珈琲
それからも涙をお供にコロッケを頬張った。
たとえ思い出の味も、頬張ることで少しでも軽くなると思った。
でも、違った。
噛むスピードは問わず、咀嚼の度に姉との空白の時間をも咀嚼していた。
これまでしてきた自分の惨めな行動すべてが自分を痛めつけてくる。
想太さんもこんな私を前にして言葉を失ったのか、あれから何度か目は合うものの、口は一切開かなかった。
「これ、試飲してほしいんだが。」
そう言い、マスターが珈琲の入った花柄のカップを机上に置いた。
私はタイミングに驚く。
きっと、不穏な空気に気づいたマスターが気を遣ってくれたのだ。
正直に言えば、珈琲は苦手だ。
だが、マスター直々にお願いされれば断れるわけもない。
どうせ社会人にでもなれば、接待等で飲まなければならないときがくる。
ならば、少しずつ慣らしていこうじゃないか。
無理矢理にでも意味を見つけ出した。
「ありがとうございます。」
そう言うと、煎り立ての強い珈琲の香りを全身で感じながら飲み干した。
気分が悪くなるのではないかとも思った。
だが、その珈琲は予想をはるかに超える味だった。
ほんのり苦い。
そしてほんのり甘い。
両方を兼ね備えた、どの世代でも楽しめる新手の珈琲。
その一杯は、コーヒーが得意でない私の喉も滑らかに流れた。