礼千万なことは出来ず、茶話会に連れて行く事に決めたのだった。
「イヴ姫の姉のヴィー姫も来られるんだ。彼女は本ならたくさん持っているぞ。本当に、ジャンル問わずに幅広く。エリーゼは帝国のレーゾンデートルや国学に興味があるようだが、ヴィー姫は政治の方面にも強いから、そういう哲学的な本も山ほど知っている」
「えっ」
確かに、エリーゼは反応した。
どうやら、どれだけ頭がよくても、15歳程度では、帝国の国体とか国学とか哲学とかは、すぐには理解出来なかったのだろう。自分で読んでいてわからないことでも、5歳年上の皇族の姫なら優しく説明してくれるかもしれないと思ったらしい。
そうじゃなくても、もっと簡単な書籍を知っているかも。
「イヴ姫の方は、政治や軍事向きではないんだが、若い女性が好みそうな、楽しい本やベストセラーを収集しているようだ」
「は、はい……」
「エリーゼは若い娘にしては珍しい本をたくさん知っていて、持っているようだから、姫達にそれを教えてあげてほしい。そうすれば、姫たちも、エリーゼにおすすめの本を色々教えてくれるだろう」
「で、でも……」
案の定、エリーゼは引っ込み思案を発揮して、うろたえているようだった。
だが、アスランはそれに気づかぬかのように言葉を続けた。
「俺は、最近、本を読んでいるどころじゃなくてな」
軽くため息などついてみる。
「あ、そうですよね。大変でしたよね。新年早々、あんな目にあって……」
すかさず話題を変換しようと、エリーゼは力をこめてうなずいた。
アスランの暗殺とか体調とかの話にして、健康面の心配があるので……と話を打ち切ろうと思ったらしい。
だが、そうはいかない。
「せっかくの姫のお誘いなのに、紹介出来る本が一冊もないんだ」
「……」
エリーゼは考え込むような顔になった。
ジグマリンゲン侯爵家にしてみれば、皇太子であるリマはもちろん、イヴ姫もヴィー姫も相当格上の存在だ。そこからの茶話会のお誘いを断るのは、健康上の理由を使っても、結構難儀な事なのかもしれない。と、幼い頭で考えた。
それで、読書が好きな二人の姫達の前に、最近は本を読んでないなんて話をするのも、貴族として恥ずかしい事ではあるだろう。
確かに暗殺騒動で、被害者だったんだから、本を読む暇がなかったと言えば、それで許されるだろうが、やはり、アスランが、「読書」という教養の問題で恥をかくところは想像することさえ嫌だった。
「エリーゼは珍しい本をたくさん読んでいるじゃないか」
アスランは闊達な笑みを浮かべながらそう言った。アスラン自身はそういうことは気にしていないようだ。
むしろ、姫達を楽しませる事を考えて、エリーゼを誘っているらしい。そこはなんとも彼らしいと、エリーゼは思った。
「あ、あの……その……」
エリーゼはうつむいて真っ赤になっているが、ぼそぼそと言った。
「わ、私で、皇女さまたちのお相手が務まるか……わかりませんが……本を紹介するだけで……いいんでしたら……はい……」
「来てくれるか?」
「は、はい……茶話会……頑張ります……です……」
妙な言葉使いになって縮こまりながら、エリーゼはやっとそう言った。
アスランの方をまっすぐ見る事が出来なかった。
頭の中はもうぐるぐるぐちゃぐちゃだ。
神聖バハムート帝国の皇女と言う身分にふさわしい、清楚な美貌と、それらしい教養やたしなみを持った20歳の姫達の茶話会に、自分が!
養女の身分に過ぎない自分が! きっと不釣り合いだろうし、アスランに恥をかかせたくないと言いつつ、自分が一番恥をかかせるかもしれない。そう思うと、もう、今から顔が火を噴きそうだった。
だが、言ってしまったのだ。
頑張る、と。
「そうか。エリーゼ。嬉しいぞ。茶話会の日には、迎えに来るから、準備をして待っていてくれ」
アスランは、本当に嬉しそうにうなずいた。
エリーゼは真っ赤になって下を向いたまま、もう何も言えなかった。決まったことになってしまった。
(うわああああああ私、何考えてるのよ! アスランと一緒に、お姫様達の前に出るだなんて!! しかも、茶話会? ティーパーティ!? 絶対に、何かやらかしちゃう、失敗しちゃうに決まってるのに! 何でこんな出しゃばったこと……)
だが、目の前でアスランが嬉しそうに、安心したように笑っているのだと思うと、今更断る事も出来ないのだった。
とりあえず、皇女宮周りの勉強を、「本でも読んで」準備しておこうと思うエリーゼだった。
皇女宮。
そこには現在、三人の皇族の未婚の姫が住んでいる。
一番の姉的な立場とされるのが、ヴィー。
イヴと同じ20歳だが、ヴィーは2月生まれである。イヴは9月生まれなので、ちょうど半年ほど、年上に当たる。
先帝アハメド1世が、地獣人のとある王家の姫アディラ姫との間にもうけた三人の子供の一人、アヤナ姫が、風精人の侯爵に嫁ぎ、生まれた娘だ。
そのため、地獣人とのクォーターで、獣の尻尾は持っている。風精人らしいエレガントとインテリジェンスを誇る姫で、それでいて性格は気さくであっけらかんとしていると評判である。
次女に当たるのが、今回、アスランを茶話会に招いたイヴ姫。
彼女は、アヤナ姫の妹ティシャ姫が、アハメド1世の従弟の兵部卿宮と結婚して、出来た娘だ。兵部卿宮は風精人であったので、イヴもヴィーと同じく、猫のような長い尻尾を持っている。
一番お姫様らしいお姫様、と言われることがある。容貌はヴィーに似ているが、おとなしく可憐で優しい。おまけに病弱という話で、何でも走る事が出来ないそうだ。そのかわりに非常に魔力が高く、皇太子のリマを妹と思って溺愛しているらしい。
三女が、現在17歳で、帝国学院に通学している、女性皇太子のリマ。
彼女は、現皇帝アハメド2世が、アディラ姫と同じ地獣人の王女、サフィヤ姫との間に生まれた一人娘である。
そのため、彼女は逆に風精人のクォーターで、黒い狼にも似た獣耳と尻尾を持っており、それが、自由のシンボルに酷似しているため、冒険者達に大人気なのだった。
実際に、国難であった魔大戦の時には、帝国を守るためにはなりふりかまわず、陣頭指揮を取る父の傍らから自らも出撃し、兵士とともに血と汗を流した、明朗活発を通り越して勇猛果敢で文武両道の姫である。
英雄であるアスランが、彼女たちと親しいのは大戦中の成り行きだったが、その中で、エリーゼに会わせてみようと思ったのがイヴだったのは、彼女が最もおっとりしていて、物静かで優しいからと言う理由。
アスランはアスランで、この時点で、エリーゼの事をとても気にしていたのだった。