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re.time  作者: 新屋はる
First and last encounter
27/55

コロッケ

「お待ちどおさま。お前もやるなぁ、お嬢さんを連れてきて。」


湯気の立ち上るコロッケを置くと、先ほどまで客に無関心だったマスターがニヤリとしてみせた。

瑠璃色を基調とした器をステージにコロッケが生き生きと踊る。

ゆったりとしたテンポの音楽の流れる店内は、コロッケの匂いが充満していた。

私のアロマのような存在なのかもしれない。

更に感じるべく目を瞑れば、着実に心が癒えていくのを感じた。


「違いますよ。ただの知り合いです。」


「そうか。まぁごゆっくり。」


マスターはその他に何かを言うわけではなく、想太が否定をすると残念そうに再び定位置に着いた。




そこで我に返る。

想太さんはただの知り合いなのだ。

一生懸命伝えてくれたのも全て、知り合いである私のためだったのだ。

それも含めると、ますます想太さんは優しい人にしか見えなくなった。


それと同時に、その優しさの裏に過去があるのではないか、とも思った。

ただ優しいだけの人間などいる訳がない。

それが私の経験上、現時点で証明されていることだった。


とはいえ、想太と私は知り合い同士に過ぎないのだから、無理に自ら尋ねようとは思わなかった。


「早く食べよう。冷めたら美味しいものも美味しくなくなるぞ。」


「そうだね。」


湯気の立ち上るコロッケを一口大に切る。

一口でも口にしてしまえば、肉から染み出す旨味とジャガイモの甘味に中毒になる。

時折、形の残ったジャガイモの食感がマイルドな舌触りを更に引き立てる。

余分なものは一切入っておらず、素材に無駄がない。

コロッケにこだわり抜いた結晶のような気がする。


「美味しい。」


「だろ。ここのコロッケは格別なんだ。」


その言葉を聞きつつも、私は食べることに夢中だった。

全てを包み込むかのような味に溢れる感情を抑えられることはできなかった。

涙で塩気の効きすぎたコロッケが今の私にはちょうど良かった。

それが、幼いころに家族の作ってくれた味に似ていた。

懐かしさを覚えるその味に、過去の自分をもフラッシュバックさせてしまった。


このコロッケが私に与えてくれたものはどうやら印象に残る味だけではないみたいだ。



その面も踏まえると、コロッケが人気なのも分かる気がした。







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