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幸せ
「急になんだよ」
想太さんは笑った。
その声に違和感を覚えた。
想太さんの涙の混ざったような声に、私は何と返せばいいのかわからなくなった。
想太さんにまで辛い思いをさせてしまっている。
そう思った。
あの時、想太さんに出会わなければこんな思いをすることもなかった。
今頃、当たり前のように後悔なくこの世界を去っていただろう。
現実に対する不安はあろうとも、この世界で思い出はない私には容易なことだ。
ただ、この世界に居続けたい。
想太さんと一緒に過ごしたい。
まだ、たくさんのことを教わりたい。
この思いが私を縛っていた。
それ程まで、想太さんに執着していた。
想太さんのシルエットも一つ一つの言葉も。
全てを脳裏に焼き付ける。
この思い出を消したくはなかった。
十年後、二十年後。
年齢を重ねるとともに、この思い出が消えていく自分が怖かった。
想太さんとの別れに苦しむ私ではあったが、出会わなければよかったとは思わなかった。
想太さんに出会うことで変われた。
新しい未来を想像できた。
その事実に変わりはなかった。