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15.第一の試練『腕試し』

 少女の声は高らかに、私たちに語り掛けてくる。


「まずは自己紹介をしようかのう。ワシの名はフィアンマ! 赤を背負いし誇り高きドラゴンじゃ!」

「先生」

「やっぱりドラゴンの声なんだ」


 驚きを隠せない。

 私の持っているドラゴンについての情報は極めて少ない。

 なにせ私が生まれる前に、ドラゴンはこの世から姿を消してしまっていたから。

 人の言葉を発するということも、この瞬間まで知らなかった。

 だからこそ未だに半信半疑だ。


「赤きドラゴンフィアンマ! 私はリザリ―! 無礼を承知で尋ねますが、貴女は本当にドラゴンなのですか?」


 私は尋ねてみることにした。

 大声で、天井に向って質問を投げかけた。

 すると、次の音声が返ってくる。


「――先に伝えておくが、今流れているのは自動音声じゃ。あらかじめ録音した声を流しているだけだから、質問の受け答えとかはできぬぞ」

「……らしいですね、先生」

「みたいね。残念だけど仕方がないわ」


 ドラゴンと語り合ってみたかった気持ちがある。

 とは言えそれは、迷宮を攻略して実際に対面してから叶えれば良いことだ。

 一先ず今は、彼女の声を注意深く聞くとしよう。

 私たちは次の言葉を待つ。


「さて挑戦者よ。ここはワシが造りしダンジョンじゃ。どうじゃ凄いじゃろ? ワシ一人ででっかいダンジョンを造ったんじゃよ?」

「な、なんだか子供っぽいことを言ってますね」

「そうだね。でもわかるよ。凄いものを造ったら自慢したくなる気持ちはすっごくわかる」

「……先生と気が合いそうですね」


 ちょっぴり呆れ顔のアレク。

 迷宮の中だというのに、さすがに緊張感に欠けていたかな?


「ワシが造りし凄いダンジョンに挑む者たちよ。覚悟はすでに決まっておるのか? この音声が流れ終わるまでに来た道を戻れば、試練を受ける必要はなくなるぞ。引き返すなら今の内じゃ」


 おそらく最終勧告だろう。

 親切にもドラゴンの声は、覚悟を問い質す。

 しかし私たちは一歩も下がらない。

 当然のごとく最初から、覚悟は決まっているのだから。


「それでも残ったのであれば、ワシが提示する五つの試練を受けるが良い。試練を全て乗り越え、見事にワシの元までたどり着くと良いぞ」

「先生、今の話が本当なら」

「そうね。この先にドラゴンが眠っている……」


 その情報が遂に確定的になった瞬間だ。

 少女の声は続ける。


「この地に何を求めて来たのかは問うまい。願いは最後の部屋にたどり着いたのち、ワシ自らじっくり聞いてやるのじゃ!」

「願いですか。ドラゴンが僕たちの願いを叶えてくれる、とかでしょうか?」

「かもしれないわね。どっちみち、ドラゴンには概念魔法のことを聞かないといけないわ」

「ですね。ならまずは、試練とやらを乗り越えないと」


 アレクの言う通り、まず考えるべきは試練のこと。

 先に進むためには五つの試練をクリアしないといけないらしい。

 ドラゴンが提示する試練だ。

 きっと生半可な力じゃ乗り越えられないだろう。

 気合を入れなきゃ。


「さて、さっそく最初の試練を言い渡そう」


 ごくり、と私は息を飲む。

 一体どんな試練が課せられるのか。

 緊張と期待が入り混じり、言葉を待つ。


「第一の試練は『腕試し』じゃ!」


 腕試し?


「ここに残った時点で主らの覚悟はわかった。じゃが覚悟だけでは、ワシの元へたどり着くことなど不可能じゃ。そこで今度は、主らの力を試させてもらうぞ?」

「力試しってことかな?」

「先生!」

「わかってるわ」


 アレクが警戒態勢に入っている。

 私も気づいていたけど、周囲に新しい魔力反応が増えていた。

 それも一つや二つじゃない。

 もっと多く、数えきれないほどに。


「主らの相手を紹介しよう」


 少女の声が聞こえると、一瞬で私たちの周りには魔物の群れが現れていた。

 影のように黒い毛並みで、姿は狼。

 大きさは人間の大人の二倍。

 

「シャドウウルフじゃ! 正確にはワシが創造した疑似シャドウウルフじゃな! ワシが造った分、本来のそれより素早く強いぞ? 一匹でも残っていれば数もどんどん増え続ける。先へ進みたくば、そやつらを殲滅するのじゃ」

「なるほど。思ったよりもシンプルですね」

「ええ。腕試し、力試しだからかな?」


 想像していたよりも簡単な内容だった。

 私もアレクも、最高潮に上がっていた緊張が和らぐ。

 すでに百を超えるシャドウウルフに囲まれていて、こうしている間にも数は増え続けていた。

 そんな状況で緊張が和らぐ、なんておかしな話だ。

 でも仕方がない。

 だってこの程度、私たちには障害にすらならない。


「一匹でも残せば増えるなら?」

「一瞬で全てを消滅させてしまえば良い」

「正解。じゃあさっそく――」

「はい」


 シャドウウルフの群れが四方から、一斉に襲い掛かってくる。

 私たちは落ち着いたまま、互いに背中を合わせ、祈るように手を合わせる。


「「――『拒絶結界(エクスキュード)』」」


 光を放つ半透明な結界を、私たちを中心に展開させる。

 結界の表面には、攻撃や物質を弾く力が付与されていて、襲い掛かってきたウルフたちは弾かれる。

 その結界を、全方位に向けて拡大していく。

 物を端に避けるように押し出し、壁や天井に押し当てて潰す。

 殲滅と空間の制圧。

 守るための結界の応用。

 結界が壁に衝突する頃には、部屋は綺麗に掃除されていた。


「うん! 準備運動にはなったかな?」

「はい」


 第一の試練を難なく突破した。

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新作投稿してます!
婚約破棄に追放までセットでしてくれるんですか? ~職場でパワハラ、婚約者には浮気され困っていたので助かりました。新天地で一から幸せを手に入れようと思います~

最後まで読んでいただきありがとうございます!
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