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記憶
「想太さん…。」
たとえうまく話せなくても、体が動かなくても、想太さんの存在は鮮明に覚えていた。
想太さんと過ごした場所も、想太さんから教わったことも、「普通ではない世界」での思い出も。
全てがはっきりと脳内に焼き付いていた。
だからこそ、今言おうと思ってはいなかったことまでついつい口に出してしまっていた。
姉は、私の発した言葉の意味を理解していない様子だった。
口を開けたまま、私と目を合わせている。
だが、少しすると気付いたらしく、分かったことを隠すかのように私から目を逸らした。
その後、姉は何も言わなかった。
その反応を見て、姉は想太さんの居場所や状態を知らないのだと思った。
だからこそ、姉から詳しい情報を求めるのは断念した。
三年間抱えてきたであろう姉のためにも。これ以上姉も自分も苦しめないためにも。