魔法
国境での襲撃以降、一行はトラブルに見舞われることなく順調に旅路を進んでいった。そして旅も残り二週間、と言った頃、タイシ達転移組は浮かれていた。タイシ達の魔力機関開発も終わり、遂に魔法を学ぶ時が来たのだ。
「異世界に来てから二ヶ月半…!やっとこの時が来た!今日から俺の無双物語が始まるんだ…!」
一行の中でも特に浮かれている炎鬼は、プレゼントとして買ってもらった初心者用の魔法発動体、炎鬼の職が魔法槍使いなので槍の形状をしている、を振り回しながら騒いでいる。
そんな炎鬼大使は若干冷ややかな目で見ている。
「炎鬼、お前…近接系と炎魔法は相性が悪いって伝えられてたじゃねえか…オールラウンダーとして名を馳せるならまだしも無双は無理なんじゃねえの?」
「ア゛ァ゛?てめえ人の夢ぶっ壊してんじゃねえよ!んなこたあわかってんだよ!取り敢えずお前のことは余裕で倒せるようになるから見てろよ!」
「は?無理に決まってんだろ。俺も魔法覚えるんだぜ?魔法なしで連戦連勝してるのに魔法が入ったぐらいで負けるはずがねえだろ?」
「あ゛?やんのかゴラァ?」
「上等じゃねえか表に出ろや!」
この数ヶ月間、常に共に行動し、共に鍛錬していた二人は自然と仲良くなっていた。今では毎朝顔を合わせた途端に模擬戦が始まるほどの仲である。そしてタイシの性格にも変化が出ていた。彼は蘭や美桜を守らねば、との思いから強さを貪欲に求めるようになったのだ。いつか自分の不老不死性が露見した時、蘭や美桜に被害が及ばないようにするために、守り抜くために圧倒的な強さを持てめるようになっていた。
「二人とも!もう今日の喧嘩はしたでしょ!ダメ!」
メンチを切っている二人を止めたのは玲二だ。
「わーったよ…」
「玲二が言うならシャーねえ。」
すごすごと引き下がる二人。それもそのはず。実は現時点で五人の中で一番強いのは玲二なのだ。持ち前の動体視力や反射神経に手先の器用さを生かし、彼はメキメキと連接剣の腕を上げていた。当然連接剣は魔力を通して使う魔道具なので、鍛え始めたのはタイシ達よりあとである。にも関わらず、ここ二週間ほど彼は模擬戦で一度も負けていないのだ。
「タイシさん楽しみですね!」
美桜は目を輝かせている。それもそのはず、彼女は魔女なのだ。魔法を学んで初めて本領発揮できる。拳闘術の素質があったとはいえ、同行している冒険者に教えられるものがおらず、この二ヶ月間は裁縫や料理に精を出していた。故に楽しみで仕方がないのだ。なお蘭は特殊な魔法なのでギルドの方で修練指示書を先人に送ってもらう算段だそうで、今この場にはいない。
「ああ。楽しみすぎる!」
「はーい、ガキ共ちゅうもーく!」
ガヤガヤとしていた四人の間を気怠そうな声が駆け抜けた。一瞬で静まり返る五人。この二ヶ月でいま聞こえてきた声の持ち主には逆らってはならないと身体が覚えてしまっていたのだ。
「よーしいい子達だ。では魔法の授業を始めるぞー!そこの魔女っ子以外は二分で終わらせるからよーく聞け。」
「は?なんでそんな適当なんだよババ」
「あっ馬鹿!」
タイシが炎鬼の失言に気付き、声を上げるも時はすでに遅し。どこからともなく放たれた雷撃によって炎鬼は感電し、意識を失っていた。
「何度言えばわかるのかな?私はまだ二百七十だ。魔力の少ない普通の人間の年齢に直して言えば適齢期の二十代なんだよねえ。それがババア?」
「いえ!若くてお美しいですよ!」
「どんな男でも虜になっちゃいます!」
「そうですよ!私もみたいな魅力が欲しいです!」
タイシ達三人が額に青筋を浮かべている講師役のメリダを全力でヨイショする。それに若干気を良くしたのかメリダの発していた怒気が若干収まる。
「ふーん。今は納めておいてあげるわ。で、どこのばかにはあとでお前達が教えるとして始めるわよ。魔法を使うのは簡単。
1、魔法発動体と脳を魔力で繋ぎます。
2、イメージをします。
するとあら不思議。魔法が発動体から放たれたではありませんか!以上だ。数回練習したらあとは各自でやれ。私はそこの魔女っ子に複数属性の使い分け方を教えねばならん。」
説明が雑すぎる。タイシと玲二はそう抗議の声を上げようとするが、メリダの睨みの前で竦んでしまい、声が出ない。仕方がないので二人は引き下がり、言われた通りにすることにした。
「えーと、まず魔法発動体に魔力を注いで。次は脳にも魔力を注いで…できた!で、イメージか。雷だし剣に雷がまとわりつく感じかな!」
タイシはリリヤの格納庫に入っていた長剣の形をした魔法発動体を使って、言われた通りに実行した。すると、剣は紫色の雷を帯び、周囲に雷撃を撒き散らし始めてしまう。
「うおっ!」
慌てて剣を落としたタイシ。が、その顔には失敗の憂いの色はなく、笑みを浮かべていた。
「魔法だ!俺が魔法を発動できたぞ!!!」
はしゃぎ始めるタイシの隣で玲二も発動に成功していた。彼が行なっているのは連接剣から鞭状の風の刃を飛ばすこと。狂気的な笑みを浮かべて無数の斬撃を繰り出していた。
結局この訓練はタイシ達が魔力切れで倒れるまで続き、翌日全く動かない体で自分たちの浅慮さを呪うことになるのであった。




