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進化した剣士の放浪記  作者: 片魔ラン
第零章 亡命と覚醒
7/21

仲間

「タイシが既に異族に殺されて成り代わられてる!?」


 金銀の宝飾で飽食している豪奢な執務室に勇気の声が響き渡る。


「ああ。忌まわしい事だが奴は異族だ。能力が物語っている。大方、勇者の仲間の程度を知らなかったのであろう。一般職で平均Eなどと言うふざけた数値なはずがないからな。」

「で、ですが召喚からステータス鑑定までの間になり変わるなどと言う事は…」

「召喚途中でやられたんだろう。」


 目の前に座る壮年の男の推測を聞き、勇気は納得してしまう。確かに召喚の途中で両親と別れを告げる、などと言う不可思議な現象があったのだ。何者かが召喚に介入し、タイシと入れ替わっていた可能性もあった。


「で、では偽タイシの処遇は!俺は奴からタイシの居場所を聞かねばなりません!」


 勇気はそう宣うが、内心はほくそ笑んでいた。やっと目の前から邪魔者が消えたのだ。死んだ事を確定させ次第、蘭や美桜の弱った心につけ込める。そう夢想していた。


「奴は既に城を後にしている。密偵によると冒険者ギルドに他二人とともに登録したそうだ…これで保護亡命対象にでも入っていたら国としては手が出せん…」

「ほ、ほか二人!?誰ですかそれは!」

「ラン・シノダとミオ・マンダだそうだ。」


 レインワース王の言葉を聞いた勇気から殺気の様な何かが発せられる。人殺しを経験したことのない子供の未熟なものではあるが、殺気は殺気である。仮にも一国の王を務めているレインワースが気付かないはずがなかった。


(これは…あのランとか言うのは儂の妾に、と思っておったがこれはこやつに与えた方が良いな…恋心程操縦しやすいものはない。)


「そこで、だ。勇者よ。お主に最初の任務を命じる。かのタイシ・オオバに成り済ましている異族を捕らえよ。そして奴に騙されている二名を連れて帰ってこい。随行に聖騎士を五人つける。決行は奴が王都を出次第だ。」

「は!必ずや我が友の仇を取って参ります!」


 勇気はそう宣言し、執務室を後にする。


 残されたレインワースは、一人ほくそ笑む。


「ふっふっふっ…不老不死が手に入らんかったのは痛いが勇者はこれで手に入ったな…レベル1で平均ステータスがBある上に固有スキルが三つだ…これで我が王国も更なる発展が出来るぞ!不老不死は最悪あの息子に意識を移せばいいしな…」



 ギルドにて登録と説明を行われた翌日、タイシ、蘭、美桜の姿はギルドから四十分ほど歩いた場所にある倉庫の中にあった。


「他の三人ってお前らかよ!勇気のこと支えなくていいのか!?」


 顔を顰めているタイシ達に話しかけているのは、微妙に伸びた茶髪にピアス、といった容貌の男だ。名は梅田炎鬼、そのチャラついた容姿と態度からタイシは苦手としていた。また、美桜と蘭も勇気の前で幾度となく彼が迫り、勇気が止める、と言った茶番を見せつけられており、嫌っていた。


「勇気が俺の知っている人間ではないってことがわかったからな。まあ、この王国もろくなとこじゃなさそうだし、出て行く方がいいだろ。そう言うお前だって彼女さんの事置いていっていいのか?」

「ん?ああ、知らないのか。アイツとは二週間前に別れたんだよ。だから俺はフリー!どう蘭ちゃん!良い思いできるぜ!」


 炎鬼は両腕を広げ、蘭を呼び込む。が、当の蘭はタイシの背後に隠れ、しがみつく。


「あ?なんだおめえらくっ付いたのか?って事は勇気の野郎、バレたのか。はっ、金ばら撒きまくって三年も使って結局女一人落とせてねえのか、フゴッ」


 炎鬼が吹っ飛ぶ。殴ったタイシは、そのままステータス差からダメージを受け、流血している右手で吹っ飛んだ炎鬼の襟を掴む。


「テメエも加担してたのか!テメエみたいなゴミがのさばってて良いことなんてねえんだよ!今ここで死ぬか出ていくか選べ!」


 今にも炎鬼を殺しそうな目で睨むタイシ。そんな彼を美桜が後ろから抱きしめる。


「タイシさん、落ち着いて!彼は調査では私たちを口説く以外やってないわ!光堂院から金を渡されて、私たちを口説く、でそれを光堂院が助ける、ってシナリオで数回口説かれただけ!そんな奴の為にタイシさんが感情を使う必要もないわ!」


