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需要
「行きたい場所があるんだ。」
特に行きたい場所があったわけではなかった。
ただ、想太さんと共に時を刻むことができればそれでよかった。
「えっ?」
案の定、想太さんは突然の状況に理解が追いついてないとでも言うような反応をした。
だが、その反応にも無理はない。
そもそも、空腹を満たすために喫茶店で時間を共にすることとなった。
だが、それ以上の何者でもない。
それだけの関係だったのだ。
勿論、食事が済めば残された時間の使い方は個々で決める。現実に戻るも、この世界に留まるも、全ては1人で過ごす大前提の決断だ。
「勿論、嫌だったらいいんだ。」
「いや、俺は星と過ごしたい。」
『星と過ごしたい』
その言葉が信じられなかった。
私が必要とされているようで嬉しかった。
私は想太さんに何かを返せるわけではない。
だからこそ、私の存在は想太さんにとって重りでしかないと思っていた。
この言葉から、本当に私を必要としてくれているという確証はない。だが、それでよかった。
現実の世界でも想太さんの中に私の存在が残っていてくれるのなら。
その思いも込めて、残された時間を有意義に使うことを決めた。