サンドイッチ
今回短くてすみません。
体育座りでうとうとしていた少女は、物音で目を開ける。
ぼんやりとした灯りに舞い上がった埃がキラキラと光っていた。セオは既に起きていて肩掛けカバンの中に手を突っ込んで何かを探していた。
「おはよう」
「おはようございます。まあ…まだ夜ですけどね」
「そうだよね、暗いもんね。今何時だろって、ああ、分からないんだった…」
「え?夜中の十二時ですよ?」
少女の呟きを聞いたセオが魔法時計を取り出し確認してから言うと、少女は真ん丸に目を開いた。
「え、なんで時計持ってるの?」
「…家にあったので使っています」
「えー?普通の家に時計ないって言ってたよ?」
「…どなたがですか?」
微笑んで言われた言葉に、少女が口を閉じた。
下を向いてしまった相手に構わず、セオが話しかける。
「良かったらご飯食べませんか?持っているので」
目が光った気がするが気のせいだ。
セオはざざざっと四足で這い寄って来た彼女の顔を見ながら現実逃避を試みる。
「これ。家から持ってきたので、良かったらどうぞ」
少女に手渡されたのは大きな、紙にくるまれたサンドイッチだった。
「大きいねえ?」
「うちのご飯は何でも大きいです。…二人とも大食いだったので」
「そうなんだ。いただきまーす!」
少女がパクパクと頬張るのを見て、セオは微笑む。
それから自分が持っているサンドイッチを見降ろす。じっと目に焼き付けてからパクリと食べた。何時もの味。変わらずに美味しい。
「美味しかった!」
にっこりと笑った少女の手元にはもちろん紙しかなく、セオが渡したジュースを凄い勢いで吸いこんでいた。飲んではいない。
「ああ、ひっさしぶりのご飯。ありがとう、ええと」
「セオです」
「あ、そうだった。さっき言ってたよね…確か」
「お姉さんの名前は?」
少女の肩がびくりと跳ね上がる。
何事か逡巡するように指先を動かしていたが、顔を上げてセオに笑った。
「私は、絢音」
「あやね、さん。ここら辺の方ではないですよね?」
「え、うん。…そう。ここら辺、ではないなあ」
少女、絢音が困ったように笑う。
「何でここら辺じゃないって聞いたの?」
「ああ。絢音さんみたいな感じの名前を使う国の事を聞いていたので、そちらの方なのかなって思ったんです。髪の色も黒いし」
「え?そんな国があるの?」
「はい。極東の島の国で更紗国と言うそうです」
「へええ」
絢音が不思議そうな声を出す。
セオは紙をまとめてカバンに入れると、リュックの方から丸い缶を出した。そこに辺りの木くずを入れて火をつける。小さなたき火に絢音はぼんやりと見取れた。
「寒くなりますから、これの傍に来て下さい」
「うん。ありがとう」
絢音が傍に来て二人で暖を取る。
この場所は高いせいか、確かに肌寒い。
「…僕は明日にはここから離れますが、絢音さんはどうしますか?」
「うん。どうしようかなあ」
ぼんやりしている絢音に急かすわけでもなくセオが話しかける。居心地は悪くない。絢音は今の状態にそんな感想を持っていた。
「あのね。わたしね」
「はい」
「行く所が無いの」
「はい」
「うん。分かってるよねセオ君。私を拾ったんだもんね」
その言葉にセオは苦笑する。助けたとは思っているが拾ったとは思っていなかったからだ。
「あのね」
「はい」
「私の話、聞いて貰ってもいいかな?」
「…はい」
セオが答えると、絢音は膝を抱えて少し俯いた。
小さなたき火の光はゆらゆらと揺れて、絢音の表情を見えにくくする。
「私ねえ、違う世界から来たの」
お読みいただき有難うございます。