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進化した剣士の放浪記  作者: 片魔ラン
第零章 亡命と覚醒
14/21

継承

「ん〜」


 地面に身を横たわらせている、青髪の少年が身動ぎ、目を擦る。太陽の暖かい光に照らされているその顔は、日本人的な特徴を残しつつも、どこか人間離れした美しさを誇っている。精悍、と言うよりは優しくも凛々しい、と表現するべきであろうその顔立ちは、寝顔も非常に絵になっている。


 少年が根を擦り出してから一分ほど、漸くその双眸が開かれた。首だけを動かし、辺りを見渡す少年。


「てん、ごく…?」


 不意に呟いたその言葉は、続かない。やがて、既に開かれていた瞳に動揺の色が現れる。


「さっきと場所が変わってない!?生きてるのか!?」


 地面に手をつき、勢い良く体を起こした少年はなぜか今し方自分を支えた両の手を顔の前に持っていき、凝視する。


「腕がある…?脚も!?なんでだ!…さっきまでのは夢…?」


 少年は目を見開き、何やら呟いている。


「いや…でも防具の残骸がそこら中に散らばってるしそう言うわけではないのか…誰かが助けてくれて回復もしてくれた…?あり得るけど…まあ、いいやとりあえずステータス見てみるか」


 少年はステータスオープン、と小さく呟く。が、期待していた表示は出てこなかった。


「えっなんでだ…ステータスプレートを持って……あ…無くさないようにって部屋においてきたんだった………」


 どうやらアホの子のようだ。


「経験が反映されるステータス見ればなんかわかると思ったんだけど…うーんどうしようか。動くなって言われてたけど黒犬いないし、さっき勇気に見つかったの考えると結界とやらも効果ないんだろうし…まあ下手に動くよりは止まってる方がいっか。」


 少年はその場に留まり、助けを待つことに決めた。と、その時、ガサガサと何かが近づいてくる音を捉える。


「勇気が戻ってきた!?いや魔物か!?」


 聞こえてきた音に反応したした少年は、一気に立ち上がり、音の発生源に注意を向ける。そしてそのまま待つこと数秒、人影が飛び出して来た。相当な速度で突っ込んできたソレに、少年は避けられないと判断し、カウンターで迎え撃つことにした。力を溜め、拳を突き出しながら体を射出する少年。が、その動きは人影と衝突する瞬間に止められた。


 アイアンクローで運動を阻害され、抜け出そうとジタバタする少年。そこに、聞き覚えのある声がかけられる。


「おい、落ち着け。」


 少年は聞こえて来た声にピタリと動きを止め、驚きの声を発する。


「リリヤさん!」


 リリヤ、と呼ばれた男性は、アイアンクローで掴んでいた少年を手放した。


「よかっ、た…ってどうしたんですかその左腕!」


 タイシはどこからともなく現れたリリヤに歓喜し、焦った。リリヤは現在左腕を失い、鎧はズタボロになっているのだ。タイシをパニック状態にするには十分であった。


「タイシ、お前っ!」


 リリヤもまた、解放した少年の状態に驚く。露わになっている上半身は置いておくとして、リリヤの記憶の中のタイシは黒髪黒目であった。なのに、今のタイシは空のように青い髪に、金色の瞳の少年になっていた。顔の造詣もどこか変わっているようで、声を聞かなければタイシとはわからなかったかもしれない。


「何があったんだタ…」


 リリヤはそこまで言葉を発し、飲み込んだ。今、彼の横にはリッグがいるのだ。下手な情報は与えらない。が、時既に遅し。先程大声でタイシの名前を叫んでいたことにリリヤは気がつく。


「いやそんな事よりもだ。タイシ。ちょっといいか?」


 タイシはボロボロになって急に現れ、自分の現状を聞こうとしないリリヤに顔を歪めた。が、何らかの理由があるのだろう、と判断し、話に乗ることにした。


「なんですか?」


 反論することなく、素直に従ってくれたタイシにリリヤは内心ほっとし、話を続ける。


「ああ。俺はちょっと聖王国に戻る用事ができてな。隣にいるこいつと一緒に戻る。こいつはリッグだ。協力者でな、他の奴らにはリリヤはリッグと一緒に戻った、と言ってくれないか?」


