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進化した剣士の放浪記  作者: 片魔ラン
第零章 亡命と覚醒
8/21

俺らは赤ちゃん

「よっし。じゃあこの二番馬車の自己紹介大会をはっじめっるよー!タイシとレイジは師匠になる人間のことをよーく覚えるよーに!」


 タイシ達が倉庫で馬車に乗り込んでから五時間。現在、タイシとレイジが乗る馬車のリビングでは、どう見ても十二歳前後にしか見えない少女が、高いテンションで騒いでいる。


「まずは僕から行くよ!元“騎士の栄光”三番隊隊長、オリバーだよ!家名は捨ててるからない!獲物は連接剣、使う魔法は風魔法!ランクB冒険者で飛斬の二つ名は全大陸に轟いてるぐらい有名だよ!あっ、サインなら後で言ってね!いくらでもあげちゃうから!じゃ、次行ってみよー!団長!」


 オリバーは団長を指差す。


「てめえ、指差すなよ!ってか今の邪魔だお前の情報足りねえだろうが!自分が元女の男だとか既に夫がいるとか新入りにはちゃんと伝えとけって言ってんだろ!毎回毎回お前に惚れた奴の処理すんのめんどくせーんだよ!」


 リリヤは肥大に青筋を浮かべて怒鳴り散らしている。どうやら色々と苦労してきたらしい。


「えー別に惚れてくれてもいいじゃん!ってか団長は僕のとこに男の子連れてくるだけなのにめんどくさいも何もないよ〜。あっ二人とも可愛い子ならいつでもおっけーだよ!ランスも僕が夫増やすことには反対してないし!」

「お前の性別初めて知って心が折れたやつの処理が面倒なんだよ!」


 このやりとりを聞いていたタイシは、リリヤが世話焼きでお節介だったのは性分だったことを悟る。今回の亡命補助もそうだが、この男、どうやら根っからの善人であるらしい。


「あのー自己紹介の方を続けてもらえると嬉しいんですが…」

「おーそうだった!リリヤ!はやくはやく!」

「ハァ…まあいい。じゃ、俺な。タイシは知ってると思うが俺はリリヤ。一応王弟だが今日からはただのリリヤだ。得意武器は長剣だが特殊武器でなければだいたいなんでも扱える。魔法属性は闇。ランクA冒険者だ。二つ名は夜の騎士だ。これから三ヶ月間よろしくな!」


 リリヤはニカっ、と笑う。それにはい、と返すタイシの横で、玲二イケメン死すべき、と呪詛を唱えている。


「次はオイラだな。オイラの名前は風龍。東魔大陸出身の龍人族だ。使う武器は大剣。魔法は使えない、が全基礎属性のブレスは吐ける。ランクB冒険者。二つ名は龍騎士だ。」


 そう自己紹介をしたのは体長二メートル五十センチは確実に超えている褐色の大男だ。頭部はゆで卵のように綺麗だが、緑色の見事な髭を蓄えており、タイシが最初に抱いた印象はアメリカのモーターギャングにいそう、という失礼なものであった。


「最後は俺だな。俺はそこにいるアホ男女の正夫だ。ま、お前らがこいつと結婚する気がないならオリバーの夫、と覚えてくれりゃいい。名前はランス。武器は弓と光魔法だ。基本的には御者をやるから夜しか会話はできないだろうがよろしくな。」


 紹介を終えた男はアホ男女、と言われむくれているオリバーを宥める。そんな男の自己紹介にタイシは驚く。つい先程まで、同じ空間内にいる事がわからなかったのだ。身長はタイシとそこまで変わらないが、優しい顔に似合わない明かに年季の入った、がっしりとした体格。そして、なにより特筆すべきはその動きだろう。視界の端に入っていても気付けないのだ。誰でも行うような動作、例えばテーブルの上のコップを手に取る、などでも一切気配がないのだ。視界に入った程度では感知出来ない、と言う事実に、タイシは戦慄する。


