居場所
その日、私は夜の街並みに埋もれていた。
個々が輝きを放ち、魅力を引き立てている満点の星空。
調合するように鮮やかでかすかな光を灯す街灯。
まるで異世界のような自然が偶然にも生み出す景色に私だけが佇んでいるようだった。
とはいえ、いつもの私なら景色と共存する時間は、不快で退屈な時間だったのかもしれない。
だが、今日は意外にも不快感はなかった。
景色に対するプラスの感情はなくとも、この景色に埋もれ続けたいとだけは思った。
なぜだろう。
そんな感情もある中、私がこの世界にいる訳の分からない罪悪感に追い込まれたのは。
普段は感情的にならない私がこんなにも涙を流しながら星空を眺めているのは。
その事実を何としても受け止めたくはなかった。
例え誰かに見られているわけもないこの状況でも、私の高すぎるプライドが公の場で涙を流すということを許さなかった。
目に虫が入ったことにでもしようか。
ごみが目に入ったことにでもしておこうか。
言い訳になるなら何でもよかった。
たとえ、極端に信じがたい言い訳でもよかった。
そんな考えに左右されながら、ひたすら歩いた。
足の向くままさ迷い続けるかのように。
そんな時、突如として自分には受け入れがたい事実が浮かんだ。
私には帰る場所もなく、必要とされる場所もないのではないか、と。
私もそこまで落ちこぼれではないため、これが事実であることには瞬時に察しがついた。
それは私の単なる勘ではあったものの、考えるまでもないようなものだから、意外にもその場でショックを受けることはなかった。
的は射ていたし、薄々自分でも気付いていたことだったために反論のしようもない。
たとえ根拠は無くても、自分自身が証明しているようなものだから、それは事実なのだと思う。
再出発のためにこの事実を受け止めた後、私はどう生きていけばいいのだろうか。
それからもただ歩き続けた。
ここまで来れば考えることは消え去り、無心だった。
考えることで複雑化するならば、考えずにいることで何かが自分への有利に変わるのではないか。
半ば投げやりにそう思った。
そして、無心のままに彷徨い、たどり着いたのは常夜灯という名の「一つの光」だった。
辺りが暗闇に呑まれる中、オレンジ色の光が私を導くかのように照っていた。
自宅からも学校からも遠いはずの常夜灯。
自分の意志では来るはずのない場所だった。
しばしば来ることはあっても、それらは全て自分の意志ではなかった。
きっと、今回も虫が月明かりと勘違いして灯りにたどり着くように、私も常夜灯の光に寄せ付けられたのだろう。
月に飛んでいきたいのだろうか。
さては、別世界へ飛んでいきたいのだろうか。
別に何かを求めて歩いたわけではなかった。
だが、気付けばそこは常夜灯だったのだ。
この様はとても人間だとは言えるものではない。
まるで、心だけではなく、私自身が虫に乗っ取られてしまったかのような心地だ。
不気味さと自我を失ってしまうのではないかという恐怖を身にまとっていた。
いつから人間らしさまで失ってしまったのか。
答えのない自問自答に、心がえぐられた。