 美桜の説得に、タイシは炎鬼を手放す。炎鬼は今し方殴りつけてきたタイシに視線を向け、嫌そうに話しかける。


「チッ、そっちも落としてたか。まあいい。すまなかった、と言っておく。俺は金が必要でな。百万も提示されたら断れなかった。流石に暴行やら誘拐やらのヤバイ計画には手を出さなかったがそれでも迷惑かけた。すまん。」


 呆気に取られるタイシ達。普段からおちゃらけた様子の炎鬼が、真面目な言葉遣いで頭を下げて謝っているのだ。タイシは抱いていた怒りが霧散していくのを感じた。


「…事情は知らんし知る気もない。が、本当に口説く、以外のことをしてないならそれは今の一発で水に流す。勇気の嘘を知っていながら隠していたのは忘れんが、その謝罪が本心ならこれから行動で示してくれ。」


 タイシは溜息をつき、炎鬼に背を向ける。所詮、タイシは知らなかったのではなく、知ろうとしなかった男である。彼の中では、本当に怒りを向けていいのは勇気ただ一人である、と昨晩に結論が出ていた。炎鬼を殴ったのは、改めて勇気の行なっていた、と言う事実を認識し、激情に駆られてしまったのだ。


「ター君!手!手の怪我!今リリヤさんにポーション?って言うの貰ったから!これをかけてだって!」


 蘭はそう言ってタイシの手に青色の液体を振りかける。すると、裂傷が生じていたタイシの手が見る見るうちに綺麗になっていった。


「ああ、すまんな。蘭、ありがと。」


 タイシは真っ先に回復手段をとってきてくれた蘭の頭を撫でる。


「むっ。私も」


 美桜は対抗心を剥き出しにし、自分の頭を突き出す。タイシは苦笑を漏らしながらも、その頭を撫でた。


「美桜求めてくれてありがとな。」


 この光景を見せつけられた炎鬼は、溜息を漏らす。


「はあ…金は貰ったが口説いてたのは本心だったんだけどな…まあ、あんな感じじゃ勇気のクソ野郎がー焦るのも理解できるか…」


 そんな呟きは幸い、誰にも聞かれる事はなかった。



「ばっかもーん!」


 タイシの頭を拳骨が襲う。


「いきなり何してんだ!これから三ヶ月は一緒に過ごすんだぞ!」


 叱っているのはリリヤだ。預けていた馬車を取り出しに目を離した隙に、ポーションを使用しなければならない状態になっていたのだ。起こらないはずがない。


「すみません…もう遺恨はありません。もうこんな事はないと思います…」

「当たり前だ!喧嘩を仕掛けるなら自分の土俵に持ち込んでからにしろ!殴っただけで手が裂けるような相手に殴りかかんな!」


 見ていた蘭と美桜は、そこかよ、と内心突っ込む。


「まあ、いい。じゃあ、これから護衛を紹介するぞ。後はもう一人の同郷人も後から来るそうだ。お前ら!出てこい!」


 リリヤが声を張り上げる。すると、先程リリヤが出てきた扉の向こうからゾロゾロと人が出てきた。十秒程で、全員が揃う。大志がざっと数えたところだと、十五人もいる。


「これが俺の元パーティーだ。まあ他にも十人ぐらいいるが今回は揃わなかった。全員Bランク以上の上位冒険者で、もともとこの大陸でトップ5に入るパーティーだったから腕は保証する。」


 リリヤがそう言い切ると、彼の元パーティーが次々と自己紹介をしていく。リリヤの言葉通り、全員がBランク以上で、Aランクも二人いるらしい。十五億人以上いる冒険者の中で、三万人に一人いると言われているAランクと一万人に一人いる、と言われているBランク。下位の冒険者は入れ替わりが激しい事を考えれば、そこに到達出来るのはそれこそ億に一人程度の才能を擁する。なお、Bランクを超えるほどの実力がある者は獣人種を除いて、基本長命である。馬鹿して死ぬ者は少数いるが、基本危機管理能力の高い高位冒険者は死なないので、年々Aランク冒険者の数は増えている。