「じゃ、これで自己紹介終わりね〜君達二人は僕と団長と風龍から剣術、ランスから身のこなしを学んでもらうよ!魔法は他の面々に任せるからそっちは後で紹介するね〜!じゃあまずは共同生活の上でのルール説明だよ!」


 そうしてオリバーはルールを話し始める。料理と皿洗いは当番制であるとか、他人の私室には入らないだとか、ごくごく一般的な内容であった。


「じゃあ説明も終わったし早速修行だよ!ランス!お願い!」


 オリバーはそう良い残すとタタタッ、と馬車の外に走り去っていってしまった。


「全くあいつは…まあいいや…修行を始めるぞ。」

「あのーオリバーさんはどこに行ったんですか?」

「ん?ああ、あいつは今日の狩担当だ。ああそうだ。お前らはまだこの世界にきてすぐなんだろ?じゃあ修行その一だ。与えた食いもん以外一切食うな。」

「理由はなんです?」

「この世界はな、魔力器官の質が最初の一ヶ月間で食ったもので決まるんだよ。三百年ぐらい前に発表された研究でな、全く同じ条件、まあこの場合は双子だな、で高位魔獣の肉を食った乳母で育ったのと低位魔獣の肉を食った乳母で育ったのとでは魔法の魔力効率に最大で七倍の差が出る、ってのがあってな。まあ当時はこれが貴族と平民の差が埋まらない原因だって騒がれたりもしたんだが、それは置いておいて。これは賭けなんだが、お前らは魔法のない世界から来たって聞いてな。もしかしたらお前らの魔力機関、ああ魔力を貯める内臓と魔力を行使するための体内組織な、は育てられるんじゃねえかと思うんだよ。」


 タイシは体格を作るためなどの理由かと思いきや、全く違っていた。


「わかりました。そう言うことなら。あれ、でも魔力機関が育ってないって事は魔法使えないんですか?」


 タイシのは疑問を投げかける。が、ランスは首を横に振る。


「いや、使える。使えるが放出系はダメだ。成長中の魔力機関ってのはな、まあ最大は決まってるが膨張し続ける風船みたいなもんなんだよ。しかも成長期間が終わった時点の大きさで一生固定される。風船に空気入れるとき漏らしながら入れるのと漏れなく入れるのとでは全く違うだろ?まあ、言っても二ヶ月程度の我慢だ。」


 タイシはランスの説明に眉を顰める。


「それって成長期間終わった後はもう魔力保有量は増えないし効率も上がらないって事ですか…?」


 ランスはタイシの質問に難しい顔にを見せる。


「そうでもあるしそうでもない…うーんなんて言えばいいかな…その初期の動きで最大値が決まるんだよ。言ってみれば将来、最大のポテンシャルを発揮したときに100の力を行使できます、って決まる。だけどその時点では使えるのは1だけだ。だから修行を続ける。まあ、ポテンシャルを最大まで引き出せた人間なんてAランクのトップテンとSランクの化け物共しかいないだろうがな…いくら魔力保有量と共に寿命が伸びるって言ってもそこまで到達するには圧倒的に寿命が足りねえ。」

「えっ、寿命って伸びるんですか!?」

「おお、伸びるぞ。魔力機関の能力に応じて伸びる。人間でも子爵以下の低位貴族で二百五十年、伯爵以上で四百年、王族だと七百年ってとこか?まあ殆どが謀殺されるか戦死するかで寿命までは行かねえが。」

「そ、そんなに時間があるのに不老不死求めて破滅するんですか…?」


 ランスはタイシの言葉に俯く。


「寿命が長いから不労を求めるんだよ…寿命は確かに長いが、老いはする…寿命が百年だとして二十年で成人、そこから二十年間一線で活躍出来て更に二十年は動ける。あとは四十年間、ゆっくりと体動けなくなってくだろ?例えば高位貴族なら百六十年かけて体の自由が聞かなくなっていくんだ。まあ、恐怖だわな。自殺する奴も多い。特に世界会議で貴族は五十年間しか当主でいられない、って決まってからはやりがいを失って自殺する奴が増えたらしい。だが、不老不死があればどうだ?衰えることのない身体、投手交代だって息子だと偽って続けりゃいい。まあ、最初のハイヒューマンは不老不死は呪いだ、欲しいならくれてやる、って言葉を残してるらしいから実際はそんなにいいもんでもないのかもだが…」


