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進化した剣士の放浪記  作者: 片魔ラン
第零章 亡命と覚醒
9/21

スキルとは

 タイシと玲二が修行とオタク談義を始めてから数時間、二人は床の上に大の字で転がっていた。既に前回の魔力循環から二十分以上が経過しており、本来ならば魔力循環を行っていなければならない時間帯であった。が、魔力を感じとる以上の動作が出来ない。先に倒れたのはタイシだ。彼は十五回程施行した時点で、意識を失った。玲二も卓球で培った根性で堪えていたものの、十八回で気絶した。


「ほら。起きろ!」


 そんな二人をゲシゲシ、と踏みつけている人物がいた。


「う、動けません…」


 腹を襲う鈍痛で意識を一瞬取り戻したタイシは、そう呻くとまたすぐに意識を失った。


「全く情けねえなあ…」


 リリヤは頭を横に振り、馬車を出て行った。


 それから数分、リリヤは妖艶な色気を振りまくイブニングドレス姿の女性と共に戻ってきた。彼女の名はメリダ・エンドルス。リリヤの元パーティーの元二番隊体調で、魔女族の女性である。


「じゃ、頼んだぜ。魔力回路の炎症を抑えてやってくれ。」

「ランスのアホは…辛くなったらやめろ、って言わなかったのかよ…」


 メリダは小さく溜息を吐くと、倒れているタイシと玲二の胸に手を翳すと、何やら呪文を唱え始めた。十秒程経過すると、二人の体が痙攣を始めた。


「はい終わり。後は踏みつけでもすれば目覚ますわよ。私は新しい子猫ちゃん魅了するのに忙しいの。次からは料金取るわよ。」


 メリダは腰を浮かすと、そのまま出て行ってしまった。あ俺を横目に見ながら、リリヤは再度、二人を蹴る。


「「ゴホッ!フゥーフー…」」

「起きろ!昼飯だ!」


 タイシと玲二は育ち盛りの十五歳である。疲れ切った後に、飯、と言われれば死んででも起き上がる根性ぐらいはある。


「それを!先に言ってください!」


 タイシは神速で体を起こすと、キッチンのある方向に向かう。


「お昼はなんですか!?」


 タイシは鬼気迫る様子でキッチンのオリバーに迫る。


「ファイヤーボアの生スライス、トレントマッシュルームの炒め物、潜りコケコの卵で作ったオムレツ、それと固パンだよ!もう出来るからリビングのソファーかそこのテーブルに座ってね!」


 オリバーはアイランドキッチンのテーブル側を指差し、またコンロに向かった。



 オリバーの意外に高いクオリティの料理に舌鼓を打ったタイシは、修行という名の拷問を再会した、訳ではなく、何故か女子専用馬車に引き込まれていた。


「いやあ!そこの二人が君の話になるとすっごい饒舌になるもんでねぇ!呼ばせてもらったんだよ!」


 タイシの肩をバシバシ、と叩いてるのは短い赤髪が似合っているスレンダーな女性だ。彼女名前はリズ、朝、魔法剣士少女、というよくわからない自己紹介をしていた女性だ。


「お前、辞めんか。」


そんなリズを嗜めているのは、玲二を連れてきた女騎士だ。名前はエリー、現在は甲冑を脱ぎ、その恵まれた肢体を惜しみなく晒している。


「だって!蘭も美桜も彼の話になると言葉が止まらないんだよ!」


 リズがだってだって、と言っている後ろで蘭は顔を真っ赤にし、美桜は何故か胸を張っている。が、タイシはこんな状況よりも、リズが気になっていた。


「すいません、リズさん、ですよね?」

「そだよー!」

「ちょっと気になったんですが、名前の発音上手じゃないですか?」


 そう、リズは片言ではなく、しっかりと蘭、美桜と発音していたのだ。


「あ!気付いた!実はね!君達の名前の発音って私が昔留学した中魔国の人たちと同じなんだよね!」

「中魔国、ですか…?」

「そう!あっ、魔国は魔族の国ね!中魔国はいくつかある内の最大国家なんだけどね、そこと同じなんだよね!」


 この話にタイシは思考を始める。


(言語理解でも訳されないからこの世界には日本語の発音自体が存在しないのかとおもったけど…そうか、あるのか…いつか行ってみるか。)


「で!タイシはどうなの!二人のことどう思ってるの!ほれ、吐きなはれ〜」


 リズはタイシの頬を両手で挟んで揉みしだく。タイシはそれを振り払い、若干不機嫌そうに答える。


「蘭には応えたいです。って言うか初恋ですし。美桜はまだわかりません。名前を呼び捨てにするのすらできなかった関係なんで。でも、クズにしか聞こえませんが好意を向けてくれているのは嬉しいです。人生のほとんどを一緒に過ごしている相手なんで、酷いことはできませんしする気もありませんからお姉さんは安心してください。」