 自己紹介が終わると。次にリリヤはタイシ達の背後にあった馬車を指指した。


「で、乗り物はそっちの三つだ。引くのはセバル。Cランクの魔物だな。基本的に御者に扮した誰かだけが外に出ている事になる。まあ、三ヶ月間お前らの住処になる所だ。」


 タイシ達は顔を顰める。リリヤが指差した馬車はどう見ても地球の一般車のシャーシと同じ程度のサイズだ。それが三台あったところで、総勢二十人近い団体と物資が乗り切れるとは思えなかった。


「その顔は疑ってんな?いいぜ。とりあえず乗ってみろ。」


 リリヤは何やらニヤニヤとしながらタイシ達を先導する。そして、馬車のうちの一台に乗り込んだ。


「とりあえず乗ってみましょう。」


 美桜はそういう時、今し方リリヤが乗っていった馬車の扉を開け、固まる。


「おい、美桜。どうしたんだよ。」

「す、すごい…」


 美桜は呟き、ふらふらと馬車に乗り込んでいってしまった。タイシはその行動を不審に思い、美桜に続く。


「っ!」


 馬車のドアを潜ったタイシが目にした光景は、絶句するに値するものであった。そこには、広いリビングが広がっていたのだ。明らかに質のいいソファーが二つに風情のある木のテーブル。その奥にはアイランドキッチンが広がっており、何やら冷蔵庫らしきものまである。背後から蘭に早く入れ、と声をかけられ、タイシは中に踏み込んでいく。後ろから蘭と炎鬼も入ってきたが、同様に絶句している。


「どうだ。大丈夫だろう?一応ベッドと机の入った個室が一台当たり八部屋あるからプライベートも確保できる。もう部屋割りは決めてある。中にはお前らが着れそうな服も一式揃ってるぞ。食材は冷蔵魔道具内に野菜やら肉やらが入ってる。調味料等は備え付けの小型亜空間格納庫に入ってる。トイレは一台当たり三つあって消臭魔道具と浄化魔道具が備え付けてあるから綺麗だし、シャワーも一台に一つある。最高の環境だろ?」


 リリヤはドヤ顔で説明している。そこに突っ込みをいれたのはタイシだ。


「あ、あのこれってなんなんですか?」

「ああ、お前らは知らないか。これはな、移動家屋だ。馬車の内部を空間拡張して家として住めるようにしたものだ。今の時代だと更に収納魔法がかけられてて専用の小型亜空間格納庫にしまえるようなってるな。まあ、これは五十年前のものだからそれはできないんだが。」

「これってものすごく高いんじゃ…」

「おう!オーダーメイドで一台当たり白金貨十二枚だ!まあそれでも馴染みの店で買ったから割引されてたんだけどな。」

「そんなのを使って貰えるんですか…?」

「ん?ああ、これは俺のパーティーの物だからな。あ、元パーティーの物か。さっき挨拶した十五人がいたろ?今はあいつらが五人でパーティー組んでんだけど一組一台使ってんだよ。だから標準装備みたいなもんだ。別にお前らのため、って特別に用意した物じゃねえから。」


 自分たちのために用意された物ではない、と聞き、ホッと胸を撫で下ろすタイシ。既に至れり尽くせりが過ぎているのだ。その上更に、日本円で一億超えの高価な物を用意してもらった、となっては本当に今生で恩を返し切れるか不安になるところであった。しかし、一つだけ聞き逃せない情報があった。


「今元々リリヤさんの使ってた物だって…それだと昨日とか外見もある程度バレてるんじゃ…」


 リリヤはタイシの心配事を笑って飛ばす。


「んなヘマはしねえよ。完全に隠蔽してある。まあ、王族の俺が知らない超精鋭魔法部隊でもいるなら別だが、そうでもないなら見破るのは無理だ。」


 どうやら、問題はないようだ。


「じゃ、説明を続けるぞ?この馬車には高度な隠蔽魔術が施されててな。そうだな、お前ら一回馬車の外に出てドアを閉めてみろ。五秒経ったらもう一回入ってきていい。」


 指示を受けたタイシ達は一度馬車の外に出た。そして、十秒程経過してから再度馬車の扉を開く。が、扉の先にあったのは対面型の座席だ。四人程が座れるであろう、馬車。外見から想像出来る内部構造と同じである。


