表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗い国に囚われて  作者: 遊月奈喩多
3/4

沈む魚と、落ちる雁と

こんにちは、遊月です!

拓也から告白された愛莉。泉先輩に相談した次の日、学校が休みなのに拓也から電話が来て……?


本編スタートです!

 次の日、拓也(たくや)から昨日のことを忘れてほしい、と言われた。絞り出すような、今にも泣き出してしまうんじゃないかというくらいに掠れた声で。そんなに……、と思うと、急に拓也のことが可哀想になってきて。


「別にいいよ、わたしだってちょっとびっくりしただけだもん」

 勝手だな、と自分でも思ってしまう。


 逃げておいて、何が別にいいんだろう?

 けど、あのまま女の子(、、、)として見られるよりは全然よかった。だから、こっちこそごめんね、とだけ言うことにした。


『いや……、ぁ、愛莉(あいり)が、謝ることじゃな……い、からさ……っ、あ、』

「? 拓也、なんか変?」

『な、なに言って……くっ、何もないって! 心配、すんな、んぐ、じゃ、じゃあ!』

 やけに急いで切られた電話を見て、わたしはただ唖然としていることしかできなくて。なんだったんだろう。様子がおかしい気がしたけど、なんとなく、かけ直すのが躊躇(ためら)われた。


 それよりも、今日は(いずみ)先輩と出かける日だ。昨日、体調不良で早退するってLEIN(ライン)が来て、その代わりに今日一緒に出掛けようって誘われた。それだけなら普通に休日、学校の子と出掛けるのと変わらない。だけど、あんなキスをした後だと、どうしても期待せずにはいられなかった。

 着替えして、持ち物持って……え、何かそういう、指につけるやつも用意した方がいいのかな? ドラッグストアとか寄ってく……いやいや、なに考えてんのわたし!?

 熱くなった顔をどうにか鎮めてから、待ち合わせ場所にしていたカフェに向かうことにした。それを聞いたとき、わたしと先輩の家がわりと近かったことがわかった……本当に、知らないことだらけだったんだな、と改めて思った。


  * * * * * * *


 最近近所にできたばかりのカフェはどこか落ち着いた佇まいをしていて、高校生だけで入るのかと思うとなんだか緊張してしまう。けど、泉先輩となら平気かな、先輩大人っぽいし……。

 泉先輩を待ってる間、街中を通り過ぎていく人たちを見つめていた。幸せそうに寄り添い歩く人たちがいれば、ひとりでも楽しそうに歩いている人もいて、ちょっと離れた距離の人たちもいれば見ていて顔が熱くなってしまいそうなくらい仲良さそうに歩いている人もいて。

 先輩とも、こんな風にふたりで歩けるのかな……高鳴る胸はずっと苦しいまま。早く来てくれないと、心臓が破裂してしまいそうで。


「ごめん、お待たせ!」

 だからその声がきこえたとき、心の底から嬉しくて。

 今にも天に昇りそうな気持ちって本当にあるんだと思って。

「だいぶ待たせちゃったよね、ごめん。じゃ、入ろっか!」

 走ってきてくれた泉先輩の胸元に、赤い痕が見えたとき、一気に現実を突きつけられたような気になった。先輩もわたしと視線に気付いて咄嗟(とっさ)に隠して、「ふふふ、最近虫多いよね」と言っていたけど、違うよね。

 わたしにだってわかる、それは虫刺されなんかじゃない。

 そっか、そうだよね。恋人いるんだもんね……、なに期待してたんだろ、わたし?

 先輩に手を引かれるまま入ったカフェは、たぶんこんな気分のままのわたしが入っちゃいけないんじゃないかと思うほど、しっとりと落ち着いた、それでいて甘い雰囲気の漂う場所だった。


「何頼む?」

「え、っと、じゃあこのケーキで……」

「そうなんだ! じゃあ、わたしはこっちにしよ。来たらさ、ひと口交換しよ?」

「は、はい……」

 なんとなくだけど、休みの日に見る先輩は、学校で見る先輩と少し違って見えた。服装こそ普段の雰囲気そのままに大人っぽいコーディネートだったけど、話してる声とか、表情とかはわたしとひとつしか変わらない女の子なんだな、って思えるもので。

 そんな面を見せてくれる泉先輩がやっぱり改めて好きだと思ったし、そういう、学校では他の人に見せない一面をたくさん知ってるだろう生徒会長に、嫉妬せずにいられなかった。

 せっかく泉先輩おすすめの紅茶と一緒にケーキを食べていても、甘いことしかわからない。オレンジの風味とかメニューにあったはずなのに、それもあまり感じられないくらい、全部空っぽに思えてしまう。


「…………、でね、ん、愛莉ちゃん?」

「え、あ、なんでしたっけ?」

「やっぱりボーッとしてる。どうかしたの? 何か……あ、」

 先輩が、少しだけ頬を(ゆる)めながら、耳を寄せてきた。

「何か、ここじゃ言いにくいこと?」

 その声は、さっきまでの女の子(、、、)の声ではなくて、キスをしてくれたあの日と同じ囁き声だった。


 苦しかったのは、きっと心臓が騒いだせいだけじゃない。

 わからなかった。

 どうしてこの人は、こんなにもわたしの心を乱すことばかりするんだろう? 恋人がいるなら、こんな、わたしに気を持たせることなんてしないでくれた方が、よっぽどよかったのに……。


 そう思っても、「場所変えよっか」という泉先輩の誘いを断ることすらできないわたし自身も、少しだけ嫌になった。

前書きに引き続き、遊月です!

もしかしたら何事かを察してしまった方も多いのではないでしょうか? いよいよ次回で完結となります。いったいどのような結末へ辿り着くのか、是非見届けていただけましたら幸いです♪


また次回お会いしましょう!

ではではっ!!


※ 余談ですが、フィンドムについて明言するべきか否かかなり迷いました(ラテックス製というのを社名だと勘違いしたため、結局ぼかした表現になりました)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