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10.親バカ国王

 宮廷魔法使いの仕事は多岐にわたる。

 国の軍事面を担うことに始まり、新たな魔道具や魔法の開発など。

 それら全て、国の発展に繋がる貢献をすることが第一とされる。

 帝国で働くようになったのは三百年ほど前。

 当時の私は、新しい魔導具の開発に専念していた。

 今ほど国が大きくはなく、脅威となる存在も多かった時代だからこそ、か弱い人々を守るための仕組みが必要だったんだ。

 だから、私が最初に作った物は、帝都を守る結界だった。


「この国の結界も、建国したご先祖様が作ったそうよ。詳しくは知らないけど、危ないことばっかりな時代だったから、守るための結界を一番最初に作ったみたいね」

「そうだったんですね」


 この国を作った魔女も、当時の私と同じことを考えたようだ。

 尤も三百年前と二千年前では、危険の質も量もまったく別物だったはずだ。

 その証拠に、この国の結界の強度は、私が帝都に施したものよりもはるかに高い。

 憶測にすぎないけど、私が全力で魔法を行使して、ようやくヒビが入るほどの硬さを持っている。

 顔も名前も知らないその魔女は、きっと私よりも優れた魔法使いだったのだろう。

 そう思うと、対抗意識が芽生えてくるのが私だったりする。


「負けられないな」


 と、二人には聞こえない小さな声で呟いた。

 こつんこつんと響く足音のほうが大きいから、もう少し声を出しても聞こえなかったかもしれない。

 私たち三人は今、王城の廊下を歩いている。

 向かっているのは、国王陛下が待つ部屋。

 帝国のような王座の間を想像する私は、多少の気乗りしない。

 国は違えど同じ城。

 私にとってそこは、ある種の因縁めいた場所だ。


「ここよ」


 到着した部屋の扉は、想像よりも小さく地味だった。

 茶色い木の扉で、装飾もとくにない。

 帝都の王座の間へ入る扉は、巨人でも通るのかと思うくらい大きかったけど。

 とても国のトップが待つ部屋の入り口とは思えない。


 姫様が三回ノックする。


「お父様、フレンダです」

「――入りなさい」


 中から聞こえてきた男性の声は、野太く低い。

 年を経た男性だと聞くだけでわかってしまう声に、帝国の王が顔が重なる。

 緊張してしまうのは仕方がないと自分を擁護して、扉を開ける彼女の後に続く。


 すると……


「フレンダちゃーん!」

「ちょっ、パパ!?」

「会いたかったよ~ 書類仕事ばかりで疲れていたんだ。さぁパパに娘成分を注入させておくれ! フレンダちゃんとの語らいがパパの活力になるんだよ!」

「……え?」


 予想外の光景が、文字通り飛び込んできた。

 見た目からして四十過ぎのおじさんが、姫様を見るなり抱き着いて、頬をすりすりしている。

 セリフは完全に変た……じゃなくて親バカのそれだ。

 これが国王様?

 と、素直に疑問を口に出したい気分になる。

 チラッと隣にいるアレクの様子を確認したけど、彼は平然と凛々しく立っていた。

 まるでその光景が当たり前のように。

 戸惑っているのは私だけ……では、どうやらないらしい。


「あーフレンダちゃんは今日も素敵だねぇ」

「パパ落ち着いて! よく周りを見て!」

「周りなんて見ていられないよ。目の前にこんなにも可愛い娘がいるんだから」

「そういうのはお客さんがいない時にして!」

「……ん? お客……さ……ん……」


 目と目が合う。

 瞬間、国王様は状況に気付いた様子。

 幸せ一色だった顔色が、一瞬にして青ざめていた。


「おほんっ! えぇーよく来てくれたね。私がこの国の王、アンドリュー・ドラゴニカである」


 誤魔化した。

 まったく誤魔化せてないけど、さっきまでのことをなかったみたいに挨拶し出したよ。

 ピシッと凛々しく立ち直して。

 えっと、ツッコンじゃいけない雰囲気で合ってるかな?

 たぶん合ってるよね。


「フレンダ、紹介してもらえるかな?」

「はぁ……今さら取り繕っても遅いわよ、パパ」

「な、なんのことだ? 私は常に国王らしく振舞っているぞ」

「誤魔化せてないから。見てよ! 二人とも呆れちゃってるじゃない」


 姫様はちょっと怒りながら私たちを指す。

 呆れているわけじゃないけど、心の中でごめんなさいと口にした。

 少なくとも国王らしい威厳とかは、今さら感じられないです。


「今さら偉そうにしても威厳とか感じないって顔してるでしょ!」

「うっ……た、確かに」


 心を読まれた!?


「先生は相変わらず顔に出やすいですね」

「え、そ、そうだったの?」


 初めて言われた。

 五百年生きていて、そんなこと初めて教えられたよ。

 もしかして私、知らない所で笑われてた?


「わかったでしょパパ? だから普段通りにして」

「フレンダちゃーん!」

「それは後で!」

「普段通りって言ったじゃないか!」


 まるでコントみたいなやり取りを繰り広げる二人。

 王様と姫様、二人とも王族とは思えない。

 親子らしく言い合う様子を見ながら、アレクが私に囁く。

 

「面白い方々でしょう?」

「そうね」


 見ていて飽きない二人だと思う。

 それに、こんな彼らが治める国なら、笑顔が絶えないだろうとも思った。

 もちろん良い意味で。

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新作投稿してます!
婚約破棄に追放までセットでしてくれるんですか? ~職場でパワハラ、婚約者には浮気され困っていたので助かりました。新天地で一から幸せを手に入れようと思います~

最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

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★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

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