天、空、ソラ
「君、過去に未練あるでしょ?」
唐突にその子供から言われた一言が図星で、動揺が隠せず言葉も出ない。
でも、まだ状況把握が追い付いていない以上、脳内の動きがかなり遅く、理解するまでに時間がかかった。
確かに未練はある。
それは、考えるまでもなく姉のことだった。
そのことを悔やんでも悔やみきれないことは分かっている。
だから、ずっと後悔している。
それは、楽しい時ですら、私の脳裏に姉の姿が焼き付けられているほどだった。
それほど、常に脳裏には姉の姿が焼き付けられていたのだ。
よく考えれば未練がましいだけの人間になっているではないか。
とはいえ、今回突き詰めるべき点はそれではなかった。
真の突き詰めるべき点。
それは、あの子供がなぜ分かったのだろうか、という点だった。
あくまでも、私は何も言っていない。
それだけは確かだった。
疑問に疑問が重なり、私の脳内はさらに混乱状態。
今の自分は、何かに縛られて自我を見失っていた。
そして、身体が自分の意思で動かなくなっていた。
「君にわかるの?」
私は動揺を隠せず、その勢いで聞いた。
当然のことながら、姉との件をその子に言っていないため、なぜその子が知っているのかを不思議に思った。
「僕、心は読めないけど、過去や未来は読めるんだ。」
「過去や未来が読めるなんて、人間じゃないよ。」
思ったことをすぐ口に出して言うことは避けてきたくせに、今回ばかりは違った。
その言葉を聞いて、心のどこかでチャンスだと思う自分がいた。
その子が未来を教えてくれさえすれば、姉との過去を変えられると思った。
あからさまに考えてみれば、そんなはずもないのだけれど、今の自分には、根拠のない考えでも疑うことは出来なかった。
そんな時、突然その子が衝撃的なことを言った。
「だって僕は人間じゃないもの。」
「えっ?」
私は目を丸くし、開いた口が閉まらなかった。
私は、人間じゃなければ誰だよ、と思った。
でも、小説で妖精が出てくることもあったから、冒険のつもりで少し信じてみたいとも思った。
なにしろ、その方が私にとっても好都合であったから。
「僕は妖精のソラ。永遠の5歳だよ。」
「ソラさんは、見えるの?私の過去や未来も。」
私は、ソラさんの自己紹介を聞くことなどそっちのけで過去や未来が読めるということについて尋ねた。
私の過去や未来全てを見透かされているようで少し怖かった。
だが、それよりも自分の過去や未来を知りたい気持ちの方が大きかった。
だから、迷わず聞いた。
脳内であれやこれやと考える前に。
「そうだよ。分かるんだ…。」
すると、案外すぐに答えてくれたものだから、聞いた私も驚いた。
それと同時に、これこそ本当のチャンスだと思い、このチャンスを活かさない手はないと思った。
『もしよかったらさ…「ごめんね。分かるけど、守秘義務があるから言えないんだ。」
ソラさんは少し困ったように眉をひそめた。
そして、私の考えを読むかのように言い切るまえに答えられた。
そうか、未来が読めるから、言い切る前に発言が分かる。
だから、言い切る前に言葉を返すことはソラさんにとっては当たり前なのか。
無理にでも理由を見つけ、ソラさんの答えを受け止めた。
私は、ソラさんの表情を見るなり申し訳ないなと思ってしまった。
「大丈夫。未来を知ってしまったら、人生楽しくなくなっちゃうもんね。」
とはいえ、それが本心ではなかった。
私は言った瞬間に分かった。
今の自分がとてつもなく卑怯で愚かだということに。
都合の良いときだけ利用する人を見ては軽蔑してきた私が、その人たちと同じ行動に出ているではないか。
私は自分勝手ではないか、と。
でも、ソラさんに迷惑はかけたくなかったために、本心を隠した。
もっと突き詰めれば答えてくれたかもしれない。
正直そんな愚かな考えも脳裏には存在していた。
だが、自分が本心を隠すことで、ソラさんの迷惑にならなければそれでよかった。
チャンスは消えても、姉に向き合えばなんとかなる。
ただ、勇気が出ないだけだから。
なぜだろう。
そう思うと、少しだけ空が明るく見えた。