自然
屋上には、大きな木を中心に常緑樹が美しい自然が広がっていた。
モノクロの外壁が、芸術要素を付け足している。
休憩用のベンチも景色と調和するように存在していた。
ここは、心が癒えると有名な庭だろうか。
少なくとも、ここが病院内だとは思えなかった。
外気は冷えきっていて、吐く息で顔が隠れてしまいそう。
肌を刺すように冷えた空気に耐えきれなくなった手は凍り、慌てて手を服へ引っ込める。
久しぶりに寒さに触れた私には、かなり過酷なものだった。
だが、それ以上に自然が造り出す芸術に引き込まれていく。
それは自制できるようなものではなかった。
その世界の餌食となることにすら快感を覚え、心の底から欲望が溢れ出していく。
思いよりも先に身体がそれらを欲していた。
そんなことを実感していると、寒いという感覚も次第に消えていた。
美しさに囚われてしまえば、寒さは気にならないどころか、寒ささえも美に見えてくるのか。
新たな発見に喜びが込み上げてきた。
ここで粉雪でも舞えば芸術味もさらに増すのだろうけれど、大気もそこまで冷え切ってはなかったらしい。一向に粉雪の気配はなかった。
だが、それだけで十分だった。
わずかな幸せも全てが一生ものの思い出だ。
少しの発見でも、少しの喜びでも沢山の幸せに変えればいい。
自分の考え方次第なんだ。
この景色だって、偶然にも自然が作り出した全く同じものなどない奇跡の塊なのだ。
たった一瞬で変わってしまうが、その景色に遭遇できることが幸せなのだ。
いつしか、そう思えるようになっていた。
そして、今日の自分は昨日よりも前向きになれたような気がした。