本当は···
「私、本当姉のことが好きだった。あの日だって、傷つける気はなかった。」
夕日を見て感情的になってしまったせいか、無意識のうちに言葉が出てしまっていた。
「…。」
想太は静かにこくんと頷く。
微妙に顔が暗くなっていく想太にづくも、構わず続ける。
「いつも寄り添ってくれる姉の存在が、いつの間にか当たり前になってた。だからこそ、言いすぎちゃうことも増えた。」
「当たり前にみえて当たり前ではないもの…。」
「えっ?」
私の言葉を繰り返すかのように発した想太さんの言葉が胸に突き刺さる。
この話題を切り出す前後の想太さんの表情の変化には気付いていた。
だからこそ、入ってはいけない範囲にまで踏み込んでしまったのではないか、と不安になった。
想太さんの身にも同じような何かがあったのかもしれない。
同時にそれを確信した。
想太さんの過去を知りたいと思った。
これが迷惑なことは知っていたから切り出さなかったけれど、ずっと気にはなっていた。
正反対の世界に生きているとも思える想太さんが、私と同じ境遇なわけはない。
甘えている私を見て想太さんが怒ったのは、純粋に腹が立っただけ。
少し前の私ならそう思っていただろう。
だが、そんな風には思えなかった。
「俺もだ。何気ない発言でお袋を傷付けてた。俺も当たり前に埋もれてたんだよな。」
「えっ?」
私が気になっていたタイミングで想太さんは自ら話を切り出した。
やはり、想太さんの過去にも抱えているものがあった。
その話を聞きたいと思った。
次は私が力になる番だとも思った。
何もできないであろう私が、なぜだか自信に満ち溢れていた。
「俺がとどめを刺したんだ。あの日。」
「あの日…。」
『あの日』という言葉に、反応せずにはいられなかった。
続きが早く聞きたかった。
だが、想太さんの辛い過去を思い出させるようなことを急かすなど、到底できるはずもなかった。
ただ、時だけが急いで過ぎていった。