 タイシは本心を曝け出す。まだ、二人に告白されてから一日しか経っていないのだ。それまで三年間友人の彼女、と言うことで一歩引いて接していた彼の気持ちに整理がついていなくても仕方がない。この答えを聞き、蘭は顔を真っ赤にして俯き、美桜は何故か満面の笑みを浮かべている。


「美桜、なんでそんなに笑顔なんだ…?俺は散々待たせた挙句降るかもしれないんだぞ?」

「それはないって信じてるから。大丈夫。何年かけてでも、先に蘭と結婚してても籠絡してみせるわ。蘭にも許可はもらってるし。」

「全然大丈夫じゃねえわ!」


 お淑やかで凛とした雰囲気を放っていたお嬢様の面影がほとんど残っていない幼馴染を見て、タイシはため息を漏らす。昔一度この状態になった美桜を彼は見たことがあったのだ。その時の経験からすると、自分は美桜に落とされるんだろうな、と思い、タイシは話を逸らすことにした。


「この馬車の他の方々はどこにいるんですか…?」

「メリダとルーは御者だよ!ユティはお部屋!多分今頃一人でお楽しみなんじゃっブヘッ!」


 ニシシ、と言った様子で話していたリズは、言葉の途中で吹っ飛んだ。


「リズ!そう言うこと言わないで!私はまだ処女よ!?ふしだらなことをしてるはずがないでしょう!」


 怒声と共に銀髪の小柄な女性が入室してきた。タイシは怒髪天、と言った様子の女性を見て、処女と自慰行為は関係ないだろ、と内心突っ込む。


「むっ!君!今よからぬことを考えたね!これだから男は好かん!助平ば…かり……」


 彼女はそこでフリーズしてしまった。そんな彼女の方をエリーが揺する。すると、唐突に銀髪の女性、ユティ、がカナギリ声を上げた。


「な、な、な、なんで男がいるのよ!!!ここは女性専用よ!?今すぐ出て行きなさい!ほら!今すぐ!」

「グハッ!」


 湯ティは叫びながら何度も手を振るっている。その動作と連動し、タイシの体が宙を舞う。急に頭が吹っ飛ばされ、空中に浮いたた、かと思いきや、次の瞬間には腰があり得ないほど折れ曲がり、更に宙高く舞い上がる。


「ユティ!やめんか!あの小僧が死んでしまうぞ!ユティ!護衛対象だ!死亡は依頼失敗だ!」

「あっ」


 ユティは依頼失敗、と言う単語に耳をピクリとさせ、急に収まった。そして、周囲を一度見渡すと、罰が悪そうな顔をする。


「治せばいいんでしょ…」


 彼女はかなり不機嫌そうに、タイシに近寄ると、その手に青い液体が入った瓶を召喚した。そして、それを思いっきり振りかぶると、タイシに向けて投げつけた。ビクン、と痙攣するタイシ。蘭と美桜はそんなタイシに慌てて駆け寄る。



「ひ、酷い目にあった…」

「謝ったでしょ?女々しい男ね。」


 頭と腰を摩っているタイシにユティが太々しく言う。蘭と美桜はそんなユティをキツく睨みつけている。そんな二人を諫めるのはエリーだ。


「ま、まあ二人ともそこまで睨みつけないでやってくれ…ユティはプライベートスペースに男が入るのがトラウマなんだ。この件に関してはリズが全面的に悪い。」


 責められ、ビクリ、と反応するリズ。


「そ、それは酷いんじゃないかな〜?エリーだってタイシに会いたいって言ってたじゃん!」

「私はユティが御者の時に呼べと言っただろう!態々部屋に押し込めておいたのに名前を呼ぶアホがいるか!」


 名前と余計なことは言ったが呼び出してはいなかったんじゃ、と思うものの、何も言わない一同。余計な事を言えばエリーに火がつくと言うのは直接会話した経験がほとんどないタイシでもわかる。そこで、話題を変えることにした。


