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水晶
坂の終盤から、私の手元で何かが輝いていた。
それが、しばらく続くものだから不思議に思い目線を下げる。
すると、そこには透けた私の指先が電灯に照らされ、輝いていた。
意外にもショックは受けなかった。
水晶玉のように透ける手は、温かさも手の感覚もあった。透けてはいるものの、その他はいつもと何一つ変わらなかった。
透けた手が夜の街に映えていた。
そして、思い出した。
「普通ではない世界」の説明書に書いてあった現象のような気がした。
注意事項の多さに飛ばし読みをしていただろう私だったが、身に覚えがあった。
「タイムリミットが近づくと身体が透けていく」
そんな内容だったような気がした。
その通り、時間の経過とともに透ける範囲は広くなった。
常夜灯に着くや否や、段差に腰をかけると海を見つめたまま大きく息を吸う。
残された時間を一瞬たりとも無駄にしたくはなかった。
タイムリミットは2人に構うことなく、刻々と迫ってきていた。