表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/25

4.元教え子との再会

 どこの国にも属していない辺境の山奥。

 人なんてめったに訪れない場所に、ポツンと一軒の家が建っている。

 家と呼ぶにはいささか小さすぎるだろうか。

 そこで私は暮らしていた。


「ふっ、うーん……もう朝ね」


 窓から差し込む日差しで目が覚める。

 朝が来ることにホッとしながら起き上がり、ゆるりと着替えをする。


 あれから十年が経過した。

 五百年以上生きる私にとっては短い期間だったけど、とにかく慌ただしい日々だった。

 私を帝国から追い出して三年でフレール殿下が王になり、即位と同時に様々な政策を発表した。

 そのうちの一つが、魔女狩り令の執行。

 魔女は危険な思想の持ち主だと主張し、世界から魔女を排除すると宣言したんだ。

 加えて世界各国とも協定を結び、大連合国のトップとなったことで、魔女を敵視する思想は世界中に広まってしまった。

 もはや人間の国の中に、私たち魔女の居場所はなくなった。


 着替えを済ませた私は、何気なく家の外へと出る。


「ホント……何もない」


 見渡す限りの自然、緑色が支配する。

 人が暮らした形跡なんてほとんど残っていないけど、昔は近くに村があったはずだ。

 ずっと昔にお世話になったから、その伝手を辿って来てみたけど、実際に到着したらこのありさま。

 村は滅び、ボロボロの木小屋が一軒だけ残っている。


「ここだけでも残っていただけマシね。一先ずここまでは追っ手も――」


 辺境の山奥。

 国と国の間に位置し、人が訪れることない。

 だから大丈夫だと思っていたけど、どうやら勘違いだったみたいだ。

 小屋の周りに展開しておいた探知魔法に反応があった。

 一人、二人……七人。

 数は少ないけど、確実に追手だろう。


「ここも駄目なんだ……仕方ないね。テレ――」


 転移魔法を発動させようとした直後、私の上空を結界が覆う。

 薄いピンク色の結界に、私の魔法は打ち消された。


「これは!?」

「――【魔法無効化結界(アンチマジックエリア)】だよ。反逆の魔女リザリー」


 森の奥から声が聞こえる。

 木々の間を抜けて現れたのは、武装した帝国の騎士たちだった。

 姿がハッキリ見える六人に、後ろに一人控えている。

 先頭の男が持っているピンク色の水晶……あれが結界を発生させている魔導具のようだ。

 しかも効果はかなり強力で、十年前の手錠は解除できたけど、この中じゃ私でも魔法が使えない。


「いつのまにこんな結界まで……」

「凄いだろう? これも三魔女様方のお力だ」

「魔女!? 魔女が協力しているの?」

「ああそうだ。お前と違って陛下に忠誠を誓った方々だ」


 そんな……私が知らない間に、他の魔女が協力している?

 魔女狩り令なんて出している国に。

 ありえない。

 一体どこの魔女がそんな真似を……


「さて、魔法が封じられれば魔女もただ女だ。今日こそ年貢の納め時だな?」

「くっ……」

「おっと、逃げようとしても無駄だ。この結界は物理的な壁にもなってる。逃げたところで行き止まりだ。お前はもう終わってるんだよ」

「……」


 どうする?

 このまま逃げてもあいつの言う通り逃げ切れない。

 かといって戦って勝てるわけもない。

 媚びへつらえば命だけは助けてくれるかも……なんてありえない。

 遊ばれるだけ遊ばれて、ちゃんと殺されるだけだ。

 どう足掻いても殺される未来しかない。


「……本当に終わり……なのね」

「そうだ」


 十年間の逃避行の終点。

 これで全部終わりか。

 

「なんだ諦めたか。じゃあさっそく――」

「悪いな、それは許さないよ」

「え?」

「なっ――」


 一瞬の出来事だった。

 目で追えない速度でひき抜かれた剣、その斬撃に次々と騎士たちが倒れていく。

 カチャリと剣が鞘で音を立てた時には、彼を含む六人全員が倒れていた。


「た、隊長?」

「安心しろ、柄で殴っただけだ」


 銀色の髪に青い瞳の騎士。

 一目見た時、直感的に思い浮かんだ人がいる。


「アレク?」

「はい。お久しぶりですね、リザリー先生」


 アレクシス、私の最後の教え子。

 二十歳になった彼が今、目の前に立っていた。

 

「どうして? なんで君が? それにその恰好は」

「はい。御覧の通り帝国の魔法騎士に、一応これでも部隊長になりました。まぁもっとも、それも今日限りですが」


 彼は優しく微笑む。

 助けられた私は、未だに状況がつかめず混乱していた。

 いろいろと疑問は多い。

 ただ一番気になっているのは……


「どうして私を助けてくれたの? 君は帝国の騎士になったんでしょう?」

「はい。ですがそれは元々、先生を探し出すのに都合が良かったからです。僕が今日まで研鑽を積んできたのも、先生を守りたいからですよ」

「守る……」

「覚えていませんか? 十年前も同じことを言ったと思います」


 もちろん覚えている。

 子供の無邪気な言葉だったけど、私にはとても嬉しかった。

 心に響いた宝物の一つだった。

 まさかと思うよ。

 そんな言葉が、思いが今でも続いているなんて。


「隊長……裏切るつもりか?」

「裏切るも何も、僕は最初から国に従っていたわけじゃない」

「魔女に裏切られたと! 許せないと言っていたはずだ! だから魔女狩りの部隊長になったと!」

「そう言えば選ばれるとわかっていたからだよ。そもそも最初に裏切ったのは今の帝王だ。真実を隠し、魔女を敵とみなすやり方のどこに正義がある? 僕は僕の正義を信じる。お前たちも一度、自らの正義を考え直すと良い」


 動けない彼らに言い放つアレク。

 話し方や態度、もちろん背丈も大きくなって、大人になったんだと実感する。

 子供の頃から整った顔立ちをしていたからか、容姿も優れていて……


「先生、遅くなってしまって申し訳ありません」

「え……」

「本当はすぐに助けたかった。でも幼い僕には力がなくて叶わなかった。でも今なら、強くなった今なら言えることがあります」

「アレク?」


 彼は私の手を優しく、しかし力強くギュッと握る。

 そして――


「先生、僕を貴女だけの騎士にしてください。この先ずっと、貴女の傍にいさせてください」

「――それは、でも君まで罪人になるわ」

「覚悟なら十年前から出来ています。僕は先生を守りたくて強くなったんです。それだけが僕の望みです。だからどうか、先生……僕に先生を守らせてください」


 強く願い、強く思う。

 彼の手から、声から、瞳から伝わってくる。

 十年間は人間にとって、とても長い時間だっただろう。

 それほどの時間が経っても尚、彼の思いは色あせることなく、どころか強くなっていた。

 なら私も、それに応えるべきだろうか。


 いや、そんな理屈みたいな理由じゃない。

 嬉しかった。

 誰も味方がいなくなったと思っていたから。

 ここにいるんだと、一人じゃないと教えられた気がして。


 だから――


「私は彼の手を取った」


 この先の未来を信じて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿してます!
婚約破棄に追放までセットでしてくれるんですか? ~職場でパワハラ、婚約者には浮気され困っていたので助かりました。新天地で一から幸せを手に入れようと思います~

最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