感謝
姉に会えないと言われていても、どうしてもその事実を受け入れたくない理由があった。
それは、予想が確信に変わった時も思い続けていたことだった。
その中には、私なりの覚悟もあった。
「過去を変えれば今が変わる。だから、このチャンスを掴みたかったんだ。」
想太さんに打ち明けた。
言いたくもなかったことだけれど、想太さんも話してくれたのだから私が言わないのは不平等だと思った。
何かを言えば何か助けてくれるかもしれない。
またもや甘い考えで発言をしてしまった。
「チャンスを願うばかりじゃなくて、努力してみなよ。星の努力で出来ないことはないよ。」
わずかでも、想太さんなら賛成してくれると思っていた。
でも違った。
考えを根本から否定されたような気がした。
またもや甘く考えすぎてしまったようだ。
-私のことなど所詮、誰も気にならないもんね。
やはり世の中の埃だもんね。
そんな思いを抱かずにはいられなかった。
そうとしか受け止められない自分に対するいら立ちも同時に湧き出てきた。
『星の努力でできないことはない』という発言がいかにも他人事のように聞こえ、癇に障った。
だから、私も反抗せずにはいられなかった。
勝ち負けの問題ではないが、このままだと私の負けのような気がした。
いくら初対面の人でも、あんな物言いをされれば、対抗心を燃やすにも無理はない。
「無理に決まってるじゃん。」
突如、姉とのことがフラッシュバックした。
そのせいで、予想を遥かに超える、想太を突き放すような口調で返してしまった。
今日会ったばかりの想太さんに、決めつけられる理由が分からなかった。
私のことを分かりもしないくせに、独断と偏見で決めつけるとは礼儀がないどころではない。
だが、そんな怒りもその内収まり、想太さんにきつく言い放ってしまったことを後悔し始めた。
私は悪くない。
言い訳を探した。
でも、同じ境遇だからこそ、心配してくれているようで怒り続けることはできなかった。
頭の片隅で姉と想太が交互に映った。
「努力してから言えよ。」
想太さんは本気で怒っていた。
そこまで言い返したわけでもなかったのに、想太さんは本気だった。
私がどんな思いでいるかも知らないで、想太さんは反省の気もなかった私を怒った。
初めて会った日に人を怒れることは凄い勇気のいることだ。
だからこそ、私もこのくらいでは怒ってはいられないな、と思った。
その思いが沸いてきたのは、想太さんが本気で怒る裏側にそれなりの理由があるのではないか、と私なりに悟ったからだ。
「ごめん。俺、言い過ぎた。」
想太さんは私の顔を見るなり、すぐに謝ってきた。
私は別にそこまで気にしてもいなかったから、「大丈夫。」とだけ答えた。
すると、想太さんはすぐに訂正した。
「ちゃんと努力すれば変わるさ。会えるんだから。会えるだけチャンスはあるんだよ。」
「想太さんは会えないの?」
尋ねて後悔した。
親しくなったわけでもないのに、聞いてはならない範囲にまで踏み込んでしまった。
それは、発言の直後、想太さんの言った意味が分かってしまったからだ。
そう思えば、これまでの想太さんの行動や言動とも一致する。
初対面の私に真剣に向き合ってくれたことも、助言してくれたことも。
「俺はもう会えない。どれだけ後悔しても無駄なだけだ。感謝したくても謝りたくても、会えないんだから。」
私は、想太さんに辛い思い出をフラッシュバックさせてしまった。
きっと、自分だと耐えられないはずなのに。
「ごめんね。聞いちゃいけなかったよね。」
「星が気にすることじゃないよ。俺が素直になってれば今頃後悔してないだろうと思うだけさ。人って案外何年経っても変われないんだよな。時は止まったままでさ。変わろうとしないんだよな。」
案外、想太さんが気にした顔をしなかった。
こんなにも過去の自分を振り返れるとは、自分に向き合えている証だと思った。
想太さんを見ては遥か上の存在だということを痛感していた。
そんな私は想太さんに比べると何もかもが天と地の差だった。