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進化した剣士の放浪記  作者: 片魔ラン
第零章 亡命と覚醒
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別れ

 皇帝との謁見を終え、世界会議への報告も終え、褒賞も確定したタイシ達はその後一数巻ほど城に滞在した。帝都で買い物をしたり、帝城の図書室で魔法書を読み込んだり、近衛に武術の指導をしてもらったりと有意義ない日々を過ごした一行は、やがて旅立ちの日を迎えた。


「オリバーさん、皆さん、三ヶ月間ありがとうございました。もし、リリヤさんに出会うことがあればマルコリスという方の元にいると伝えておいてください。」


 タイシは深く、深く頭を下げる。彼にとってオリバー達は命の恩人だ。それはあの日、勇気に殺されたときに嫌でもと自覚していた。故に礼は忘れない。タイシの左右では蘭、美桜、玲二の三人も頭を下げている。が、オリバー達一同は苦い顔をしている。彼らは冒険者ギルドから報告を受けていたのだ。リリヤの冒険者紋章が消えている、と。もう万に一つもあり得ない、と。しかし三ヶ月経過した今でもその事をタイシ達には伝えていない。それは彼等の心を慮った為でもあるが、主な理由は隊長格の三人以外、タイシタチに伝える理由を見出せなかった為である。タイシ達がリリヤと触れ合ったのはたったの数日だ。故に伝える必要性を感じなかったのだ。しかし、隊長格も三人は違う。彼らは、リリヤから指輪の歴史を伝えられていた。そして、タイシだけには伝えるべきかもしれない、と考えてはいた。いたが、タイシがマルコリスの元へ行く、と聞いてやめた。



「わかったよ!君たちも元気でね!次に会う時は冒険者として会える事を祈るよ!」


 先程までの苦い表情を消し去り、オリバーはいつもの口調でそう答えた。そしてその言葉に顔を上げたタイシは、炎鬼に視線を移す。


「炎鬼、未だにお前のことは気に入らねえけど認めてはいる。すぐに追いついてやるから精々冒険者ランク上げてろ」

「ハッ、俺はAランクパーティーの見習いになるんだぜ?しょうもない学校に行くお前らじゃ一生追いつけねえぐらい差付けてやるよ。」


 最後の挨拶をしてきたタイシに炎鬼は笑ってそう返す。最初こそ殴り合った二人だが、この三ヶ月間寝食を共にしたことでこのように戯れ合いが出来る程度には仲間意識が生まれていた。


「ではこれで失礼します。飛行艦も待っていますので。」


 もう一度頭を下げ、オリバー達に背中は向けたタイシ。他の三人もその後を追うのだった。



タイシ達が乗り込んだのはプライペートジェットを一回り大きくした程度のサイズのの船であった。内部にはタイシ達の他に騎士が六人同乗しており、話しかけても反応しないことからかなり気まずい時間が流れていた。搭乗当初、大陸横断だというのに六時間で着く、と言われ、三ヶ月の旅はなんだったのか、と騒ぎ立てていた四人は現在魔力を球状に放出して、卓球のように打ち合う遊びをしていた。何もやることはないのだ。と、そんな中、タイシが玲二に話しかけた。


「そういやなんで玲二はついてくることにしたんだ?お前の好きな異世界チーレムなら同郷の奴がいないとこの方がいいだろ。」


 玲二の趣味嗜好を知っているタイシは不思議でしょうが無かった。何故、夢を追いかけないのかが。この問いに玲二は苦笑を漏らす。


「異世界チーレムって…僕は読むのが好きなのであってやりたいとは思わないよ。逆に聞くけどチーレムアニメ好きなタイシは今以上に増やす予定でもあるの?」

「うっ」


 玲二の返しに言葉が詰まるタイシ。既に蘭と美桜の二人でも手一杯なのだ。これ以上増えたら自分のための買い物や一人の時間が完全に消えて無くなってしまう。


「ははっ。まあ、そんなことは置いておいて、なんでついてきたのか、だったね。まあ、単純に友達といたかったからだよ。いつかは別々の道を歩むんだろうけど学園ぐらいまでは一緒にいたいかなあって。」

「レイジィ…」


 玲二の言葉に感動するタイシ。タイシは勇気が幻想だと気付いたことで玲二が唯一の男友達になってしまったのだ。そんな相手に一緒にいたい、と言われ思わず目が潤んでしまった。タイシはそのまま卓球をしていたテーブルを飛び越え、玲二に飛びつこうとする。が、空中で打ち落とされてしまう。隣で卓球をしていた美桜が蹴りを入れたのだ。


「ごめんね玲二君?こいつがそっち系に走らないようにちゃんと調教しておくからここは私に任せて?」


 彼女はまだ自分が数えるほどしか抱きしめられたことがないのに玲二に抱き着こうとしたタイシにかなり怒っていた。しかも玲二に襲いかかるタイシの目に一瞬浴場の光が宿ったように感じたのだ。…涙の反射だったのだが。

 意識を失ったタイシは調教されるために飛行艦の後方に引きずられていくのであった。


書き直し、推敲、書き足しやります。

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