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君と僕と夜の街と  作者: 山川俊則
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出会い

夜によく散歩をしていた。

街が昼に見せる顔より夜に見せる顔が美しくて毎日汗をかきながら歩き続けていた。

そんなある日、暗がりの中妙に赤いそれは妙な心地よさを呼び込んだ。夜の街はどこか心地よく。孤独だった。それが僕には何より心地よく、一人であることを喜んでいた。何かを考える機嫌を取る必要なんてないし、そこにはほかならぬ自分だけだった。

いつも通りの道を月を見ながら歩いていた。そんな時だった。ふと視線を感じた。大抵の場合猫が人っぽい影がいるだけだったが今日に限っては何もいなく何もなかった。しがらみのない一人の時を邪魔されたような気がして妙に腹が立った。

一人であるということに意味がある時間は意味を失った。しばらく歩いていると後ろから突如として声が聞こえた。勿体無い。まだ二分の一も残ってる。

驚き、後ろを振り返るとちょうど街灯の明かりに照らされた女が立っていた。僕は驚きながら意味にならない声を出した。 はぁて

そうすると彼女は笑いながら僕にこう言った。

勿体無いね君は それを拾い上げた彼女はおもむろにソレを吸い出した。彼女はセーラー服を着ていた。ソレには見合うはずもない格好だった。

だがその姿は妙に安心を感じるものだった。

チバユウスケが当たり前のようにする様に

カードコバーンが当たり前にする様に不思議な当たり前だった。僕は声をかけた。新しいのにする?

彼女は口に咥えたまま肩にかかるかかからないくらいの髪の毛を耳にかけ、僕にこう言った。

晴天の霹靂って知ってる?街は晴れ渡っているのに急に雷が降ること。

僕は少し困りながら知ってる。と答えた。

ならいらない話ね。と彼女は答える。

耳にかけたことで彼女の切長な目を見ることができた。綺麗な目をしていたが、この世の不条理を詰めたような不安げな曇りが目の奥にはあった。

彼女は綺麗な笑みで僕にもう一本いただけない?

といった。

僕は知らないはずの彼女に不思議な信頼感があることに驚きはしたが、新しいのに手を伸ばすためにバックに入った箱に手を出した。そこにはクシャクシャの銀紙が入っているだけだった。

僕は彼女に新しいのを買うから少しコンビニまで歩かない?と提案した。

すると彼女はいいよ、私も少しあなたと話したかったところ、といった。

また夜の街をふらふらと歩き出す。

コンビニまでの道のりはそう遠くないが不思議と遠くなって欲しいと思った。

名前は?彼女は聞いた。

やまかわとしのり

好きなものはなに?

音楽と映画かな?

へぇーじゃあこの世で3本だけ映画をもっていけるとしてとしのりが選ぶ3本は何?

僕は少し迷いながら

ファイトクラブ、タクシードライバー、ダークナイトと答えた。

すると彼女は

私は、レオン、インセプション、イングロリアスバスターズかな

不思議な感覚だった。全部僕が好きな映画だった。

僕はえ、全部好き

と答えた。

いいセンス!君はいい映画を見てるね。わたしもファイトクラブは大好き。主人公の退廃感とありきたりな感覚。どこか突飛な演出にブラッドピットの迫真の演技。急に信頼していた感覚を裏切られる恐怖感普段の日常をどこかで感じながらそこに狂気を感じる。そんなところが大好き。

僕もそう誰がなんと言おうが曲げない姿勢のタイラーはかっこいいよね。

カッコいいだなんてもんじゃないよ!すごいんだから。そうだ、ジャンゴはみた?タランティーノの最高コメディ映画!

見てない、Netflixの画面の画像だけ見た。

勿体無い!いまから見よ!全部家にあるから!

あ、死んだ父さんの遺品に新しいのもあると思うからおうちきてよ!ちょうど夜遅いし、

僕は彼女に連れられ彼女の家に向かった。

アパートだった。無機質に並んだドアを蛍光灯が照らしていた。どこか薄気味悪かった。

蛍光灯が点滅するたび羽虫がぶつかっていた。

ついた!中汚いけど大丈夫?

僕は大丈夫と答えた。

ガチャリと重いドアを開けると

リビングには映写機とボロボロになったソファが

どうどうとただずんでいた。

部屋にはソレの匂いが充満していた。彼女の父は相当なペースだったのだろう机の上には溢れかえったそれが並んでいた。未払いの手紙とゴミが転がっていたが、その匂いと汚さが僕には心地よかった。

ソファに二人で腰掛け映写機で映画を見始めた。

部屋に映画が映し出される。

僕らは黙ってただ映画を見ていた。

面白かった?

もちろん!最後のシーンはスカッと圧巻だったね

そこまでの過程が暗ければ暗いほど明るくなるってもんよね!

そうだね

そう会話をしながらふとカーテンに目を向けると空は白みがかっていた。

二人で映画を見た時間はただただ心地よかったし

何か古くからの友人のような安心感を感じさせた。

今日はありがとう、楽しかったよ。

彼女は私も知らない誰かが家に来て映画を見てるってなかなかないから楽しかったよ。と彼女は嬉しそうに答えた。

っていうか君の名前をまだ知らないんだけどなんて名前?

私はよる、よろしくね。また映画でもみよう

明日もこの時間にあの街灯に行って!

わかった。

僕は手を振る彼女に別れを告げガチャリと重い扉を開けた。夜だったまちはもう明るくなっていて。

普段は見ることのない朝の街を見せていた。

僕はふらふらと眠い目を擦りながら家に歩いた。


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