00. 幼い頃はみんな愚かで、無謀で、無知で、阿保で、馬鹿で、恥知らずで、クソ生意気な無法者。
これは…この出来事は、これから始まる物語に必要不可欠な出来事。
この出来事がなければこの物語は始まらないし、これから登場する 【彼ら】 や 【彼女たち】 の運命も、大きく変わっていたかもしれない…。
それはとある少年の幼き日の思い出を、遡る事から始まる━━━━。
此処はとある神社の境内。
境内はそこそこ広いが、建物などは少し古びていて、ちょっとこじんまりとしている。
けれど、神社自体は由緒正しき歴史情緒溢れる神社で、地元の人からも長く愛され、崇められ、慕われる、とっても素敵な場所。
そんな神社の境内の奥の奥。この神社の代名詞とも象徴とも言える、とても立派で、かなり大きな 【御神木】 がある。
その御神木を囲むように、御神木を見上げる複数の小さな人影があった。
よく見たら子供たちのようで、歳は6~7才ぐらいだろうか。
みんな歳は一緒ぐらいだが、背丈は様々で、ちょっと大きい子や、みんなと比べて少し小さい子もいる。
更に子供たちの特徴として面白いのは、子供たちみんな違う髪色をしていること。
赤い髪の子もいれば、青い髪の子もいる。他に、黄色・緑・紫・白・黒と色取り取りの子がいる。
その中の赤い髪の子が御神木を見上げながら、大きな声をあげた。
「おーい、太郎ぉ~! あぶねぇーから降りてこいよぉー! じゃねぇーとまた、“善じい”に叱られるぞぉー!」
どうやら御神木に誰かが登っているようで、今度は黄色の髪の子が声を張る。
「タロく~ん! あか君の言うとおりッスよぉー! いくらタロ君が身体が頑丈だからって、その高さから落ちたら無事じゃ済まないッスよぉー!」
御神木に登っている人物を、本当に心配そうに見つめる黄色の髪の子。そんな黄色の髪の子をチラッと見ながら、青い髪の子が呟く。
「光、たぶん太郎は大丈夫…。 光の言うとおり、あの高さから落ちたら普通の人は無事じゃ済まない。だけど太郎だから死んだりはしないと思う……たぶん…。 問題なのは━━━」
「いやいやいや!何言うてんねんアオやん! あの高さはアカンレベルやって!落っこちたら、いくらたろキチでもアウトや! ━━アオやん、たろキチの事…ウル○ラマンか何かと勘違いしてへん?」
紫髪の子が青い髪の子にツッコミを入れる。 ツッコまれた青い髪の子はキョトンとして、首を傾げながら言った。
「えっ…違うの…? この前太郎が、『オレはダ○程度の怪獣なら簡単に倒せる!なんてたってオレは、“タロウ”だからなッ!』って言ってたから、てっきり……」
「何で○ダやねん!そこはバルタン○人やろ! てか作品全然違うやん!?フツーそうゆーなら、“末っ子”の敵の名をあげーや! …てか弱ッ!!相手のレベル低ッ! それに“怪獣”やのーて、“怪人”やからな!」
「友世…ちょっとうるさい……」
「なんやてッ!?」
まるで漫才の様なやりとりをする二人。とても子供がする会話の内容とは思えないが、二人ともまだ男の子の『シンボル』に『ジャングル』は生えていない。
未だに青い髪の子にギャーギャー何か喚いてる紫髪の子の横で、オドオドと御神木を見上げながら、キョロキョロ周りを気にしている緑髪の子がいた。
他のみんなよりちょっと小さくて可愛らしいその子は、今にでも泣き出しそうな表情で何度も周りを気にしては、御神木を見上げ、声を震わせて言う。
「ねっ、ねぇ……やめさせようよぉ…。落ちたら太郎……本当に死んじゃうよぉ…? それに…神主さんに見つかったらまた、親呼ばれて怒られるよ…! ぼく…またお父さんに怒られるのヤダよぉ……」
緑髪の子の発言に、横に立っていた白髪の子が言葉を返す。
「諦めよう若葉。太郎が一度『やるっ!・するっ!』って言い出したらこっちの言う事なんて聞かないってこと、若葉も知ってるでしょう? だいじょうぶ大丈夫♪ 太郎は木登り得意だし、神主さんもさっき出掛けて行くの見えたからさ! ━━それに……」
「それに?」
「怒られる時は、みぃ~んなッ!一緒だよ♪」
「だからそれが嫌なんだってばッ! ふぇええ~ん!おかあさぁあ~ん!」
「あははは! 怒られるだけで済んだら良いよね♪」
「怒られる以上の事があるの!? もうやだぁ~、お家に帰るぅ~!」
半べそ状態の緑髪の子を見ながら、クスクス笑う白髪の子。その頬はほんのりと笑窪が出来て可愛らしい。
その白髪の子を窘めるか様に、子供たちの中で一番背の高い黒髪の子が発言をする。
「魅雪…あんまり若葉を苛めるな。それに若葉も、お前も直ぐに泣こうとするな。男だろう? そんなんじゃ、お前のお父上の様な、立派な人にはなれないぞ!」
「だっ、だってクロくん!ユキくんがぁ~……」
「だっても、へったくれもない!」
「うっ、うん!わかったよ!」
「……よし!それで良い。 お前は泣き虫だが、何でも素直に聞き入れてくれるところは、私は好きだ。 …魅雪、お前もだぞ! 若葉を揶揄うのも、ほどほどにしておけ。まあ、お前なりのスキンシップなのは分かるが、度が過ぎるのも考えものだぞ!わかったか?」
「はぁ~い、分かりましたぁ♪ ごめんね、若葉!」
緑髪の子に頭を下げる白髪の子。それを見て緑髪の子は慌てて頭をあげるよう、白髪の子に促す。
その様子を見ていた黒髪の子は、フッ! っと軽く笑みを浮かべた後、少し険しい表情になりながら御神木を見上げて、小さく呟いた。
「━━さて。そろそろ事の原因の、“おイタ”が過ぎる悪ガキに、注意しないとだな…。 って私もその悪ガキのひとりか…」
黒髪の子は、すぅ~… と深呼吸をひとつしたあと、御神木に攀じ登っている人物に、大きな声で呼び掛ける。
「太郎ぉー!聞こえるかー!お前にひとつ言っておく事があるぅー! 良いかぁー!よく聞けよぉー!」
間を少しおいたあと、言葉を続ける黒髪の子。その黒髪の子の声が届いているのか分からないが、“太郎”と呼ばれた人物は、尚も御神木を登り続けている。
「お前が何をするかは勝手だ!お前の好きなようにすれば良い! 私たちは……少なからず私は、何も言うつもりはない! ━━がッ!! これ以上私たちに迷惑を…心配を掛けるのをやめてもらえないか!」