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尊敬
想太さんが「普通ではない世界」にかけていた思いに胸が熱くなった。
私は、どんな表情や口調で向き合っていいのかすらも分からず、下を向いたまま黙り込んだ。
二度と会うことの出来ない母親との再会を望んでいた想太さんと比べて、私はどれだけ愚かなことだろう。
第一にそう思った。
想太さんの私情を知らないことを良いことに、私は想太さんに気持ちをぶつけてばかりいた。
そして、知らず知らずのうちに想太さんを傷付けてしまっていた。
想太さんが正面から向き合ってくれたのは、自分と同じ過ちを繰り返してもらいたくなかったからに違いない。
たとえ初対面の相手だろうが、自分が嫌われようが揺るがない。それほど強い思いだったのだ。
それこそが、自分の過去に向き合えているなによりの証拠だった。