 タイシも話位を聞いているだけであった玲二も難しい顔になる。彼らは二人ともオタクである。不老不死、と言うものを求めて、古くから、人、悪魔、神に関わらず、不老不死を求めて破滅する者の話は後を絶たない。そして、その殆どは男である。神話の時代では男の方が圧倒的に権力者になりすい、歴史に残されやすい、などの理由があるにしても、男で不老不死を求める者が本質的に欲しているのは時間である、と、思い込んでいたのだ。というよりも議論を重ね、そう結論付けていた。故に、この世界の人間の話を聞き、不老性と不死性の内、不老性をより強く求めていたことを知り、再議論の必要性を感じていた、


 そんなことを感ているとは露にも思わず、子供が歴史の闇を知り、悲しんでいる、と考えたランスは、空気を変えようと試みる。


「さ、さあお前らの特訓だ。魔力を感じるのはもう出来るんだろ?じゃあ、それを身体中に巡らせてみろ。先ずは魔力を感じ取れ。」


 タイシは言われた通り、まず魔力を感じる。


「出来たな?じゃあ、次は身体中に巡らせろ。指の先まで、だ。巡らせたらそのまま一分キープ。」


 タイシと玲二は指示通り、指先、髪の先まで冷たい魔力を巡らせていく。が、なかなか上手く行かない。


「む、難しいです。」

「まあ、そりゃそうよな。お前らもしかして血の巡りを真似てんじゃねえのか?」

「ええ、そうですが…」

「僕もそうです…」

「それじゃあダメだ。血管じゃカバーできないところが生じる。そうだな…右胸から魔力の波動を発するイメージをしてみろ。体表が壁となり、波が跳ね返り、結果身体中に魔力が行き渡るイメージだ。」


 ランスにイメージを伝えられた二人は、その通りに行ってみる。すると、驚くほど簡単に魔力が身体中に行き渡るのを感じた。


「「出来ました!」」

「よし。じゃあそのまま一分キープだ。」

「「はい!」」


 二人は元気よく返事し、一分を数え始める。が、四十秒ほど経過した時点で、タイシの表情が歪み始めた。更に、その直後、玲二も苦悶の表情を浮かべる。


「どうだ?苦しいだろ。それが魔力期間が未熟な証拠だ。言わば成長痛だな。これでお前らの魔力期間が育ってるのがわかったな。」


 ランスがそう言うも、タイシと玲二は堪えるのでいっぱいいっぱいで、何も聞こえていない。


 そして、一分が経過した。二人は同時に魔力の波動を切ると、その場にへたり込んだ。


「き、きちい…」

「十時間耐久試合やった時よりもきつい…」


 そんな二人の様子を見て、ランスはニヤリ、と口を歪める。


「お前らはこれを十分おきにやれ。毎回限界まで、だ。当分の目標は起きてる間ずっと巡らせた状態で行動することだな。」

「「ひぃいい」」

 

 ランスの容赦無い宣言に二人が情けない声を上げる。が、ランスは楽しそうに笑って流す。じっさい、ランスは楽しんでいるのだ。訓練をさせた場合の魔力機関の成長率が知れるかもしれないのだ。本来、赤ん坊の間に魔力機関のポテンシャルが定まってしまうため、これまでそのポテンシャルの増大に訓練がどれほどの効果をもたらすのかは知られていなかった。故に、今のタイシ達はランスにとって、どんな宝石よりも価値のあるものなのだ。


「じゃ、俺は自分にやることやってくるから。お前ら頑張れよ〜。」


 ランスはそのまま去っていってしまった。


 残されたタイシと玲二は、顔を見合わせ、ニヤリ、と笑う。今し方ランスから聞いた情報の数々は、オタク談義の極上の燃料なのだ。二人は心の底から楽しそうに、あーでも無いこうでも無い、と話を始める。十分置きに地獄を味わいながら。


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