謁見の間
タイシ達が魔法の修練を始めてから数週間、時は飛ぶように過ぎて行った。彼らは魔法の発動に夢中になったのだ。なにせ、魔法の可能性は無限大である。体内魔力が足りていれば、どのようなイメージでも再現されるのである。更には自分だけの詠唱を生み出せば、いちいちイメージせずとも一節唱えるだけで魔法が発動する、と言うのもタイシや玲二のオタク心を刺激した。二人は中2心を思い出してしまった炎鬼と共に、日夜新しい詠唱の発案に耽っていた。
そんな日々も今日終わる。一行が亡命先の帝都に着いたのだ。Vip待遇でスルスルと城まで通された一行。直ぐに世界会議の役員の前で証言を行う手筈になっていたのだ。そして、現在いかにも待合室、といった内装の部屋で寛いでいた。
「まだかなあー早く自由になりたーい!」
ソファーの上で足をバタつかせているのは蘭だ。もうかれこれ十分間こうして駄々を捏ねている。
「蘭ちゃん、そろそろ落ち着きなよーまあやっと自由になれると思ったのにしばらく待ってって言われて嫌なのはわかるけどさ。」
美桜も若干むくれている。彼女は帝都の観光を楽しみにしていたのだ。予定が引き延ばしになってしまい、若干不機嫌になっていた。と、そこで部屋のドアがノックされた。そして、一瞬で佇まいを直す蘭。
「はーい入ってきて良いよー!」
客を招き入れたのはオリバーだ。
入ってきたのはハゲ上がっている初老の男性だ。男性は部屋の中を見渡すと、威厳のある声色で全員に用件を告げた。
「陛下の準備が整った。今から謁見の間にお連れするので粗相のないように。異世界人の方々には直ぐに証言を行っていただくと思うので準備をしておくように。ではこちらへ。」
男はそういってドアの方向を指した。一行は特に逆らうこともなく、男の後ろをついていくのであった。
豪華絢爛な廊下を通され、巨大な扉の前に連れてこられた一行。オリバー達冒険者は慣れた様子であったが、タイシ達は只々圧倒されていた。
「すっげえな…巨人でも通るのかよ…」
タイシ達が見上げている扉は高さ約八メートル、幅約十メートルと意味が分からないほどの大きさだ。
「開くぞ!」
炎鬼が叫ぶ。周囲で控えていた騎士達は嫌な顔をするが、タイシ達一行は知ったことではない。扉の動作を見極めるのに必死であった。
そして扉が開ききり、中から見えてきたのは広大な広間。そして、その中心には何かがいた。直視することが出来ないほどの威圧感を放つソレは、その場を一切動くことはなかった。タイシ達は必死に身に降りかかる不可視の圧力に耐えながら、オリバー達に追随していく。
「っなんだこれ…前に進むのが辛い…」
「あれはねー皇帝の覇気だよ〜。今代の皇帝は英傑だからね〜初見だとBランク冒険者でも膝をつきそうになるって有名。」
タイシの呟きに反応したのはオリバーであった。タイシ達はオリバーの説明に感嘆しつつも、こんな場に連れてきて欲しくなかった、と言う本音を押さえ込む。不敬だなどと言われたくはないのだ。
謁見の間に訪れた一行は自然と皇帝の前で跪く。そして、低く重厚な声が響き渡る。
「異界の客人よ。よくぞここまで辿り着いた。そして冒険者達よ、大儀であった。報酬は後ほど、ギルドを通して受け取るが良い。」
「「「「はっ!」」」」
声を揃えて返答をする冒険者一同。一方、タイシ達は圧倒され、口を開ける気配すらない。
「では朕は席を外す。そこな客人が正しき証言を行えなければ困るからのぉ。あとはそこにいる世界会議の評議員が引き継ぐ。」
そうしてゆっくりと遠ざかっていく威圧の発生源。やがて足音が聞こえなくなると、タイシ達は一斉に肩で息を始める。
「凄すぎるだろっ!」
真っ先に復活したのは炎鬼だ。彼は目を輝かせてその場叫んだ。周囲を固める貴族達は若干顔を顰めるが、何も言うことはない。皇帝が評議員に場を任せたと以上、真っ先に咎めるわけにはいかないのだ。そんな炎鬼を、オリバーが手で制す。
「フォッフォッフォッ。すごいじゃろ?何処の大国も頂点はあんなものじゃ。お主らはこれからそのような立場のものと遭遇することも多くなろう。今のうちに慣れておくと良い。」
不意に響き渡る嗄れた声。タイシ達が一斉に背後に振り向くと、そこには身長百五十センチ程で、杖をついている老人がいた。
「では、早速話を聞かせてもらうとするかの。ここから会話は全て録画されるぞい。そして、百人の評議員が今も見ている。では、まず冒険者から話すが良い。」