「どうなってんだこれ。幻影じゃない…実際座席は触れる…」


 タイシ達はいきなり変化した馬車の内部に入り、触って確認する。が、いくら探ってもただの座席だ。何もわかる事はない。


「もう一回出れば戻してくれるだろ。蘭、美桜、出て出て。」


 タイシは蘭と美桜と一緒に馬車を降り、ドアを閉める。そして、再度待ち、また扉を開く。すると、今度は先ほどの広い空間とドヤ顔のリリヤが待ち構えていた。


「いいもんだろ?種明かしするとな、馬車の中が回転すんだよ。きっちり一回転するとあの空間が扉の前に来る。さっき隠蔽魔術が施されてるって言ったろ?それのおかげで探知魔法でそう言う構造がわからないようになっててな。更にあの座席空間の裏にある空間が探知できないようになってる。スイッチの方法は御者台の特定の場所か馬車内部の制御板に登録者の魔力を流す事。人を隠して運ぶには最高のギミックだ。」


 得意満面の笑みで説明するリリヤ。実はこの仕組み、彼が錬金術師数名と散々協議し、作り上げた仕掛けなのだ。未だに技術独占及び秘匿契約をその錬金術師達と結んでおり、全く同じ仕組みを取り付けた馬車は他に存在しない。言わば一点ものなのである。得意気になるのも頷ける。


「すごいっすねこれ!ヤバ過ぎますって!」


 炎鬼は目を輝かせている。いかにもファンタジー、と言った感じの状況に興奮しているのだろう。と、そこに背後から声がかかった。


「エンキちゃんちょっとごめんねぇ〜。団長!最後の一人来ました!」


 女性の声でリリヤを団長と呼ぶのはムキムキの筋肉にタンクトップ、と言った格好の男性だ。先程、自己紹介の際も炎鬼にウィンクを飛ばしていた。名前はライド、本人曰く魔法使い、だそうだ。


「おう!お前らも行くぞ!最後の亡命仲間だ!」


 リリヤに促され、タイシ達は馬車を後にする。


 先程、リリヤのパーティーが出てきた扉の前にいたのはボサボサの髪の毛に丸まりきった猫背の男子と、金髪碧眼の美人騎士であった。男子の名前は奥田玲二。所謂根暗、かと思いきや、実は卓球の全日本選手権に出場する程のスポーツマンである。日本ではほぼ常にラケットに球を乗せて握っており、一年の時は様々な教師が辞めさせようとしたが、一度も手放さなかった、という伝説がある。結局彼らは玲二が全中を一年で個人優勝した時点で何も言わなくなった。


「おっ!玲二じゃねえか!最後の一人はお前か、よかった。」


 そう声をかけるのはタイシだ。実はタイシ、この玲二とはオタク仲間である。メジャーな対戦ゲームや漫画の趣味が一致しており、度々オタク談義をする仲なのである。蘭と美桜も小さく頭を下げ、会釈をする。彼女らは玲二に恩がある。彼は以前、勇気が蘭達に嫌がらせを行うよう迫ってくるのを動画に撮影してくれたのである。美桜達は彼に感謝こそすれども、敵視する理由はない。昨夜、タイシと一緒に奥田だといいね、と言っていたほど好意的である。


「タ、タイシ!篠田さんと萬田さんも!ここにいるって事は勇気君から逃げれたんだね!?よかった!」


 この玲二、虫も殺さない、と言われても信じられる程の善人である。しかし、自己犠牲の精神は持ち合わせていないので危険性はない。なお、卓球台の前に立つと別人になる、とはタイシの談である。


「ええ、貴方がくれた証拠を使うこともなく逃げれたわ。タイシさんとも分かり合う事ができたし最高よ。あの時は本当にありがとうね。」

「レイっちヤッホー!これからよろしくね!」


 美桜は再度頭を下げ、感謝の意を述べる。蘭はその横で手を振っている。


「お前ら俺の時と全く対応がちげえじゃねえかよ!」

「「「当たり前だろ(でしょ)(よ)」」」


 片や金で釣られ、人に迷惑をかけていたチャラ男、片や接触があった次の瞬間には被害者に協力した善人。対応が同じなわけがない。


 玲二との会話も終わり、遂に乗り込む馬車が発表されることとなった。最初に呼ばれたのは炎鬼だ。彼は先頭の馬車に乗るらしい。真ん中を走る馬車に乗るのは美桜と蘭。この馬車は女性冒険者五人と一緒に、固めるらしい。そして、最後尾の馬車に乗るのはタイシと玲二だ。


「じゃ、そういう事で。出発は部屋の割り振りが終わり次第直ぐに、だ。あとはそれぞれ割り振られた馬車に乗り込んで自己紹介でも済ませておけ!ほれ乗った乗った!」


 リリヤはそう言うと、タイシの手を引いてさっさと馬車に乗り込んでいってしまった。


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