 リリヤの願いにタイシは首を傾げる。


「通信魔道具で伝えればいいんじゃ?」


 リリヤはタイシの疑問に首を横に振る。


「さっき追手との戦いで壊れちまってな。連絡つけられないんだ。ちょっと急いでる案件でな。すまんが頼めるか?」

「そういう事なら…わかりました。それだけですか?」

「ああ…いや、もう一つあった。タイシ、右手を差し出せ。」

「?わかりました。」


 タイシはリリヤを訝し気に見つめながらも、素直に右手を前に出した。リリヤはそんな太子に小さく微笑みつつ、自分の右手の人差し指に嵌っていた指輪を口で引き抜き、右手で掴む。


「これはいつかの時の慰謝料だ。次いつ会えるのかわからねえからな。嵌ったら魔力を流し込め。」


 リリヤは差し出された右手の中指に指輪を嵌める。タイシは、言われた通りに魔力を通す。すると、脳内になんらかのリストが浮かんできた。


「こ、これは…?格納庫だ。生涯登録設定にしてある。もうお前が死ぬまで外れることはないだろう。仮に右手ごと失くしても、翌日にはお前の元に戻ってくる。中身はオマケだ。有効活用しろよ?」

「は、はあ…」


 魔力を通し、自分の指にピッタリと嵌った指輪を撫でながら、タイシは生返事をする。よくわかっていないのだ。


「最後にこのピアスだ。ちょっと痛いかもだが、我慢しろよ。」


 リリヤは腰のポーチから小さなピアスを取り出すと、タイシには有無を言わさず耳に刺した。


「いてっ」

「ほれこれでよし。ちょっと黒をイメージしてみろ。」


 タイシはリリヤを睨みつつも、言われた通り黒をイメージする。すると、タイシの髪の色が元の色に戻った。


「いいぞ。そのままキープしてろー。」


 リリヤは念じているためか、目をギュッと閉じているタイシのピアスに触れ、魔力を流し込む。そしてそれから一分ほど経つと、離れた。


「じゃあ、これで全部だ。そのピアスは基本的には外すな。外していいのはいつかお前がマルコリスって賢者のジジイに会ったときだけだ。わかったな?じゃあお前は向こうに真っ直ぐ歩け。暫くすれば馬車に行き当たるはずだ。」

「は、はい。」

「じゃあな。短い間だったけど楽しかったよ。教えたことは忘れるなよ!」

「はい。」


 リリヤは返事を聞き、満足そうに頷くと、タイシに背を向け、リッグと共に走り去っていった。残されたタイシはリリヤの言葉に感じた違和感に頭を悩ませながらも、やがてハッとし、リリヤに示された方向に走り始めた。



「なあリリヤ、さっきの子。もしかして…」


 木々の間を縫うように走りながら、リッグは問う。リリヤは若干顔を歪ませるも、覚悟を決めたのか口を開く。


「ああ…召喚者の一人だ…どうやらあいつが大当たり…いや、あいつからしたら大外れかもしれないな…どうする?俺を放って国王様に伝えに戻るか?今からなら亡命完了前に間に合うかもしれないぞ?」

「いや…やめておく。リリヤがあの指輪を託したってことは大事な人なんでしょ?情報を持って背を向けたら後ろから斬り殺されかねない。…元々命令に入ってなかったし契約外の仕事はやらないよ。あの指輪は出来れば回収してこいとは言われてるけどあの子が伝承通りなら生涯設定されて回収出来るはずがないしね。」

「大事な人、か…どうなんだろうな?」

「違うのかい?あの指輪はそう言うものだろう?」

「そうなんだけどな…まあ、そうかもしれないな。あいつはなんて言うかベンに似てるんだよ。」


 リリヤの独白にリッグは小さく目を見開く。


「ベンってリリヤの…」

「そう。俺の大事な弟の片割れ。俺があのくそったれな王国を抜け出した理由だ。」

「そうか…」


 リッグはそれ以上何も言わなかった。そこは踏み込んではいけない領域であると彼は理解していたのだ。その後、二人は無言のまま決戦の地へと駆けていった。


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