センジョウの聖女 〜戦いの場にひとり取り残された乙女は聖女の羽衣に救われる〜
ここに身を潜めて20分は経っただろうか。石造りの古い建物。周囲には人の気配はない。
(いっそ外へ打って出るか)
そう何度思ったことだろう。しかし、そのたびに私は思いとどまった。やはり丸腰で外へ出るのは危険すぎる。ここは味方の助けを待つしかない。
とりあえずここは安全だ。しかし、物資が足りない。足りないどころか皆無だ。私の焦りはつのった。
5分ほど時が流れた。徐々に辺りが暗くなってくる。この暗さは私にとって有利か、それとも不利か、判断しかねた。迷っている私の耳に人の足音が聞こえてきた。
何か会話をかわしている。2人の男の声だ。それならば味方ではない。私は女性部隊の一員だ。味方に男性はいない。
ひたすら息を殺す。幸い私は気配を消す技能には長けている。難なくやりすごせるはずだ。
(ピチャン)どこからか水音が鳴り響いた。
「誰かいるのか?」
「やめてくれよ。ただでさえ古い建物なんだから。幽霊とか言うなよな」
「……気のせいか」
「勘弁してくれよ」
徐々に男たちの足音は遠のいていった。私はほっと胸をなでおろした。
そもそもこんな状況に陥ってしまったのは、私がうかつに単独行動をしてしまったのが原因だ。せめて仲間と2人で行動していれば、こんな危機的な状況にはならなかった。通信機を忘れたのも痛い。外部との連絡手段が完全に絶たれているのだ。しかし、いまさら悔やんでも仕方がない。あのとき私は焦っていた。周囲を省みる余裕がなかったのだ。
さらに5分が経過した。誰かが走ってくる足音が響いてきた。1人だ。しかし明らかにここを目指している。まずい。ここに私が潜んでいることがバレたら一体どんな目に遭うことか。
足音は私がいる目と鼻の先で止まった。中の様子をうかがっている。心臓が早鐘のように高鳴るのを抑えることができない。
(もうおしまいだ)
そう思った瞬間、聞き覚えのある声が響いてきた。
「あずみ、いる?」
助かった。この声は味方だ。私は壁を叩いて自分の居場所を知らせた。
「美奈子? 助かった。お願い。トイレットペーパーちょうだい」
「はいよ」
上から大量のトイレットペーパーが降り注ぎ、ほどけた紙が羽衣のように舞った。
男子にこんなところを知られなくてよかった。この時ばかりは心の底から思った。彼女こそまさに『お手洗いの聖女』