「ところで!蘭と美桜は何か話でもあったんでしょ?そうじゃなきゃリズさんが呼び出すときに止めてるもんね!」

「そ、そうだ!あのね!私と美桜、料理スキルが生えたの!しかもレベル三!だからね!ター君も生えるんじゃないかなあ、と思って!」


 蘭は流石ター君、と言った様子で語り出す。


「生えた…?なんで?」

「料理しただけだよ!」

「そこからは私が説明しよう。」


 エリーがグイ、と胸から蘭とタイシの間に割り込む。その動作にタイシを除く全方位からキツイ視線が飛ぶが、彼女は気付いた様子を見せない。


「多分、ではあるが仮説があってな。君はステータスのスキル欄に書かれたスキルは誰が判断しているか、と言うのは考えたことはあるか?」

「いえ、特には。と言うかそんな暇もなかったですし。」

「そうか…まあ、いい。推測ゲームをさせる気はないので答えを言うとな、あれは世界に語りかけているんだよ。」

「世界、ですか?」


 対しは若干訝しげな視線をエリーに投げかける。


「そうだ。世界、だ。あれは精霊魔法の一種でな、精霊を通して大精霊、そして大精霊を通して世界に問いかける魔法だ。故に君たちにはスキルが簡単に生えるんだ。料理をすれば料理スキル、掃除をすれば掃除スキル、と言った風にな。」

「いやだから、と言われてもよくわからないんだが…」


 いまいち容量を得ない様子のタイシにエリーは微笑みかける。


「そもそもスキル、と言うものはな、資質や練度を指し示すものなんだ。別に魔法ではない。例えば剣術の素質がないものに剣術スキルは生えないし、剣術の練度が高くないものはスキルレベルは上がらない。…まあ唯一勇者だけは練度関係なく最初からスキルが多く、レベルが高いらしいが、まあそれは置いておいて。簡単に言うとな、君達は元の世界で身につけた技能を世界に晒すだけで世界がその技術をスキル、として認識するんだ。故に、高レベルのスキルが簡単に生える。」


 へえ、と納得した様子のタイシ。密かに、色々と試そう、と決心する。そして、心の中で、ステータスオープン、と唱えた。


”””””””””””””””” ”””””””””””””””” ””””””””””””””””

タイシ・オオバ 15 男 ヒューマン

職業:剣士 魔法適性:雷

筋力:D

魔力:E

スタミナ:E

敏捷:E

物理防御力:E

魔法防御力:E

スキル:進化、剣術I、言語理解、雷魔法I、歩行I、話術II、睡眠Ⅲ、起床Ⅱ、魔力循環I、身体強化I、気絶耐性I、気絶癖I、食事作法Ⅱ、早食いⅡ、成分分析I

”””””””””””””””” ”””””””””””””””” ””””””””””””””””


「なんか色々と増えてる!?睡眠とか起床ってなんだよ!」

「ふふっ」


 困惑している様子のタイシを見て、エリーは小さく笑う。



「それは長年人を悩ませたものだな。これは昔のスキルボードの問題なんだが、数百年前までは十個しかスキルを表示できなくてな。基本、その枠は起床やら発音やら歩行やらで埋まってしまっていたんだ。基礎スキル問題、と言ってな。自活レベルが高い者ほどそう言うスキルでスキルボードが埋まってしまう。だから貴族等は生活の全てを使用人に任せていたんだ。不要なスキルが生じないように、とな。今でもそう言う者は多いぞ?なんせスキルが増えれば増えるほど見難くなっていくからな。」


 若干得意げな様子で話をするエリー。タイシ達三人はその言葉を注意深く聞いている。彼らにとって、この世界の事は出来るだけ多くの情報を得たいのだ。


「つまり、日常生活をすればするほどスキルボードが埋まっていく、と。整理する方法とかってないんですか?」

「うーむ、あるにはあるんだがな…」

「あるんですか!よかった!」


 タイシは基本、乱雑な配列が嫌いなのだ。ゲーム等でも、ソート機能をこまめに使用するタイプの人間である。


「いや、あるはあるんだが…一人当たり白金貨三十枚はかかるぞ…?」

「「「三十枚!?」」」


 白金貨三十枚、と言えばタイシ達の認識上、三億円程度の価値がある。驚くのも無理はない。


「そうだ。特殊なスキルプレートを買い付け、現在のスキルプレートから権限を移行し、と専門家にやってもらう必要があるからな。しかもそのあと手動で整理する必要がある。人によっては数千あるスキルだぞ?めんどくさいったらありゃしない。」


 エリーの言葉に若干絶望するタイシ。たった一日で十近い日常系スキルが生えたのだ。白金貨三十枚、と言う大金を稼ぐ頃には、さぞや膨大な数のスキルが生えている事だろう。


「まあ、一番は諦めて重要な保有スキルは神にでも書き出しておく事だ。」

「そうします…」


 無闇矢鱈に行動しないようにしよう、と心に誓ったタイシであった。その後は、他愛もない話で時間は進んでいき、その日の旅程が終わった時点でタイシは自分の馬車へと戻るのであった。


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