日常
何故だろう、常夜灯の裏はやけに落ち着いた。
人からは見えにくいため、自分がこの世界にただ一人だけ存在しているようだった。
常夜灯の裏は、ひとりの世界を楽しむことができるとっておきの場所なのかもしれない。
だから、生きづらい世の中を忘れられる。
そんな場所こそ、私の求めていたものだったのだろう。
私が絶望の中で見つけた唯一の光だった。
そんなことをしている間にも時は刻々と流れ、時間を無駄に過ごす私を世の中の埃のように思ったのか、時間さえも私の存在を無視する。
時間も分かっているのだろう。
私の存在について。
友達にも家族にさえも必要とされない私を。
勿論、こんな私も誕生の瞬間から腐りきった人間ではなかった。
至って正常な人間で、少なからず輝いていた。
だが、色々な経緯を重ねるごとにこのありさまとなってしまったのだ。
その中でも唯一、その後の人生を大きく揺るがす出来事があった。
それは、遡ること3年。
それは、大切な姉を傷つけた日だ。
とはいえ、その件の原因はすべて自分にあった。
だからこそ、私がどうにかしなければ、という思いがあった。
幸いなことに、口論の内容は大したものでもなかった。
ただ、思春期のせいか、少しのことに自分の考えや感情を抑えることができなかっただけだ。
だが、行き過ぎた言動で姉を傷つけたのは事実だ。
私のことを考えて叱ってくれた姉に、初めて反発したのだから。
それを機に気持ちぶつけた側の私は、姉の前では塞ぎ込むようになってしまったのだ。
初めてのあまり、どう謝ればいいのかが分からない。
こんな私を姉はどう思っているのだろうか。
想像するだけで怖かった。
それから、感情を姉にぶつけないことにした。
そうすることで姉との口論や、さらに溝が深くなることを避けられると思った。
だが、言葉には感情を伴う。
だからこそ、姉との会話を封印してしまった。
話したい気持ちは山々なのだが、言葉が喉に詰まって、「おはよう」の4文字さえも言えなくなってしまった。
過ぎていく時間が、より一層溝を深めた。